出版社 : ベネッセコ-ポレ-ション
時は西暦2002年、かつて大英博物館だった「神殿」で分析係と呼ばれる神官たちが死者の霊と交信している。ゲイブリエラ・サンプターもそうした亡霊の一人だった。ゲイブリエラの語る《人生のルール》に興味を抱いた「わたし」は、次第に彼女に心魅かれていく。現代イギリス屈指の人気作家が奇想天外な着想で描く、近未来心理小説。
モモは、古代の円形劇場の廃墟に住む身よりのない少女が時間どろぼうに盗まれた時間を人々にとり戻す物語である。エンデによって生み出された一人の少女が、なぜ国を越え、世代を越え多くの人々に愛されるのか。「如意宝」と話型分析のユニークな方法論の導入によって、物語の構造とエンデのくれた宝物を読み解き、日本の昔話との共通性・普遍性を探り出す独創的作品論。
はるかな過去からみずみずしく甦える悔恨の粒子。そうありえたかもしれぬ生を夢見、そうでしかありえなかった生を慈しむ、「愛」に純粋な女たちのこぼち落とすひたむきな心情を描く恋愛小説集。
1986年夏のイギリスは、いたるところカットばやりだった。ランダム・ハウス英和辞典で50項目にものぼる複雑多岐な用法をもつ〈CUT〉という言葉を曲芸的に駆使し、しがない純文学作家がテレビの業界人たちに骨までしゃぶりつくされるさまを通して80年代のイギリス社会を諷刺した、超辛口のドタバタ喜劇。
ちょっと頭は弱いけれども気のいい黒人少年ラッキー。身よりのない彼は精神障害施設に送られ、そこで白人の女性教師イルゼに出会う。彼女はラッキーにバレー映画「白鳥の湖」を見せて、人間はすべて自由であることを教えようとするが……。白鳥のように空想の世界に飛翔する少年の姿を通して〈自由とは何か〉を問う、感動の作品。
突然の母の死の知らせこそ、それに引き続いて起こる悲劇の序曲にすぎなかった。父の再婚相手の謎の転落死、そしてその父自身までも不可解な自殺を遂げる。15世紀の古い館を舞台にした怪事件の真相が、ポオとギリシャ悲劇を偏愛する少女の日記によって、次第に明らかにされていく。現代ミステリーの第一人者ルース・レンデルの傑作ゴシックロマン。
ある朝、ドクター・ベックはぼくを呼び止めると、いつもの穏やかな声でいった。「ケニー、例のきみのグループに新人が入ることになったよ」。アイルランドの鬱蒼とした森の中にひっそりと建つ精神病院。そこにガヴィンという謎めいた患者が現われた日から、不可解な事件が連続して起こり、ついに陰惨な殺人に発展する。荒涼たる雰囲気が全篇に充ち溢れたミステリーロマン。
死と非愛の彼岸であるシュイサイドの夢の部屋ごもりから、漱石へ、南島へ、鮎川信夫へと震える触手を生の此岸へ架け渡す。時代の鬱屈した結節点を大正期や幕末に生きた群像へ照らして、再生の姿を変奏した短篇小説集。
四国の名家に生まれ、東京の女学校に学んだ百合子。だが、大正14年雑誌「文芸日本」を興こした進藤延との結婚は破局に終わり、やむを得ず3人の子供を両親に預け、一人東京で暮らしていく。転々と職を変え、やがて蒲田の大部屋女優となるが、ついに我が子と気持ちを通じ合えぬまま、一人孤独のうちに生涯を閉じる。死後、長男の著者の手に渡った遺品の日記からは、我が子を手放さざるを得なかった母親の切実な叫びが聞こえてくる。-あたしは愛したい-この言葉を残して逝った母親の姿を綴った一代記である。
ただひとつ、ずっとわかっていることは、この恋が淋しさに支えられているということだけだ。この光るように孤独な闇の中に2人でひっそりいることの、じんとしびれるような心地から立ち上がれずにいるのだ(「白河夜船」)。あの時、夜はうんと光っていた。永遠のように長く思えた。いつもいたずらな感じに目を光らせていた兄の向こうには、何か、はるかな景色が見えた(「夜と夜の旅人」)。また朝になってゼロになるまで、無限に映るこの夜景のにじむ感じがこんなにも美しいのを楽しんでいることができるなら、人の胸に必ずあるどうしようもない心のこりはその色どりにすぎなくても、全然構わない気がした(「ある体験」)。