著者 : 藤沢周
谷戸、切通し、やぐら、古刹と地蔵。 喧噪の都市の奥深く透視される悠久の中世の時間。 魔術たる作家の筆が、もののふの声を呼びおこす。 観光地カマクラの白日の下に、屍の蔵たる鎌倉の、幽玄なる景色がここに現われる。 (富岡幸一郎) 扇ガ谷、十王岩、袖塚、唐糸、飢渇畠、太刀洗、腹切やぐら、化粧坂……鎌倉の地に現存する「八景」は古の戦いと悲哀の歴史を今日まで伝えている。 付録 文学における土地の力 対談 藤沢 周×佐藤洋二郎 「季刊文科」連載作が待望の単行本化! 扇ガ谷 十王岩 袖 塚 唐 糸 飢渇畠 太刀洗 腹切やぐら 化粧坂 付録 文学における土地の力 対談 藤沢 周×佐藤洋二郎
妻子と別居中の榊は、恋人を東京に残したまま、地霊うごめく土地を遍歴する。秋田の娼家と清廉な女子高生たち、厳冬の佐渡で理容店の女主人が持つ剃刀、三河八橋で一夜を共にした人妻の乳房、非在ゆえに一層ふくらむ女たちの気配ー官能と死のあわいから異界が立ち現われる瞬間を描く、藤沢周の本格小説集。
鎌倉のあばら屋で暮らす寒河江は、ドラマや物語に興味を持てなくなった小説家。ふと訪れた夕刻の古刹の境内、朦朧とした記憶…「不埒な人」…女の囁きが男の脳裏に響くとき、小説家の「生」は、現と闇の狭間を彷徨い出す。襲って来る新潟の記憶、猥雑な渋谷の風景、浴室に棲まう巨大な土蜘蛛…狂っているのは、世界か、それとも「私」かー『ブエノスアイレス午前零時』に継ぐ、新たな代表作!
葬儀ディレクター・倉木和利の前に現れた不審な男は、いきなり「私の葬式をあげて欲しい」と切り出した。この男によって「ダビデの心臓」なる秘密グループに巻き込まれた倉木は、そこが一流の人物のみで構成され、自殺をゲームとして楽しむ集団だと知る。死と生の狭間を楽しむ倒錯した快楽の果てに倉木が見たものはー。極限の生を描いた話題作が文庫化
羽田融はヒップホップに夢中な北鎌倉学院高校二年生。矢田部研吾はアルコール依存症で失職、今は警備員をしながら同校剣道部のコーチを務める。友人に道場に引っ張られ、渋々竹刀を握った融の姿に、研吾は「殺人刀」の遣い手と懼れられた父・将造と同じ天性の剣士を見た。剣豪小説の新時代を切り拓いた傑作。
雪深いホテル。古いダンスホール…地方でくすぶる従業員カザマは、梅毒と噂される盲目の老嬢ミツコに出会う。ある夜、孤独な彼がミツコを誘い二人でタンゴを踊る時、ブエノスアイレスにも雪が降る。ベストセラーとなったリリカル・ハードボイルドな芥川賞受賞作。
羽田融はラップに夢中な高校二年生。ひょんなことから剣道をはじめるが、剣道部のコーチにして「以前、父親を殺したらしい」矢田部研吾からいきなり一本取る。ところが「マグレだよ」と先輩に言われ…。ラップ命の少年と人生にも剣にも倦んだ男の灼熱の季節と運命の打ち合いまでを揺るぎない文章で構築した超純文学。
世界が世界になる一歩手前の音を、鳴らしたいーあるビルを「落とす」ため、不動産屋の男は祖母の形見の三味線を手に、十年ぶりに故郷・新潟を訪れた。競売物件を巡り奔走する中で出会った、ロシアの女性エレーナとバーのマスター渡辺。再び「音」に取り憑かれた男が辿り着いた「果て」の世界とは。
死よりも甘い快楽(トリップ)、愛よりも残酷な涅槃(ニルヴァーナ)へ-。究極のドラッグ=SATORIをのむとき、脳内にひびく老師(グル)の教え。90年代をふるわせる芥川賞候補作家の不敵な挑発。