小説むすび | 著者 : 金志成

著者 : 金志成

クルーゾークルーゾー

国家崩壊を神話的に描く、21世紀の『魔の山』  1989年夏、東ドイツで⽂学を学ぶエドは、恋⼈を事故で亡くして絶望し、人生からの逃亡を決意する。向かったのはバルト海に浮かぶ小さな島、ヒッデンゼー。対岸にデンマークを望むこの島は、自由を求める人々の憧れの地だ。島に到着したエドは、さしあたり⼀夏を過ごそうと「隠者亭」の⽫洗いの職に就く。実質、島はクルーゾーというカリスマ的な男によって統治されていた。強烈な影響力で周囲を動かすクルーゾーに、エドは畏怖と憧れを抱く。やがて、クルーゾーは詩への情熱からエドを特別な存在として認め、二人は心を通わせ、深い絆で結ばれていく。だが、夏が終わり、秘かに国境を越えようと住人が一人また一人と去っていくと、平穏な日々に亀裂が……。  最後に一人、島に残った男が知る世界の大転換と、友との約束とは? 極限で見出した、真の自由と友情とは?  いまドイツで最も注目され、《バッハマン賞》《ライプツィヒ書籍見本市賞》など、数多の文学賞の栄誉に輝く詩人が、夢と現実の境界を溶かす語りで、国家の終焉を神話に昇華させた長篇。本書で《ドイツ書籍賞》を受賞している。

対話性の境界対話性の境界

著者

金志成

発売日

2020年7月1日 発売

ジャンル

1934年にナチス政権下の現ポーランド領に生まれ、「ドイツ人追放」により旧東独で育ち、作家デビューに伴い西ベルリンに「転居」、1984年にイギリスで孤独死したヨーンゾン。イデオロギーで分断された世界を対話的に描き、ブランショに称賛されるなど、戦後ドイツを代表する作家としての評価はいまだ揺るぎない。その文学的営為の根本的な「詩学」の問題は「対話性」や「倫理」という図式に回収されてきたが、本書は精緻なテクスト分析と大胆な批評性であえてそれらの「境界」を探り、彼の文学を貫く「真実への困難な探求」を新たな視点から描き出す。 序文 第1章 詩学  第1節 導入──ヨーンゾンの「詩学講義」  第2節 「詩学」の歴史──古代ギリシアからロマン派まで  第3節 戦後ドイツにおける「詩学」の制度化  第4節 〈ポスト詩学〉の状況  第5節 表されるものが表す手段を条件づける  第6節 方法論についての要約 第2章 ダイアローグ  第1節 導入──境界線  第2節 〈語りの全知性〉をめぐる問題  第3節 作り出された人物  第4節 対話性の詩学 第3章 パフォーマンス  第1節 導入──小説は革命のための武器ではない  第2節 二つの政治性  第3節 文学における「真実」  第4節 「真実探求」の死角  第5節 『ベルリンのSバーン』  第6節 パフォーマンスとしての「真実探求」 第4章 モダニティー  第1節 導入──モダニスト・ヨーンゾン  第2節 『長篇小説を検討するための諸提案』  第3節 モダニティーの歴史イメージ  第4節 ボードレールの現代性  第5節 理想と憂鬱 第5章 『ヤーコプについての推測』  第1節 導入──「難解」な小説  第2節 対話的形式  第3節 ロールフス  第4節 ヨーナス・ブラッハ  第5節 ゲジーネ・クレスパール 第6章 『イースターの水』  第1節 導入──「模範的な短篇小説」  第2節 水と鏡のイニシエーション  第3節 かつての少女の追憶  第4節 完結性と破綻 第7章 『記念の日々 ゲジーネ・クレスパールの生活から』  第1節 導入──付随状況  第2節 一年の日々  第3節 暦と想起  第4節 コレスポンダンスとアレゴリー  第5節 言語の問題  第6節 『記念の日々』における対話性  第7節 わたしが死んだときのために  終 節 マージョリーのゆくえ 結語 あとがき 参考文献 索引

このエントリーをはてなブックマークに追加
TOP