出版社 : 人文書院
19世紀初頭の民族再生運動のなかで、チェコ語の復興をめざし、芸術言語たらしめようとした、近代チェコ語の祖ユングマン。ナチスが政権を掌握しようとした時代、多民族と多言語のはざまで共生を目指したユダヤ系翻訳家アイスネル。冷戦下の社会主義時代における亡命作家クンデラ。ボヘミアにおける文芸翻訳の様相を翻訳研究の観点から明らかにする。
日本と朝鮮、戦時下における文化「協力」。“内鮮一体”の掛け声のもと一度は手を取り合いながら、戦後には否認された数々の経験と記憶。忘れ去られたその歴史を掘り起こし、「協力vs抵抗」では捉えきれない朝鮮人作家たちの微細な情動に目を凝らす。日本と朝鮮半島に共有された植民地近代という複雑な体験がもたらす難問に挑み、ポストコロニアル研究に新たな光を当てる画期作。
権力のあり様を分析し、「真実の生」の意義を説いたこのエッセイは、冷戦体制下の東欧で地下出版の形で広く読まれただけでなく、今なおその影響力はとどまることを知らない。形骸化した官僚制度、技術文明の危機を訴える本書は、私たち一人ひとりに「今、ここ」で何をすべきか、と問いかける。無関心に消費社会を生きる現代の私たちにも警鐘をならす一冊。解説、資料「憲章77」を付す。
「人間のモラル」の底を描く、余韻に富んだ最新作。欲望すること。歳をとること。人間であること。円熟期にある作家が、今どうしても伝えたいこと。ノーベル賞作家が、これまで自明とされてきた近代的な価値観の根底を問い、時にシニカルな、時にコミカルな筆致で開く新境地。英語オリジナル版に先駆け贈る、極上の7つの物語。
母さん、あの大仏をこわしてよ!母を失くした居場所なき少年は、この世の権威を憎んでいた。その象徴をこわしたとき、男たちがつくり上げた正史の余白から、いかなる物語が流れ出るのか。時空を超え、生死の境に降り立つ未踏の日本文学。
だけど、大人ってなんだ、それに老人ってなんだ?歳を取った子どもだよ。老いるとは?長年つれそった夫婦の愛情とは?共産党時代のソ連への旅のなかで、ささいな誤解から生じた老年カップルの危機と和解。男女それぞれの語りが視点を交互に替えて展開される。老いをみつめた傑作小説。
よく見届けて。眼をそらさないで。息子を見失ったその人は、それでも夢をたゆたい記憶を辿りながら、共に過ごした時間のあの喜びを見届けてくれる存在を求めつづけた。囚われなき情愛を通じて、人生を再び歩み始めるまでの道程を描く傑作。
なにが本当の喜びなのだろう?あなたはなぜ書いたのか、一人で子を成す孤独を。あなたも知っていたのか、子を奪われる苦しみを。千年の時を超え、平安時代の王朝物語「夜の寝覚」の作者とともに、人間の幸福の意味を問いかける名著。
ヴェトナム戦争末期、プロパガンダを練るエリート青年。18世紀、南部アフリカで植民地の拡大に携わる白人の男。ふたりに取りつく妄想と狂気を、驚くべき力業で描き取る。人間心理に鋭いメスを入れ、数々の傑作を生みだしたノーベル賞作家J.M.クッツェー。そのすべては、ここからはじまる。
1985年の春、その人は息子を失った。そして絶望の果てに、夢と記憶のあわいから、この「連作」を紡ぎはじめた。彼女は何を信じ、何に抗いつづけているのか。聞き届けられるべき、不滅の物語。
私を死に追いやるのは誰か。自死の連鎖の中でもがく「無間道」三部作、植物的な死生観を人間世界に持ち込んだ「アルカロイド・ラヴァーズ」、単行本未収録の短篇四篇を収録。
私は移民に何を見るのか。私/かれらの境界を突破する「目覚めよと人魚は歌う」「砂の惑星」「チノ」「ハイウェイ・スター」、単行本未収録「人魚の卵」「風の実」等を収録。
私はなぜ権力になびくのか。人々が政治に求める欺瞞と暴力をえぐる「在日ヲロシヤ人の悲劇」、大幅改稿「ファンタジスタ」、短篇三篇の他、単行本未収録「先輩伝説」を収録。
私はいつ集団に呑み込まれたのか。家族依存・国家依存からの脱出口を探る「毒身」二部作、「ロンリー・ハーツ・キラー」の他、単行本未収録「フットボール・ゲリラ」を収録。
『閨房哲学』は、18世紀以前の思想や同時代の啓蒙思想が入り込み、豊饒なテクストが形成されている。サドの哲学が性と見事に結びついたリベルタン文学の集大成であり、とりわけ途中挿入された「フランス人よ、共和主義者になりたければあと一息だ」は有名だ。これまでにも翻訳がみられるが、本書は18世紀初版本の当時のテクストを忠実に再現し、最新の研究成果をともなった詳細な注と解説を付す決定版といえる。
厳格さで知られる初老の美術鑑定士と決して姿を見せない謎の女。美術と骨董とオークションの世界に彩られた鮮やかなミステリー。『ニュー・シネマ・パラダイス』の監督による初めての原作小説。