出版社 : 岩波書店
歌姫アヌンツィアータに思いを寄せる青年詩人アントーニオ。南国イタリアの自然と人物を背景にくりひろげられるアンデルセン(1805-75)の愛の物語『即興詩人』は、永遠の青春文学として、いつの時代にも読みつがれるだろう。流麗明快なデンマーク語からの原典訳に、作者自身のイタリア旅行スケッチをそえておとどけする。
アンデルセンにとってイタリアはつねに憧れの国であった。28歳の時はじめてかの地に旅し、その芸術と美しい自然、素朴な庶民の生活にふれて強い感銘を受けた彼が、「これらすべての印象を再現しよう」として筆を起こしたのが、この『即興詩人』である。アンデルセンの出世作であり、彼の名を世界的なものに高めた小説。
デミアンは、夢想的でありながら現実的な意志をいだき、輝く星のような霊気と秘めた生気とをもっている謎めいた青年像である。「人間の使命はおのれにもどることだ」という命題を展開したこの小説は、第1次大戦直後の精神の危機を脱したヘッセ(1877-1962)が、世界とおのれ自身の転換期にうちたてたみごとな記念碑ともいうべき作品である。
プーシキン晩年の散文小説の最高峰。実直な大尉、その娘で、表面は控え目ながら内に烈々たる献身愛と揺るがぬ聡明さを秘めた少女マリヤ、素朴で愛すべき老忠僕ー。おおらかな古典的風格をそなえたこの作品は、プガチョーフの叛乱に取材した歴史小説的側面と二つの家族の生活記録的な側面の渾然たる融合体を形づくっている。
この小説は一平民青年ジュリアン・ソレルの野心をとおして、貴族・僧侶・ブルジョアジーの三者がしのぎをけずる7月革命前夜の反動的で陰鬱なフランス政界と社会を、痛烈な諷刺をこめて描き出した社会小説である。
ナポレオン没落後、武勲による立身の望みを失った貧しい青年ジュリアン・ソレルが、僧侶階級に身を投じ、その才智と美貌とで貴族階級に食い入って、野望のためにいかに戦いそして恋したか。率直で力強い性格をもったジュリアンという青年像を創出し、恋愛心理の複雑な葛藤を描ききったフランス心理小説の最高峰。
戦場を脱出、追跡を逃れて湖上を渡る恋人たち。だが、安住の地を求める彼らに対して運命は非情であった。作者はこの小説を現代の「ロメオとジュリエット」だと言ったというが、戦争と恋愛を主題としたこの小説ほど国境を越えて愛読されているものは稀であって、読後、悲劇の秀作を観おわったような、さわやかなカタルシスを感じさせる。
第一次大戦のイタリア戦線。アメリカ人中尉ヘンリーは武器を投げ捨て、恋人のイギリス人特志看護婦バークレイとともに非情苛酷な戦場から逃れる。だが、運命は彼らの愛の成就を許さなかった。物語は、余分な修飾語をはぶき、歯切れのよい文体で展開してゆく。前作『日はまた昇る』で得た名声を確固不動のものにした傑作。