著者 : 西木正明
日露戦争で活躍した軍艦「日進」と「春日」。この二隻はアルゼンチンから日本に寄贈されたもので、その縁で来日したアルゼンチンの海軍軍人と知り合った一人の日本人女性が、ブエノスアイレスへと渡ったことは歴史上の事実である。そのふたりの間に生まれた、エヴァ・ロドリゲスが本書の主人公。早くに母を亡くした彼女は、ある事件をきっかけに自身の出生の秘密を知り、タンゴ・ダンサーとして、娼婦として生きていくことを決めた。 やがてエヴァは活躍の場を、ベルリンへと移し、老舗のタンゴ・バー「エル・スール」を拠点に踊り、国内外の要人たちと夜を共にする。そこで出会ったのが、昭和通商なる会社に勤める吉川公夫だった。日本陸軍の予備役であるという彼に運命を感じたエヴァは、その関係にのめりこんでいくが……実は、吉川の正体は諜報員であり、国際社会から孤立を深め、対ソ連、対アメリカとの戦争へと突っ走る勢力に必死の工作を繰り返し、時には多重スパイも辞さない危険な男だった。 愛する吉川のため、あるいは母のルーツで祖国・日本のため、エヴァは時にナチス政府の要人から、時にゲシュタポ(秘密警察)の高官から、ベッドの中で偽りの愛をささやき、情報を引き出すようなる。エヴァだけではなく、他にも同じような女スパイが、当時のヨーロッパでは暗躍していた。また吉川は、同じ志を持つ者たちと密かに通じ、エヴァにさえ知らせず、ドイツ国外でも精力的に活動を行うが、日本の対ソ・対米戦争への流れを止めることができず、やがて二人に別れがーー。 そして半世紀を経て、ベルリンの壁の崩壊後、年老いたエヴァから、その驚くべき人生を聞き取ることになったのは、ある日本人男性ジャーナリスト。その姿は近代史の闇をノンフィクション・ノベルに仕立て、世に問うてきた著者自身の姿にも重なる。エヴァが、吉川が本当に守ろうとしたものは何だったのか? 改めて平和な現代に問いかける傑作長編!
「これこそが日本だ!」戦争で何もかも失った蒲生太郎。かつての戦友の誘いに応じて秋田にやってきたら、そこは息苦しい人生観がくるりと変わる、まさに別世界だった。温厚な金木医師、マタギ免許皆伝のイワオ、色っぽい敏子。そして悪戯ばかりの悪ガキども。艶やかなユーモアたっぷりに描く、ふるさと賛歌。
1940年、日米の緊張が高まる中、民間主導による異例の日米和平交渉が始まろうとしていた。だが、その背後ではスターリン、ヒトラーをも手玉にとったイギリスMI6の敏腕謀報部員が暗躍していた。なぜ、この交渉にイギリスが深く関与しているのか。アメリカに渡った文書謀報のスペシャリスト、天城康介と江崎泰平は、独自の謀報活動を始めるが…。日本を破滅へと追い込んだ謀略戦を克明に描破したノンフィクション・ノベル。
順調に進んでいた日米和平交渉は、アメリカ側の突然の態度硬化で暗礁に乗り上げる。天城と江崎は日米交渉の裏で糸をひくイギリスの思惑を探るうち、ソ連の「スニェーク」なる作戦の存在を知る。英、米、中、ソの陰謀が絡み合い、確実に追い込まれていく日本。行き詰まる謀報戦の果てに天城と江崎は、壮大な謀略を突き止めるが…。封印されていた真珠湾攻撃の新事実を明らかにした畢生の大作。
紙芝居の慰問で赴いた南方から、命からがら引き上げてきた蒲生太郎、帰ってみれば東京の生家は丸焼けで、家族も全滅。傷心の太郎は戦地で世話になった軍医・金木令吉を頼り、秋田の山奥、仙北郡神代村へやってきた。そこで出会った戦争未亡人の敏子と深い仲になり、村で暮らしてゆく決意をするー。
「夢顔さんによろしく」-遠くシベリアの収容所から届く謎に満ちた手紙。送り主は名門近衛家の嫡男、文隆。アメリカ留学で華やかな青春を過ごし、上海で美しき中国人女性との恋に燃えた青年貴族。彼は日中戦争を終結させるべく必死の和平工作に臨むのだが、やがて過酷な運命に巻き込まれ…。知られざる貴公子の生涯を描くノンフィクション・ノベルの最高傑作。第13回柴田錬三郎賞受賞作品。
和平工作が失敗に終わり徴兵された文隆は、満州で終戦を迎え、シベリアに抑留される。日本の家族の元に届く手紙に繰り返し書かれていたのは、不可思議な言葉だった…。帰国と引き換えにソ連のスパイとなることを求められた文隆が、最後に希望を託そうとした「夢顔さん」とは一体誰なのか?激動の時代を生き、高貴なる一族の長男として、そして日本人としての誇りを守り続けた文隆の運命はー。
ベトナム戦争、学生運動、浅間山荘事件。本気で生きた時代が、確かにあったはずだ。-海辺の街から届いた手紙に、男は涙した。みんな、どこへ行ってしまったんだ。’70年代を熱く生きた著者が、魂の全てを注ぎこんだ渾身の小説集。
不世出の天才歌手として時代を駆け抜けた美空ひばり。その華やかな活躍の陰でひっそりと暮らす同名の元女優。歌手ひばりを支え続けた、裏社会の首領。それぞれの人生が織りなす「昭和」という時代への鎮魂歌。
「われわれは香港で裕仁を拉致し、獄中で呻吟している同志たちを奪還する。」朝鮮の武力独立を目指す金元鳳率いる義烈団。彼らは大正十年、外遊途上の香港にて裕仁皇太子を誘拐する計画を立てる。日本側警備陣との息詰まる攻防ー。成功すれば確実に以後の世界史が変わったであろう歴史の暗部を掘り起こした力作。
近衛文麿の嫡男にして、細川護煕の伯父ー日本最高の貴公子、近衛文隆は快男児ぶりを発揮。アメリカ留学で青春を満喫し、上海では国民党の女性スパイとの熱烈な恋と、独自の停戦交渉に奔走したが、やがて戦争という過酷な運命が、その命までも呑み込んでいく。柴田錬三郎賞を受賞したノンフィクション・ノベルの金字塔。
蒋介石との直接交渉は未遂に終わり、軍部に睨まれた文隆は兵役に取られ満州へ赴任、そして終戦と同時にソ連軍によってシベリアに抑留された。安否を気遣う家族の許に届けられた手紙には「夢顔さんによろしく」という謎の言葉が添えられていた。果たして「夢顔さん」とは誰なのか、そして文隆の運命は。
明治の文豪・二葉亭四迷は、日本陸軍の指令を受けたスパイだったのか!?ウラジオストック、ハルビン、北京…を舞台に彼の足跡をたどり、隠された真実を明かしてゆく。日露戦争前後に繰り広げられた諜報戦や遠くポーランドの独立運動との関わりまでをも描いた、史実に基づく壮大な歴史ミステリーの傑作長編。
本名・北野弓子、芸名は長山レナ・風見圭子・簗瀬ルミと変わって十年ぶりに会った女は昔とちっとも変わらぬ美貌を誇っていた。かつてひょんなことから同棲した女が急に売れ出したとき、二人の仲は破局に向かった。再会した男と女の胸中に流れる甘く苦いノスタルジー。虚構の世界に生きる男女を描く連作集。