著者 : P.D.ジェイムズ
2021年、全世界でなぜか子供が生まれなくなって四半世紀が過ぎた。出生率が低下していっても、自分の子供はおろか、文明を受け継ぐ人類の子孫さえ得られなくなるとは、当初は誰も予想だにしていなかった。だがいまや、どんなに素晴らしい文化遺産を残そうと、数十年後にはそれを見る人間は一人としていなくなるのだ…。それが明らかになったとき、社会はどうなるか?絶望と無気力が、世界中を覆った。イギリスでは国守ザンが絶対的な権力を握り、できるだけ最後まで国民の生活水準を維持すると約束していたが、老人の自殺があいつぎ、出産を夢見る女性は想像妊娠をした。ザンのいとこで大学教授のセオは、ある日ジュリアンという若い女性と知りあい、惹かれるものを覚えた。だが、彼女は反体制組織のリーダーの妻だった。組織のメンバーから、セオはザンの執政の恐ろしい裏側を知らされる。組織がザンに目をつけられ、ジュリアンが助けを求めてきたとき、セオは思いがけない逃亡生活に巻き込まれていった。イギリスのミステリ界の実力派が新境地を拓いた、話題の近未来サスペンス。
聖具室の中は、教会とも思えない地獄絵さながらの光景だった。喉をぱっくりと切り裂かれた二つの死体が血溜りに横たわり、傍らには血糊のついた剃刀がころがっている。ひとりは浮浪者のハリー・マック、そして、いまひとりは、あろうことか、元国務大臣の准男爵ポール・ベロウン卿だった。現場の状況以上に、ベロウン卿の死の直前の行動は不可解だった。突然辞表を提出し、いっさいの公的生活に背を向け、死の晩には、訪れる人も少ない教会に、なぜか一夜の宿を求めてきていたのだ。卿の心中ではいったい何が起っていたのか?謎に満たちスキャンダラスな事件の捜査を指揮するよう命じられたダルグリッシュ警視長は、名門ベロウン家に足を踏み入れ、卿の生前の行動を追いはじめた…イギリス女流本格派第一人者が満を持して放つ待望の本格巨篇。英国推理作家協会賞受賞。
不可解なのは、ベロウン卿の行動ばかりではなかった。彼の周辺でも謎めいた怪死事件が続いて起っていたのだ。彼の前妻は、彼が運転する車に乗っていて事故死、母親付きの看護婦は、妊娠中絶後に自殺、そして臨時雇いの家政婦は後妻の誕生パーティーのさなかに溺死していた。ベロウン卿の死とともに再び捜査線上に浮かびあがったこれらの事件に、今回の事件を解く鍵が秘められているのだろうか?そして、浮浪者ハリー・マックはどう絡んでくるのか!従兄弟と情を通じているベロウン卿の妻、出奔して左翼活動家の許に走った彼の娘、売れない俳優で身持ちの悪い義兄…複雑に絡み合う名門の人間関係に分け入ったダルグリッシュが展開する推理とは?緻密に構成されたプロット、現実味溢れる人物・舞台設定、広がりのあるテーマ-現代本格ミステリに新たな地平を拓くと絶賛を博した話題のベストセラー!