著者 : 高橋昌男
饗宴饗宴
高辻藍は専業主婦。商社に勤務する夫の司郎、中学生の長女・春菜と国分寺に暮らしている。おだやかに幸福を食んできたかにみえる一家。しかし、不妊に悩んだ末、第三者の精子提供により長女を出産したことは、夫婦だけの秘密だった。「家族」という砂の城に、互いの理想をひとつずつ積み上げてきた夫と妻。だが、結婚二十二年目の夏、その城に思いもよらぬかたちで亀裂が入った…。
蛍籠蛍籠
昭和の激動の時代を奔放に駆けぬけたひとりの女の波瀾の生涯-。明治四十二年、東京中野に大工の棟梁の三女として生まれた銀子は、望まれて大学出の西山源蔵に嫁ぐ。西山家は土地の政治家の家系で、義兄の卓馬は気鋭の力士双葉山の後援会長も務めている。夫婦が台湾に渡ってすぐ日中戦争が始まるが、源蔵は出征して十日目に上海で戦死、あとにひとり、幼児を抱えた銀子が残される…。著者が母に捧げるレクイエム。
夏至夏至
川添千秋の安穏とした日々は母の遺書によりある日突然終わりを告げる。戦死した青年軍医・川添耿一ではなく隻眼の元巡査・木倉徳松が実の父親であるかもしれないと、しかも戦時中母を凌辱したのだと知ったときの衝撃。妹・悦子とはからずも関係をもってしまったことに対する深い苦悩。徳松の後妻・道代との房総への逃避行の果ての、親と子の運命ともいえる対決。戦後日本の風土を背景として悪のもたらす宿命的悲劇を力強く描きあげる。豊穣な大河ロマン小説の新たなる誕生。
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