著者 : 趙倫子
父のところに行ってきた父のところに行ってきた
【内容紹介】 父は、泣く。父は、彷徨う。父は、怯える。父は、眠らない。父に寄り添う暮らしは、思いがけないことばかりだった。「私」は思う。いったい父の何を知っていたというのだろう。 主人公の「私」は中学生の一人娘を事故で失い、かたくなな心を持て余している孤独な女性作家。高齢の母がソウルの病院に入院したため、故郷に一人暮らしとなった父の世話を兄弟たちに頼まれ、老いた父に向き合うことになる。「アボジ(お父さん)」と呼びかける父は一九三三年生まれ。植民地期、朝鮮戦争、南北分断、軍事独裁、民主化抗争といった朝鮮半島の激動の時代を生きてきた。 「苦難の時代を生きた」人、「もし、いい世の中にめぐりあっていたなら、もっといい人生を生きることができたであろう」人……。そんな「匿名の存在」に押し込めて過ごしてきた父に、あらためて寄り添い、「私」が分け入っていく父の記憶のひだ、父の人生の物語。 「極めて個別の父」を描きながら、読み手の胸を震わせ目頭を熱くする「普遍の父」とは。 〔目次〕 第一章 ひさしぶりだ 第二章 夜を歩きつづけるとき 第三章 木箱の中から 第四章 彼について語る 第五章 すべてが終わった場所でも 作家の言葉 すべての「匿名の人びと」に捧げる物語(趙倫子) 訳者は二度、涙を流す(姜信子)
たそがれたそがれ
一九六〇年代以降、大学進学によって貧しさから脱け出し、軍事政権による開発経済の恩恵を受け、建築家として成功した初老の男性。そして急速な発展の結果として拡大した現在の格差の中で、多くをあきらめながら苦しい生活を送る劇作家の若き女性。持てる者が失わなければならなかったものは何か。持たざる者がなお手放さないものは何かー。韓国文学を代表する作家が、現代社会に生きる人間の魂の痛みを静かに描き出す。
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