著者 : 蝉谷めぐ実
すべては奴の筋書きどおりなのかーー狂気と喝采に満ちた舞台の幕が今上がる。江戸森田座気鋭の役者・今村扇五郎にお熱のお春が、女房の座を狙って近づいたのは……。芸を追求してやまない扇五郎に魅せられた面々の、狂ってゆく人生の歯車。ある日、若手役者の他殺体があがり、ついには扇五郎本人もーー「芸のため」ならどこまでの所業が許されるのか。芝居の虚実を濃密に描き切ったエンタメ時代小説。
歴史小説家たちが紡ぐ時代の違う五つの物語が、あるひとつの「怪異」で繋がる。 読後に訪れるこの震えは、恐怖か、驚愕かーー? 異端にして傑作の歴史小説集、ここに誕生。 5つの「畏怖」が、この国の歴史を塗り替える 矢野 隆 有我 --鎌倉時代、壱岐。元寇に抗う男に訪れたある異常。 天野純希 死霊の山 --室町時代、近江比叡山。霊峰に現れた狐憑きの正体は。 西條奈加 土筆の指 --江戸時代初期 中部地方。墓の土饅頭から土筆が生え……。 蝉谷めぐ実 肉当て京伝 --江戸時代後期、江戸市中。山東京伝の妻は、自らを「人魚」だという。 澤田瞳子 ねむり猫 --江戸時代末期、大奥。城内に現れる不可思議な病。
「命を天秤にかけてこそ、示せるものがあるでしょう?」 ときは文政、ところは江戸。 心優しき鳥屋の藤九郎と、稀代の女形だった元役者の魚之助のもとに、中村座の座元から事件の話が持ち込まれた。 舞台の幕が下りたとき、首の骨がぽっきり折られ、両耳から棒が突き出た死体が、客席に転がっていたという。これは何かの見立て殺しか。 演目は「仮名手本忠臣蔵」。死人が出るのはこれで二人目。 真相解明に乗り出したふたりだったが、芸に、恋に、義に、忠に生きる人の姿が、彼らの心を揺さぶってーー。 『化け者心中』『おんなの女房』で話題をさらった新鋭が放つ、極上上吉のエンタメ時代小説!
ときは文政、ところは江戸。武家の娘・志乃は、歌舞伎を知らないままに役者のもとへ嫁ぐ。夫となった喜多村燕弥は、江戸三座のひとつ、森田座で評判の女形。家でも女としてふるまう、女よりも美しい燕弥を前に、志乃は尻を落ち着ける場所がわからない。 私はなぜこの人に求められたのかーー。 芝居にすべてを注ぐ燕弥の隣で、志乃はわが身の、そして燕弥との生き方に思いをめぐらす。 女房とは、女とは、己とはいったい何なのか。 いびつな夫婦の、唯一無二の恋物語が幕を開ける。 呼込 一、時姫 二、清姫 三、雪姫 四、八重垣姫 幕引
その所業、人か、鬼かーー規格外の熱量を孕む小説野性時代新人賞受賞作! 江戸は文政年間。足を失い絶望の底にありながらも毒舌を吐く元役者と、彼の足がわりとなる心優しき鳥屋。この風変りなバディが、鬼の正体暴きに乗り出してーー。 「あたかも江戸時代をひらひらと自在に泳ぎまわりながら書いているような文章。こんなにぴちぴちした江戸時代、人生で初めて読んだのである。脱帽!!」(森見登美彦氏) 「早くもシリーズ化希望!」(辻村深月氏) 「作品の命というべきものが吹き込まれている」(冲方丁氏) と、選考委員全会一致の圧倒的評価。 傾奇者たちが芸の道に身をやつし命を燃やし尽くす苛烈な生きざまを圧倒的筆致であぶりだした破格のデビュー作!! ■「大傑作!!江戸という時代と場所、芝居の世界のバーチャル体験として見事」(ライター 吉田大助) ■「現代の戯作者としての力量を秘めている。とんでもない新人が登場したものだ。今年度ナンバーワンのベスト本である。」(評論家 菊池仁) ■「江戸の景色が浮かんでくるような文章のセンスは驚異的である。」(ミステリ評論家 千街晶之) ■「これで新人!?ぜひ豪華絢爛な舞台や映画で観たい!」(丸善本店・高頭佐和子) ■「取り憑いたら離れない「鬼気迫る」以上の物語。すっかり呑み込まれ、抜け殻状態。。」(ブックジャーナリスト 内田剛) ■「あまりに興奮して、体が乗っ取られたようになりました」(本の雑誌社・浜田公子) ■「アウトローな存在であり、かつ男女の性別からも逸脱している役者の生理や道徳観念を浮き彫りにしていく展開がスリリング。肚の坐った書き手だ」(書評家 杉江松恋) 時は文政、所は江戸。 鳥屋を営む藤九郎は稀代の女形として人気を誇った元役者の魚之助に呼び出され、中村座の座元の許へと向かう。 数日前『堂島連理柵』という新作台本の前読みを役者六人で車座でおこなった際、輪の真ん中に誰かの頭がごろぅり、転げ落ちてきたという。しかし役者の数は変わらず、鬼が誰かを食い殺して成り代わっているのは間違いない。二人は「鬼探し」の道行と洒落こむが、それは同時に、役者たちが芸の道をきわめるために鎬を削る地獄めぐりでもあった。 梨園の知られざる闇、血のにじむような努力や才能への渇望、葛藤を目の当たりにするうちに、藤九郎は、人と鬼の境目に深く思いを致すことになる。 芝居中、熱狂的な贔屓に襲われて足を失い、悪態をつきながら失意のうちに過ごす魚之助をなんとか舞台に戻してやりたい、その一念だった藤九郎だが、“傾奇者”たちの凄まじい執念を目の当たりにするうち、心も体も女形として生きてきた魚之助の人生や役者としての業と正面から向き合うことになりーー。 善悪、愛憎、男女、美醜、虚実、今昔ーーすべての境を溶かしこんだ狂おしくも愛おしい異形たちの相克。