著者 : 近藤直子
蒼老たる浮雲蒼老たる浮雲
棟続きの家に住む二組の夫婦。戸口の梶の花のにおいに心乱され不審な行動をとる更善無を、隣家の女、虚汝華が覗き見ていた。その夫、老況は生活能力のない男で、しじゅう空豆を食べている。二つの家の間に漲る敵意と疑念。ある夜、梶の花の残り香の中で更善無と隣家の女は同じ夢を見た…。奇怪なイメージと支離滅裂な出来事の連鎖が深い衝撃を呼ぶ中篇「蒼老たる浮雲」に、初期短篇3作を併録した残雪作品集。
カッコウが鳴くあの一瞬カッコウが鳴くあの一瞬
わたしにはわかっている、カッコウがそっと三度鳴きさえすれば、すぐにも彼に逢えるのだ…“彼”を探して彷徨う女の心象風景を超現実的な手法で描く表題作。毎夜、部屋に飛び込んできて乱暴狼藉をはたらく隣の老婆の目的とは…「刺繍靴および袁四ばあさんの煩悩」ほか、夢の不思議さを綴る夜の語り手、残雪の初期短篇全9篇に、訳者による作家論「残雪ー夜の語り手」を併録。
黄泥街黄泥街
黄泥街は狭く長い一本の通りだ。空から真っ黒な灰が降り、人々が捨てたごみが溢れる街で、物は腐り、動物はやたらに気が狂う。この汚物に塗れ、時間の止まったような混沌の街で、ある男が夢の中で発した「王子光」という言葉が、一連の奇怪な出来事の始まりだった。すべてが腐り、溶解し、崩れていく世界の滅びの物語を、奔放な想像力と奇想に満ちた圧倒的な語り/騙りによって描き、世界に衝撃をあたえた残雪の第一長篇。
かつて描かれたことのない境地かつて描かれたことのない境地
現代中国の最重要作家が1988年から2009年までに発表した短篇小説から精選、年代順に編む、日本オリジナル傑作集。ある上申書を書き直し続ける母と、夢と本によって母に現実を示す娘を語る「瓦の継ぎ目の雨だれ」から、地下に向かって生長する不思議な植物をめぐり変化する人々を描く「アメジストローズ」まで、夢の論理に細部まで貫かれた14篇を収める。
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