著者 : 馳星周
辞令がなければ、函館に戻るつもりなどなかった。刑事田原稔は、函館西署着任の前日、殺人事件発生の報を受ける。被害者は、かつて愛情をかわした女、水野恵美だった。反故にされた約束。忘れたことはない。忘れられるはずがない。この事件に関わることは、二十年前に彼が故郷を捨てざるを得なかった、ある事情を追うのと同じこと。田原は黙々と捜査を続けていく。警察小説の傑作!
救われるのは、信じる者か、信じぬ者か。霊山・御嶽の麓の町で、悲惨極まりない人生を送ってきた少年、潤。山に棲まう神に会い、生きることの意味を問いたい…。積年の切ない望みを胸に、潤は誰もいない山へひとり姿をくらませてしまう。そんな潤を、強力の孝が思わぬ理由で捜索することになる。神を求め、信じる潤。長く山で暮らしながら、神を信じぬ孝。恐るべき大自然の猛威に翻弄されながら、二人が熱く命の炎を燃やすー。
犬との暮らしが教えてくれる。愛する気持ち、愛される気持ち。今を大切に生きることの素晴らしさ。病と闘う少女のそばに寄り添う「トイ・プードル」、絶望した男の前に現れた捨て犬「フレンチ・ブルドッグ」ほか、「ミックス」「ラブラドール・レトリーバー」「バセット・ハウンド」「フラットコーテッド・レトリーバー」書き下ろし「バーニーズ・マウンテン・ドッグー魂の伴侶ー」珠玉の短編計7編を収録。犬を愛するすべての人へ捧げる、書き下ろし巻頭詩「いつもそばにいるよ」も必見!!
犬とは人間の言葉で話し合うことはできない。でも、人間同士以上に心を交し合うこともできる。思わず涙こぼれる人間と犬を巡る7つの物語。ノワールの旗手が贈る渾身の家族小説。(解説/森 絵都)
反対する祖父を殴り倒して日本に出稼ぎに来た、日系ブラジル人マーリオ。しかし希望は裏切られた。低賃金で過酷な労働を強いる工場から抜け出し、今は風俗嬢の送迎運転手をやっている。ある日マーリオは、中国マフィアと関西やくざの取引の隙に、大金と覚醒剤を掠め取ることに成功。怒りと絶望を道連れに、たった一人の闘いー逃避行がはじまった!第1回大藪春彦賞受賞作品。
「氷のザキ」と異名をとる警視庁捜査第三課の神崎は、相棒の水沢とともに大規模な美術品窃盗事件を捜査していた。その盗品を追う過程で榊田恵、学の姉弟が浮かび上がってくる。姉弟はさる老富豪の隠し子で、屋敷に同居して、老富豪を介護しているということだったが…。事件の臭いを感じた神崎はひそかに内偵を始めたー。
1971年。スペインとフランスの国境地帯バスク。この地でフランコ政権からの独立を目指し武力闘争を続ける過激派組織ETAに日本赤軍メンバー吉岡良輝が合流した。政府から存在を知られていない異邦人は組織の切り札となり、首相暗殺テロに身を投じる。しかし、ETAにはスパイが潜り込んでいた。“政府の犬”の正体を、吉岡は突き止めることができるのか!?欧州を舞台に圧倒的なスケールでおくる馳ノワールの新境地!
2005年。オリンピック元柔道スペイン代表アイトール・ヨシオカは、幼い頃に死別した父吉岡良輝がETAのテロリストだったことを知る。事故死と信じていた父はなぜ死んだのか?真相を探ろうとするが、事情を知るはずの母マリアは謎の失踪を遂げ、当時の関係者も次々と消されてゆく。両親の過去に翻弄されたアイトールが30余年の時を経て詳らかにした衝撃の真実とは?ロマン・ノワールの旗手による傑作長編サスペンス。
相原徹は、生まれ故郷の敦賀ー原発に税収と雇用を頼る街から出ることなく、子供時代を過ごし、仕事を得、家庭を持った。未来を描けないこの街での窒息しそうな日々を、水商売の女や妻子の間で揺れ惑いながら生きる徹が、最後に見極めた人生とは。地方都市で生きることの現実をあぶりだす、著者の新境地。
施政権返還直前の沖縄、那覇。英字新聞リュウキュウ・ポストの記者・伊波尚友は、ある日ホワイトとスミスと名乗る2人のアメリカ人から反戦活動に関するスパイ活動を迫られる。離島出身ゆえに幼少の頃から差別を受け、沖縄にも日本本土にも憎悪を募らせる尚友は、グリーンカードの取得を条件に承諾。コザに移り住み、反米反基地活動に身を投じながら情報を集めていくー。
おれたち、なんでこんな眠たい田舎町に生まれたんやろうな。原発がなければ成り立たない街。ここで男は育ち、仕事をし家庭を持ったー。閉塞感に押しつぶされるこの街で、やるせなさを抱きつつ男は生きる。
救急救命士の織田は、路上で倒れていた少女・笑加を助けるが、彼女は十代前半の少年たちと暮らしていた。実は彼らは、都知事による新宿浄化作戦で両親を中国に強制送還された、戸籍のない子供たちだった。事情を知った織田は、理不尽な現実と社会に復讐するため、彼らとともに無謀な行動を起こし始める。
捨てたはずの故郷に戻り、父が大金を持っているとの噂に踊らされた男。呆けて我がまま放題の母と猫の世話に煮詰まっていく女。売りつけられたスクーターに乗り、愛犬と骨を掘り出してばらまく少年。好きな女の先輩を安物の車に乗せて旅立ったプー太郎。夫のDVに苦しめられ、死んだチワワの骨を抱え岬に立つ女。北海道の風土に閉ざされた人間の闇をえぐる全5話。新境地を拓いた傑作揃いの短編集。
暴力団・東明会の金を持ち逃げした男が、軽井沢に潜伏している。金額は五億。東明会はもとより、大金の臭いを嗅ぎつけた危険な連中が、この閑静な別荘地に現れ、血眼になって男の行方を捜しはじめた。かつて新宿で「五人殺しの健」と呼ばれ名を馳せたが、今は軽井沢で別荘管理人として静かに暮らす田口健二のもとにも協力を要請する輩が訪れ、事態は急変する。雪山に乱反射する、欲望、復讐、狂気-すべてが暴力に収斂していく。圧倒的な筆致で現実世界に迫る、馳星周の最新長篇。
とある理由から警察を退職し、探偵業で糊口をしのぐ日々を送っていた元刑事・徳永のもとに、かつての上司で今や警視監の井口から、失踪した愛娘の捜索依頼が舞い込む。捜索を続ける徳永の前に、優雅なセレブ夫人たちの秘密の集まりが垣間見えてきたー。官能と狂気渦巻く、馳ノワール新たなる傑作長篇。
失踪した井口警視監の娘の捜索を進めるうちに「ブルー・ローズ」の秘密を知った元刑事の徳永。上級警察官僚、大物政治家をも巻き込む巨大な暗闘、徳永を嘲笑うかのように立ちはだかる公安警察の巨大な壁ー。際限なく膨張し続ける人々の欲望を前に、ついに徳永のモラルが吹き飛ぶ!人間の性と暴力衝動が炸裂する、馴ノワール新たなる傑作長篇。
5年前、中国から同じ船でやってきた阿扁(アーピェン)たち15人。だが、毎年仲間は減り続け、残るは9人。減った6人は流〓(リウマン)となり、阿扁と会った直後に皆死んでいた。自分は死神なのか。自問する阿扁だったがー(「死神」)。歌舞伎町の暗黒の淵で藻掻く若者たちの苛烈な生きざまを描く傑作ノワール、全6編。