著者 : 野間宏
真空地帯真空地帯
空気のない兵隊のところには、季節がどうしてめぐってくることがあろうー条文と柵とに縛られた兵営での日常生活は人を人でなくし、一人一人を兵隊へと変えてゆく…。人間の暴力性を徹底して引き出そうとする軍隊の本質を突き、軍国主義に一石を投じた野間宏(1915-91)の意欲作。改版。
現代小説クロニクル 1980〜1984現代小説クロニクル 1980〜1984
1975年以降に発表された名作を5年単位で厳選する全8巻シリーズ第2弾。現代小説は40年間で如何なる変貌を遂げてきたのかーー
暗い絵・顔の中の赤い月暗い絵・顔の中の赤い月
新人・野間宏、戦後日本に颯爽と登場ーー初期作品6篇収録のオリジナル作品集 1946年、すべてを失い混乱の極みにある敗戦後の日本に、野間宏が「暗い絵」を携え衝撃的に登場ーー第一次戦後派として、その第一歩を記す。戦場で戦争を体験し、根本的に存在を揺さぶられた人間が、戦後の時間をいかに生きられるかを問う「顔の中の赤い月」。ほかに「残像」「崩解感覚」「第三十六号」「哀れな歓楽」を収録する、実験精神に満ちた初期短篇集。 ーー草もなく木もなく実りもなく吹きすさぶ雪風が荒涼として吹き過ぎる。はるか高い丘の辺りは雲にかくれた黒い日に焦げ、暗く輝く地平線をつけた大地のところどころに黒い漏斗形の穴がぽつりぽつりと開いている。その穴の口の辺りは生命の過度に充ちた唇のような光沢を放ち、堆い土饅頭の真中に開いているその穴が、繰り返される、鈍重で淫らな触感を待ち受けて、まるで軟体動物に属する生きもののように幾つも大地に口を開けている。
生々死々生々死々
俳優の菅沢素人は何日、いや何年入院しているのか?人間をその管理下に縛る病院のメカニズムを凝視する一方、土地の乱開発によって生じる自然の崩壊をも見据える。病み危機に瀕した現代人の生々と死々。著者の想念は宇宙的規模で飛びかう-。未完の大著、遺作長篇。
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