出版社 : 中央公論新社
苦闘の末、倒幕はかなった。だが恩賞と官位の亡者が跋扈する建武の新政に、明日があるとは思えなかった。乱があるー播磨に帰った円心は、悪党の誇りを胸にじっと待つ。そして再び、おのが手で天下を決する時はきた。足利尊氏を追って播磨に殺到する新田の大軍を、わずかな手勢でくい止めるのだ。赤松円心則村を通して描く渾身の太平記。
土の龍と書いても所詮はもぐら。だがいつの日か雲を呼び風を起こして真の龍とならん。武士の世を終わらせ、技能者の世に-信玄の遺志を継ぎ、土龍組の旗印に結集した金掘り衆が、雇われて城を陥してゆく。
タクラマカン砂漠、エアーズ・ロック、カッパドキアの岩窟群、実現しなかったサバンナへの旅…そして東京の埋立地にも同じ陽が昇り、懐しい惑星の風景が広がる。著者の記憶と経験を、荒涼と美しい世界との出会いとして描く作品集。
浅草花川戸のトンカツ屋に生まれ、歌手となった高橋伸寿(しん)こと高橋三次郎。ジャズの盛衰、忘れえぬ芸人たち、良き江戸情緒-彼の波乱に満ちた半生とそれを彩った戦後の風俗を活写。樋口修吉7年ぶりの書き下ろし力作長編。
夢をなくしたとき、ふとあなたが足を踏み入れる奇妙な四つの世界。蝶のすかしを入れただけの安価な業務用灰皿が、店先から次々と盗まれていく。灰皿をデザインした夢坂雅人は、犯行予告があった喫茶店で息を凝らして犯人を待つが…。新鋭、初の作品集。
美女伏姫の腹から光を発して飛び散った、仁義礼智忠信考悌の八つの霊玉をそれぞれに持ち、八方に生い立った八犬士。次々と襲いかかる希代の悪人・毒婦達に敢然と立ち向かいながら、遂に八人が対面するまでの波瀾万丈の物語。滝沢馬琴の伝奇小説が、臨場感あふれる挿画とともに、平明な現代語で生き生きとよみがえる。
一瞬の隙に幼い娘が消えた-絶望の果てにバランスを失っていく妻と夫、危うい喪失感のうちに浮び上がる「もうひとつの記憶」…。倒錯的な美意識と痛烈な諷刺。イギリス文学界の奇才が、90年代の「暗黒郷」を幻想的に描く。ウィットブレッド賞受賞。
今をときめく梨園の御曹司と、向島花街に生きる売れっ子芸妓。芸の未熟をつかれて自らを見失い、姿を消した人気役者羽村市之助。一方、彼を案ずるお良の身には向島乗っ取りを狙う陰謀の影が迫り…。明治下町を舞台に人情の機微を描く力作長篇。
昭和十七年二月、日本軍が英領シンガポールを占領し、昭南島と改名した日、彼は二つに引き裂かれた。帝国の臣民か、中華の民か。誇るべき祖国を持たぬ青年は銃を手にする。おのれが何者かを示す、ただそれだけのために-。