出版社 : 小学館
文部省唱歌「故郷(ふるさと)」誕生の秘められたドラマ 長野県内の小学校教師だった国文学者・高野辰之は、向学心に燃えて故郷を飛び出したものの、志を果たせず文部省の下級官吏になっていた。作曲家・岡野貞一は鳥取県の没落士族の家に生まれ、飢餓線上をさまよったがやがてキリスト教会に引き取られて賛美歌と出会い、その後東京音楽学校に入学、さらに母校で教鞭をとっていた。「文部省唱歌」として広く知られている「故郷」の他「春がきた」「春の小川」「朧月夜」はこのコンビによる作品である。この二人に加え、ミス上海、シルクロード探検隊といった二人をとりまく絢爛たる群像を追いながら、私利私欲だけでは前に進めないときがあった明治という時代の「夢」を浮き彫りにしていく。
いま、すべての30代におくるほんとうの日本人の物語 昭和16年、「内閣総力戦研究所」に軍部・官庁・民間から選りすぐった将来の指導者たちが集められた。それぞれの出身母体に応じて「模擬内閣」を組織し、戦局の展開を予想したのだ。単なる精神論ではなく、兵器増産の見通し、食糧や燃料の自給度や運送経路、同盟国との連携などについて科学的に分析、「奇襲作戦が成功し緒戦の勝利は見込まれるが、長期戦になって物資不足は決定的となり、ソ連の参戦もあって敗れる」という結論を導き出した。この報告は昭和16年8月に、当時の近衛内閣にも報告され、後の首相となる東條陸将も真剣に受け止めていたはずだった。
環境破壊の進む八〇年代の西ドイツで、義兄の経営する化学工業会社のハッカー追跡を依頼された私立探偵ゼルプは、調査を進めるうちに義兄と自分の過去に関わる重大な事実をつかむ。戦前ナチの政権下で検事だった彼は、過去の罪の意識を頑なに持ち続け、自ら歴史の暗闇に入り込んでいくが…。『朗読者』の作家が知人と共作した初の長編ミステリ。
あの女に逢いたい!美人コンテストの優勝者クラッシーに一目惚れした未収金取り立て業者のエイプリルは、彼女の人生を過去から現在まで調べあげる。彼の想像とは裏腹に、彼女は金という目的のためには手段を選ばず、次々に男を食ってのし上がる悪女だった。だが彼は彼女の魅力に逆らえず、ついに彼女の現在の消息を知ることに成功するが…。技巧派ミステリの才人が放つ異色の長編。
読めない名前の子どもたちが殺される!?被害者の名前は「五百旗」に「計徳」。掌には謎のメッセージ「1+1=」。深夜の公園で彼女は何をしていたのか?隣りのオタクに気をつけろ!手首を斬り落としたのはなぜ?食べてはいけない!謎また謎。ツイストに継ぐツイスト。スピーディで華麗な展開。どんでん返しの連鎖反応があなたをつかんで離さない!9年の沈黙を破って黒崎緑が秘術をつくす待望の長編ミステリ。
医術が秀吉の天下を決めた!隠し名参謀の野望とは? 時代歴史小説の旗手として注目を浴び、着実に秀れた作品を発表し続けている著者の傑作である本作品は、甲賀出身で比叡山に学び、師・曲直瀬道三を踏み台に豊臣政権の中枢に食い込み、秀吉の筆頭侍医となった施薬院全宗の生涯を描く。竹中半兵衛、黒田如水、石田三成らの名だたる側近に伍し、天下統一、世継問題に重要な鍵を握った隠し名参謀の野心と乱世が見事に描出されて、吉川英治文学新人賞候補となった。
ミカドの国を跋扈する映像メディアの正体 戦後、マッカーサーは自らの尊大な姿を見せることで日本を支配し、逆に昭和天皇はまったく無防備なまま登場、それが日本人のイメージを決定づけた。力道山はアメリカでただ強くなるだけではなく、テレビを通して強く見せることを学んで帰国し、熱狂的なブームを引き起こした。演出があるのがわかっていてもなお、映像の持つ力は強い。それをいち早く察知し利用しようと行動を起こした人々が結果的に"第4の権力"を支配、莫大な利権を獲得していく。正力松太郎や田中角栄を「テレビ」という観点から捉えることで、新しい「日本の近代」もみえてくる。1990年代に上梓された名著に、その後のメディアの変遷を追った増補版(約80枚)を加えた完全版。
日本人が目指したライフスタイルのルーツとは 都心に勤めるサラリーマンにとって、東急沿線の住宅地、とりわけ田園調布に一戸建てを持つ、というのが一つのステイタスだが、内実は、満員電車での苦痛な通勤でしかない。そもそものルーツはかの渋沢栄一の息子・秀雄がイギリスのガーデンシティーに魅せられて構想を立てた田園都市計画。しかしこの構想は、五島慶多を始めとする野心あふれる実業家によって欲望に満ちた不動産業へと変貌する。大学の誘致、住宅地と鉄道敷設を一体にした開発、在来私鉄の買収劇など東急王国はみるみる増殖、ロマンあふれる構想はもろくも挫折した。関東大震災後、東京という街がいかにして出来上がっていたかを検証する『ミカドの肖像』の続編ともいえる近代日本論。
昭和末期の日本を騒然とさせた、あの名著がいま甦る。 丸の内の東京海上ビルの高さが99.7mに抑えられた理由は? お召し列車運行の際の3原則とは? ヨーロッパでポピュラーな「ミカド」ゲームとは? アメリカ・ミシガン州に「ミカド」という町がある? 欧米では誰もが知っているオペラ「ミカド」とは?「プリンスホテル」が発展してきた陰にあったブランドとしての皇室の意味は?なぜ「御真影」が外国人によって描かれたのか?──いくつもの「?」を解くことで、「近代日本」と「天皇」が鮮やかに見えてくる。妥協を許さない綿密な取材と、世界的視座に立った壮大な考察から導き出される真理の的確さはこれまでの日本論の常識を覆した。昭和62年に大宅壮一賞を受賞。
花菱清太郎が家族全員を巻き込んで始めたのは、レンタル家族派遣業。元大衆演劇役者という経歴と経験を武器に意気揚々と張り切ったものの、浮草稼業に楽はなし。失敗につぐ失敗に、借金がかさみ火の車。やがて住む家すらも失い、かつての義理で旅まわりの大衆演劇の一座に加わることとなったがー。はてさて、一家六人の運命やいかに。
「損失先送り商品」「サービサー」「バルク買い」-綿密な現場取材をもとに描き出した、不良債権に群がるカネの亡者たちの凄絶な闘いと日本経済の闇。不良債権の内幕小説。
主人公・小谷四太郎は六次郎、八三郎、十二四郎という男ばかりの四人兄弟の長兄。明治生まれの両親の死後、兄弟たちそれぞれの家庭に数々の問題が起こった。それは他人から見ると一見平凡で、どこの家庭でも起こりうるような出来事だが、当の家族にとってはとてつもなく大きい。そんなある日、四太郎は重大な決心をした…。生きがいのある老年の物語。
「井伏さんは悪人です」。太宰治の遺書の謎に迫る本格評伝ミステリー 太宰治といえば常に死を追い求めるひ弱な男で、ついには自分に『人間失格』の烙印を押して死を選んだ、というイメージだった。本作では、遺書に書かれた「みんな、いやしい慾張りばかり。井伏(■二)さんは悪人です」という一文に着目、綿密な取材によって、師と仰いだはずの文豪との確執や、度重なる自殺未遂に隠された目論見などを解いていく。ここで描出された太宰はけっして厭世的な男ではなく、小説のために目標を設定しては破壊する勤勉さを持ち、懸命に生きようとしていた……固定観念に縛られた従来の評伝では見えなかった人間くさい太宰は、妙に魅力的である。河村隆一主演で映画化も決まった『日本の近代 猪瀬直樹著作集』の第4巻。
雑誌の黎明期を駆け抜けた二つの才能と、その哀感を描く、青春小説 ノーベル文学賞作家・川端康成と「マスコミの三冠王」といわれた大宅壮一は、ともに大阪・茨木中学出身。家庭的に恵まれず、子供らしい経験のないまま成長していく二人は在学中に顔を合わせることはなかったが、ともに雑誌への投稿に熱中、文学界への憧れを抱く少年だった。紆余曲折を経て上京した二人は、作品が認められない不安や経済的な苦労に追われる無為な日々を過ごすが、同時代を駆け抜けた芥川龍之介、菊池寛、横光利一といった作家たちの交流の中で、徐々にそれぞれの才能を開花させていく。現代の情報化時代の原点ともいうべき、大正時代の雑誌出版草創期の時代精神を背景に、不世出の天才が世に出るまでの闘いを描いた青春小説。
口を開けば「親たるものの極意はだなあ“ほどよく長生き死ぬまで元気だ”」とうそぶいていた父親が遺書遺産も心もとなく要介護状態に。時をいつにして叔父の通夜、葬儀…これでもかとばかりに押し寄せる不測の事態。その度に鳴る携帯電話。「こうなればとことんつきあおうじゃないか」自らの体験をもとに書き上げた共感小説。