バルザックの『サラジーヌ』について
テクストの多義的な複数性を求めて大学の官僚主義や順応主義を逃れ、フランス思想に大きな影響を与えてきた、コスモポリタン的な教育機関である高等研究実習院で、一九六八年から一九六九年の二年間にわたって開講された「サラジーヌ」に関するセミナーの記録。六八年の歴史的な出来事が排除され、後に刊行された書物版『S/Z』とは違い、それにより道筋が変えられ、その影響が垣間見られるセミナーでは、バルトが展開した知的な作業の概観をそっくり見ることができ、バルトの創造の舞台裏が、講義から書物へ、口述から筆記への移行だけでなく、草稿からテクストへの変容の道筋が明らかになる。