著者 : 近藤麻里子
メンジーズ博物館の怪事件で顔を合わせて以来、わたしはモリス・クロウの捜査手法をつぶさに見てきた。事件は彼の持論をなぞるように起こり、また現場から犯罪の意図を読み取る術に長けているがゆえに、クロウは捜査官の手に余る難件をもたちどころに解決する。そのおかげでグリムズビー警部補は出世街道まっしぐら、今日もクロウへの橋渡しを頼みにわたしを訪ねてきたが…。
印刷屋や書籍販売店が立ち並ぶグラブ街で、出版業者のクラブとその家族らが惨殺されるという事件が起きた。クラブ家の屋根裏部屋から、斧を手にした錯乱状態の男が発見された。その男はクレイトンという詩人でクラブの店から作品集を出版したが、印刷職人によれば二人の間で支払いを巡る争いがあったという。クレイトンは治安判事サー・ジョン・フィールディングの元に引きだされるが、男は殺人が起きた時は別の人格が出現していたと主張し…十八世紀のロンドンを舞台に、盲目の名判事と助手の少年が冷酷きわまりない殺人事件の真相に挑む。
この顔には見覚えがあるわ…アンティーク家具の修復業を営むキャットは、なじみの骨董店の店先でホームレスの若い女性を見かけて驚いた。その女性は亡き娘の親友ジェニーで、しかも彼女はすべての記憶を失っていた。なぜ、新進女優として活躍中だった彼女がここに?同情したキャットは、ジェニーを救うため身辺調査に乗りだすが…行動力あふれる老婦人、“ワイルド・キャット”再登場。注目の痛快シリーズ第二弾。
悪党たちが跳梁跋扈する十八世紀後半のロンドン。盲目の治安判事サー・ジョン・フィールディングは、“ボウ街の捕り手”と呼ばれる警察隊を組織し、犯罪の一掃に乗り出すなど、辣腕判事の誉れ高い人物だった。ある日、発砲事件の報に、助手の少年を従えて貴族グッドホープ卿の邸宅に急行したサー・ジョンは、そこで変わり果てた姿となった卿を発見する。状況から明らかに自殺と思われたが、少年がふと洩らした言葉から、事件は思わぬ方向へ。盲目の判事と、彼の目となり手足となって働く少年が、豪壮な邸宅で起きた密室殺人に挑む時代ミステリ。
高校教師ブレイン・エイヴァリーの身辺で不可解な出来事が起き始めたのは、夫のマーティンが自殺してから半年後のことだった。教え子の一人が手首を切られて殺され、死体の第一発見者となったブレインのもとに、奇妙なメロディーにのせた犯行声明の電話がかかってきたのだ。だが、警察は彼女の言葉を信じようとはせず、かえってアリバイのない彼女への疑惑を強めていった。やがて同じ手口で第二、第三の殺人が起き、そのたびに深夜の電話が。誰ひとり頼る者もなく不安に怯えるブレイン。ついに犯人の魔手は彼女自身にも…。
失業中の俳優に、仕事の選り好みは許されない。というわけで、食品会社の会社案内ヴィデオに出演する話がきたとき、パリスは一も二もなく飛びついた。役柄は倉庫で働くフォークリフトの運転手。芸術とはほど遠い仕事だが、演技することに変わりはないし、実入りもまあまあ。いうことなしに思えたが…。フォークリフトの運転-、これが意外と難物だった。しかも、昼休みで目を離した隙に、そのフォークリフトが暴走して、女子社員の命を奪ってしまったのだ。エンジンが掛かりっぱなしのところへ、何かの拍子でギアが入ったためだという。だが、パリスは撮影現場を離れるとき、たしかにエンジンを切った。もしかして、これは殺人では?俄然興味をひかれたパリスは、素人探偵を気取って、死んだ女子社員にまつわる噂を集めはじめた。社内の勢力争いと複雑な人間関係に隠された真相にパリスが挑む、ユーモアと皮肉たっぷりの英国ミステリ。