出版社 : 徳間書店
まるで時の女神が回収し忘れたようだ。北の大地の片隅に、ぽつんとたたずむ中学校分校には、一年生四人と三年生一人が学んでいた。たった五人でも、自称霊感少女もいれば、嘘つきな少年もいる。そこに赴任してきたのは、まったくやる気のない若い教師。けれど、やがて彼が知ることになる少年の嘘の痛ましい理由とは?ときには悩み、傷つきながらも、成長していく五人の、胸を打つ青春前期物語。
清六と四郎は四十年以上「四六漫才」という名で芸人を続けているが、勢いを失い客も入らない。そんな二人に奇跡が!舞台上に乱入してきた男を清六が鮮やかに倒したのだ。会場は大盛り上がりで一躍彼らは時の人に。だがその映像をTVで見た今野淳一は「あれは間違いなく相手を殺すための技だ」と見抜く。清六の過去を探りはじめると謎の殺し屋組織に狙われていることがわかり…!
御家人やくざの白九郎の相棒は、牙黒と名付けた雑種の犬。なぜか、話ができる。柳原の土手を縄張とする野犬たちも、義侠心で結ばれた仲間だ。その土手になんと三万両の埋蔵金が隠されていた!?嗅ぎつけたのは旗本、川舟役人、やくざ者。お宝を掘り出すのに野犬は邪魔と、土手に毒をバラ撒いた。「許せねえ!」と白九郎と牙黒は、その埋蔵金を餌に一網打尽の罠を仕掛ける。
平安末期、源氏方の十六歳の武者、草十郎は、野山でひとり笛を吹くことが好きな孤独な若者だった。将として慕った源氏の御曹司・義平の死に絶望した草十郎が出会ったのは、義平のために魂鎮めの舞いを舞う少女、糸世。彼女の舞に合わせて草十郎が笛を吹くと、その場に不思議な“力”が生じ…?特異な芸能の力を持つ二人の波乱万丈の恋を描く、『空色勾玉』の世界に連なる荻原規子の話題作!
惹かれあう天性の舞姫・糸世と笛の名手・草十郎。二人が生み出す不思議な“力”に気づいた上皇は、自分のために舞い、笛を奏でよと命ずる。だが糸世は、その舞台から神隠しのように消えた。鳥たちの助けを得て、糸世を追い求めていく草十郎の旅は、やがてこの世の枠を超え…?四つの文学賞を受賞した、日本のファンタジーの旗手・荻原規子の不朽の名作、待望の文庫化!
エマノンが旅を続けているのは、特別な目的があるのではなく、何かに呼ばれるような衝動を感じるからだ。人の住まなくなった島へ渡り、人里離れた山奥へ赴く。それは、結果として、絶滅しそうな種を存続させることになったり、逆に最期を見届けることもある。地球に生命が生まれてから現在までの記憶を持ち続ける彼女に課せられたものは、何なのか?その意味を知る日まで、彼女は歩く。
銀次郎の全身から、さながら音を立てて炎を噴き上げていくかのような凄まじい殺気が放たれつつあった。双方まったく動かない。敵の「雷がえし」は殺意を隠し激情を抑え、黙々として暗く澄んでいる。月に雲がかかり、濃い闇が二人を包んだ。闇の中空で鋼の激突しあう音が聞こえ、無数の小さな火花が闇の中を走る。月明かりが戻り、二人の姿が浮かびあがった。ともに息ひとつ乱れていない。
栃木県の那須で開催されるゴルフのビッグトーナメント直前に、「この大会中に、あいつを殺してやる」という脅迫状が舞い込む。競技委員の吉田は十津川に警備を依頼するが、その夜、ひき逃げ事故で死亡。そして、大会最終日、小銃狙撃による殺人事件が起きる。姿を見せない殺人者の狙いは?十津川の推理は!?巻末企画・特別連載「寝台特急トワイライトエクスプレスを爆破せよ」。スペシャル・インタビュー。都道府県別データ。わが故郷の駅弁自慢。
のどかだった町は、すっかり変わってしまったー。移り住んできたよそ者たちの度重なるトラブルに頭を抱えていた桃ノ木坂互助会会長の光太郎。元海自曹長でもある彼は、悪い芽は早く摘まねばと、町に害を及ぼす人物を仲間たちとともに次々と町から追放することに。次なるターゲットは、大家とトラブルを起こしていた男、武藤。しかし、男を狙っていたのは光太郎たちだけではなかった。とある事件を機に、互いの思惑は狂い始め…。江戸川乱歩賞作家の新機軸ミステリー。
両親と兄弟を流行り風邪で亡くし、叔母に育てられている十歳の少女・おさき。箱根山を登る旅人の荷物持ちで生計を立てている彼女は、ここ数日、幾度も見かける若侍が気になっていた。旅人はおおむね、道を急ぐもの。おさきの視線に気づいた若侍は来島主税と名乗る。人探しのため西に赴く途中だというが…(表題作)。東海道を行き交う人びとの悲喜こもごもを清冽な筆致で描く連作集。
幼子の母亜矢子の最近の苛立ちの原因は、ママ友仲間の中心人物麻由による理不尽な嫌がらせ。コミュニティ唯一の独身女性時恵や旧友志穂を心の支えとしつつも、無関心な夫、育児疲れもあいまって、亜矢子は追い詰められ、幸せな日常から転落していく。その破滅の裏側には、思いも寄らない「悪意」が存在していた…。不世出のストーリーテラーが新境地を拓いた、傑作心理ミステリー!
地球に生命が誕生して以来の記憶を受け継がせるため、エマノンは必ず一人の娘を生んできた。しかし、あるとき男女の双生児が生まれて…。「かりそめエマノン」小学四年生の夏休みを曾祖母の住む九州で過ごすことになったぼく。アポロ11号が月に着陸した日、長い髪と印象的な瞳をもつ美少女エマノンに出会った。それは忘れられない記憶の始まりとなった。
最先端の施設警備システム・ROMESを擁する西日本国際空港で、密輪の摘発が続いた。税関から協力要請を受けた空港警備チームは、ROMESを駆使して次々と運び屋たちを発見していく。だが、うまく行きすぎる。疑問を抱いたシステム運用の天才・成嶋優弥はひそかに調査を開始する。大模規密輪を隠れ蓑にして進んでいた恐るべきテロ計画。成嶋は首謀者の男の執念に対抗できるか?
江戸中期、宝暦の京と江戸に怪異が生じた。数珠屋の隠居が夜ごと憑かれたように東山に向かい、白花の下で自害。紀州藩江戸屋敷では、不思議な蓮が咲くたび人が自死した。はぐれ公家の庭田重奈雄は、この世に災厄をもたらす異界の妖草を刈る妖草師である。隠居も元紀州藩士であることに気づいた重奈雄は、紀州徳川家への恐るべき怨念の存在を知ることにー。新鋭が放つ時代伝奇書下し!
かつて御小人目付として剣と隠密探索の達人だった九十九九十郎。だがある事情で職を辞し、今は「仕舞屋」と称してもみ消し屋を営んでいる。そんな九十郎の家を、ある朝七と名乗る童女が賄いの職を求めて訪れた。父母を失ったという七は断っても出て行かず、父仕込みの料理で九十郎を唸らせる。「侍」のもとで働きたいという七の真の目的とは?九十郎の情と剣が、事件と心の綾を解く!時代小説・書下し。
文化二年、お盆の頃。摂津尼崎藩江戸家老・塩谷隼人は胸に虚しい思いを抱えていた。それは、還暦を過ぎた今となっても父の仇討ちを果たせていない悔恨からきている。そんな折、両国広小路で暴漢たちに絡まれていた一人の武士を助けた。松崎と名乗るその武士は、聞けば四十年の間、親の仇を追う身であり、奇しくも隼人と同い年であった。因縁を感じた隼人は、助太刀を決意するが…。
「わたしは、天下布武の子なのだ。何があろうと、決して上様を裏切らない。上様の御為に生きて死ぬ」。信長に初期から仕え、武名高き森三左衛門。その子として美濃・金山城に生を受けた森乱丸は、幼き日に、敬愛する父と兄を戦で失った。やがて美しく才気溢れる若者に成長した乱丸は、信長自らに請われ、近習として仕えることになる。完成間近の安土城、天下の頂点に立とうとする主君。その傍らで苦楽を共にする近習、そして名高き戦国武将たち。十三歳の若武者の目に映じたその姿と心の内とは…。百年の乱世を畢わらせる。主君の大望を果たすため、若武者は、自らの生を賭ける!