著者 : 関根謙
北京へ、ニースへ、降りしきる雪の中へ、そして日本の桜の下へ。 シャーマニズムの香り濃い故郷瀋陽の街から、青年は逃奔するーー 鄭執は作家・脚本家・映像作家として活躍する中国の若きクリエイター。80後(バーリンホウ)世代※の旗手。 初邦訳となる本書には、中国東北部の中核都市である故郷・瀋陽の街から、あるいは鬱々と・あるいは劇的に・あるいは飄々と逃奔する青年を主人公とする、三つの物語を収録。 (※80後世代:80年代後半生まれ。中国の一人っ子政策の申し子で、他の世代より恵まれた経済環境に育ち、国際的な視野も経験も十分とされる) 【各作品紹介】 「ハリネズミ」 シャーマニズムの色濃い街で繰り広げられる不条理な茶番劇。周囲から変人扱いされてきた伯父と内向的な主人公が40歳の年の差を超えてかわす魂の交流。 「モンテカルロ食人記」 厳しい受験戦争に疲弊した主人公。その鬱屈する愛憎の相剋から溢れ出すエネルギーが巻き起こす、吹雪の街の奇譚。 「森の中の林」 「四人で五つの良い目を持つ」という祖父、父、息子、三世代の家族。それぞれの人生と愛、そして一つのミステリー。 【目次】 ハリネズミ モンテカルロ食人記 森の中の林 一 コウライウグイス 二 森林 三 春の夢 四 娘 五 瀋陽 日本の読者のみなさんへ 解説 鄭執ーー東北の大地に愛された若き創作者
「普済にもうじき雨が降るぞ」そう言い残して失踪した父、心をざわめかせる謎の男の登場、琥珀の眼を持つ金の蝉…。外の世界には、自分の知らない無数の奥深い秘密があるが、みんな口を閉じて、自分には何ひとつ漏らそうとしない。-秀米は世の中の全てにいらだっていた。茅盾文学賞・華語文学メディア大賞受賞作。
「わたしは光に照らされる感覚は好きではない。それはひっそりと隠れている安全な感覚をわたしから奪い取り、肉体のあらゆる器官がさらけ出されるような思いを強いる。わたしは慌てて、すぐ皮膚の毛穴の一つ一つに歩哨をたてる。光にわたしをのぞき見られないように。しかし世間には太陽が多すぎる。…わたしはよくわかっているのだ。どんな種類の光であっても、それに覆われてしまう生活は、虚飾と嘘に満ちたものだということを」。女性の官能の美と自分の存在とは何か?を「肉体の言語」で描き、世紀末の中国に新しいアイデンティティの可能性を示唆した長編小説。
少女「六六(リュウリュウ)」には出生の謎があった。大飢饉の直後に生まれ、凄惨なスラム街に育ち、あたかも生まれながらの飢餓の魂をかかえた娘だった。18歳の誕生日が間近かに迫った1980年から物語が始まる。彼女の家は重慶のスラム街にあり、狭い部屋に父母と6人の姉妹兄弟がひしめき合って暮らしていた。末っ子の「六六」は、しばしば余計者、邪魔者として邪険に扱われてきた。家族が住む凄惨なスラム街の様子、作者自身の生身の痛切な体験-影のようにつきまとう男の気配、自らの出生の秘密、恋。人間としとての尊厳を求めてこの町から絶対に抜け出す決意をしたときに運命的に出会う「詩」と才能の目覚め…。飢餓の魂は救われるのか?深い感動とともに読者の魂も癒されていく。