著者 : 館野浩美
長篇小説を執筆中の作家ポール・オレロンは古い貸家に引越すが、忽ち創作は行き詰まり、作家は周囲に何者かの気配を感じ始める。邪悪なものの憑依と精神崩壊の過程を鬼気迫る筆致で描き、ブラックウッド、平井呈一らが絶賛した心理的幽霊譚の名作「手招く美女」。沈没寸前のガレオン船の前に霧の中から現れた謎の船の正体とは……超時間的な幻想譚「幻の船」。シチリアの富豪の娘が旅先のチュニスで英国青年と恋に落ち、同時に神秘的な人格の変容を経験する。エキゾティックな舞台に古代幻想が交錯する中篇「彩られた顔」など全8篇と、作者がその怪奇小説観を披露したエッセーを収録。英国怪奇小説の黄金時代に、精緻な心理主義と怪異描写、斬新なアイデアで新しい地平を拓いたオリヴァー・オニオンズの怪奇小説傑作選。 信条(エッセー) * 手招く美女 幻の船 * ルーウム ベンリアン * 不慮の出来事 途で出逢う女 * 彩られた顏 * 屋根裏のロープ * 解説 中島晶也 (*=本邦初訳)
ル゠グウィンがトールキンやエディスンと並べ、名文家として名を挙げた、ケルトの魔法を歌う詩人にして神智学者である作家、ケネス・モリス。ダンセイニよりも神秘主義的と評されるその幻想小説を百年の時を経て集成した本邦初の単行本。 人は誰も宇宙の根源的な霊の一部、天の炎を内に秘めており、いつかその源に還るまで、魂を進化させることが人間の使命であるーー 東西の神話や伝説、音楽や色彩、動植物や鉱石、天の神秘と豊饒なる大地に題材を得て、詩情に満ちた文体で綴られた、読むことがそのまま喜びであるような体験を与えてくれる29の幻想物語。 装幀 白座 装画 林由紀子「夜明けに開く薔薇」 東と西 王と三人の行者 薔薇と杯 詩人ハーリド 幼子アポロンの神殿 北の統治者 ヴァイオリニストの夢 ティタニアが摘んだ花 牧神の戯れ アル・カドルの夜 白禽の宿 眼のない龍 紅桃花渓 故郷へ 子守パーリ ショーン・アプ・シェンキン 山のデイオ 物語の彼方 人魚の悲劇 エヴァン・レイションの神曲 ドン・キホーテ最後の冒険 天上の音楽 ダフォディルの花 バッハのフーガ ニ短調 惑わしの打破 青玉の頸飾り 地獄と天国、そしてベートーヴェン 神と人 神の化身 神秘の山 智慧の林檎 勝利 惑星の王 聖者と森の神々 訳者解説 館野浩美
独特のエロティシズムと精緻な文章で綴られた、徹底した被支配関係から生じる恍惚と恐怖……謎の英国作家サーバンによる戦慄の幻想譚を2篇収録。本邦初訳。 田舎屋敷に家庭教師として雇われた女子大生が謎めいた子供たちと過ごす夏休みは、次第に奇怪な様相を帯びていく……古代異教世界が顕現する「リングストーンズ」(1951年)。女子寄宿舎学校を舞台に、少女が人形つくりが趣味の青年と出会い、やがて彼の人形のモデルになる。しかし、その青年の真の正体とは……服従と束縛の快楽が横溢する怪異譚「人形つくり」(1953年)。繊細で喚起力の強い文体を通じて、徹底した被支配関係から生じる魅惑と恐怖が織りなす荒々しいマゾヒズム的快感が描写される、知られざる英国作家サーバンによる幻想中篇を2篇収録。 〈サーバンは自分の生きる社会、時代の規範的、標準的な性愛の概念には強い違和感を覚えていたに違いない。彼は「愛」という西欧社会の発明を信じていないのだろう。そして、それこそ彼が異界を舞台にした小説を書かずにはいられなかった理由のひとつかと思われる。(……)本書に収録したふたつの中篇は、巧繊に織りなされたペルシャ絨毯のように魅惑的な超自然譚であり、日本ではこれまで知られることのなかった幻想小説の佳什として楽しんでいただければ幸いである〉(横山茂雄:本書解説より)