出版社 : クオン
日常にひそむ不安や欲望、家族の中で抱く孤立感。生きあぐね、もがく女たち。現代女性文学の原点となった呉貞姫の作品集。朝鮮戦争を体験した著者の幼少期が反映された「幼年の庭」「中国人街」のほか、三十代の内面の記録だという六編を収録。繊細で詩的な文章は、父の不在、家族関係のゆがみ、子どもや夫への愛情のゆらぎに波立つ心を描き出す。それは時代の中で懸命に生きる人の肖像でもある。
日本の敗色は今や隠しようがなく、朝鮮でもすべての物資が欠乏している。キリスト教徒の一斉検挙で投獄された麗玉は釈放されたものの、その凄惨な姿に明姫は衝撃を受けた。栄光への愛と、兄嫁との葛藤に苦しむ良絃は医師となって家を出た。晋州で寮に入り高女に通う尚義は、天皇主義者の教師に反発する内向的な少女に成長している。統営では趙俊九が醜い様で生涯の幕を閉じ、モンチは周囲の心配をよそに子持ちの寡婦媌花に求婚する。任明彬は静養のために智異山を訪れ、輝は徴用を避けて山に戻った。独立運動に関わる若者も山に逃れてきたが、過激なことを企んでいるのではないかと海道士は警戒の目を向ける。
私たちは共に、絶えず声を上げ、お互いを思いやり、しっかりと手を携えて生きていける。韓国SFの話題作『となりのヨンヒさん』著者、チョン・ソヨンによる初の邦訳エッセイ集。
日中戦争に行き詰まった日本は仏領インドシナに進駐し、朝鮮人への抑圧も増している。拘束される日が近いと予感する吉祥は智異山周辺の独立運動組織の解散を決めた。新京で自動車整備工場を営んでいた弘は妻の軽率な行為から夫婦共に密輸容疑で朝鮮に連行された。これを機に工場を畳んだ弘は単身、満州に戻るつもりだ。統営に弘を訪ねた栄光は、栄善夫婦を通じて父・寛洙につながる人たちと交流を深める。平沙里では鳳基老人が世を去ったが、錫の母ら女たちは健在だ。崔参判家を巡る人々の運命は、世代を超えて複雑に絡み合っていく。他方、ハルビンで偶然に燦夏と出会った仁実は、十余年ぶりに緒方と再会する。
朝鮮戦争休戦の翌年、小学校を卒業したばかりの“僕”は、各地からの避難民で溢れる大邱で暮らすことになった。混乱した社会で生きる人々の哀歓が“僕”の周囲で起きるさまざまな事件とともに生き生きと描かれている。発表から三十余年を経て、今なお読み継がれるロングセラー。
済州島四・三事件をテーマに書き続ける在日の老作家K。若き日に北朝鮮関係の地下組織に参加したものの離脱、その後の精神的危機とさまよいを回想する「消された孤独」。韓国語と日本語のはざまで二つに割れた存在に苦しみつつ韓国舞踊を学び、島を想う在日女性との対話を描いた「満月の下の赤い海」。四十二年ぶりとなる自らの故国・韓国訪問と済州での取材を通じて、語りえない記憶の真実に耳を澄ませる「地の疼き」。三編の小説と対談を収録。
同郷の友であり同志であった寛洙が牡丹江で病死したことで、吉祥は自分の生き方を見つめ直す。主治医だった朴医師の死に衝撃を受けた西姫は、心の奥底に秘めていた思いに気づく。二人は互いの存在が束縛であったことを初めて認め合う。寛洙の死は家族を再会させ、新たな絆をもたらした。還国は家庭を持ち新進気鋭の画家となり、李家に戸籍を移した良絃は女医専に学んでいる。西姫は允国と良絃について意外なことを言い出す。日本は中日戦争の泥沼から抜け出せず、物資が不足して生活は不便になるばかりだ。朝鮮語の言論は弾圧され、志願兵、創氏改名など新たな制度で朝鮮の人々はますます生きづらくなっている。
独立運動の資金を得るために寛洙が中心となって計画した晋州での強盗事件には、吉祥も陰で協力していた。平沙里の村人の間では、社会の変容から世代間に齟齬が生じ、家族が揺らいでいる。学校を追われて家出した寛洙の長男・栄光は、東京で進む道を模索していた。日本の傀儡政権・満州国が建国され、間島の独立運動に対する圧力も強まり、活動家たちは活路を探っている。そんな中、一時は東京に滞在していた仁実がハルビンに姿を現した。彼女を捜し続けていた緒方次郎も、新京で職を得ていた。新京で自動車修理工場を経営する弘の元には、異父姉の任や密偵だった金頭洙が訪ねてきて、不気味な影のようにつきまとう。