五輪の薔薇(下)
屍体窃盗団同士の抗争、私設学校での残忍な児童虐待など、さまざまな危難をきりぬけたジョンを待っていたのは、愛する母メアリーの死だった。しかも、貧困の底で死んでいった母の遺した手記から、自分の父と思われる人物が祖父を殺害したかもしれないことを知る。ますます深まっていく謎に懊悩しつつ、ジョンの心に渦巻いていたのは、自分たち母子を陥れた者たちにたいする怒りだった。誰一人信用できる者もないまま、五つの旧家にかかわる莫大な遺産相続と、五輪の薔薇をかたどった五点図形をめぐる謎の解明にむけ、さらなる冒険に身を投じたジョンを、以前にもまして苛酷な試練が待ちうけていた-。立体ジグソーパズルを思わせる、知的で重層的な謎解きに加えて、19世紀ロンドンのアンダーグラウンドの息吹を現代に甦らせる、驚くほどの臨場感。大河小説、ミステリ、教養小説のすべての魅力をはらんだ大作も、いよいよ、呪われた一族の暗鬱たる過去の秘密が明らかにされる、衝撃のクライマックスへ。
関連小説
すべての発端は、四枚の花弁を持つ薔薇を中央と四隅とに一輪ずつ並べた“五輪の薔薇”の意匠だった。少年ジョンは、母メアリーとの散歩の途中で目にした豪華な四輪馬車を飾る紋章に、なぜか自宅の銀器類と同じその薔薇の意匠がほどこされていることを知る。ほとんど屋敷から出ずに母と二人で暮らすジョンにとっては、そもそも、半幽閉的な自分の生活そのものが謎だった。そして、自分に父親がいないことも。ジョンの問いかけにたいし、かたくなに返答を避けてきたメアリーだったが、ある日、自分たちには邪悪な敵がいて、ジョンの身の安全のために、今こそ重大な選択を迫られているのだと告白する-。出生の秘密、莫大な遺産の行方、幾多の裏切り、そして未解決の殺人事件と、物語文学のあらゆる要素をそなえ、読者を心地好い迷宮へと誘う、波瀾万丈かつ複雑に入り組んだプロット。文豪チャールズ・ディケンズ、ウィルキー・コリンズの作品世界をも凌駕する超弩級の大作が、ついにそのヴェールを脱ぐ。 1998/03/31 発売