出版社 : 徳間書店
十四歳、夏。伏姫麒麟は、一度だけ死のうと思った。ここではないどこかへ行きたいーコインロッカーで生まれた犬彦は願った。麒麟の夢に現れる、前世の記憶。遙か昔より、幾たびも生まれ変わり、出会いと別れを繰り返してきたひとりの少女と三人の少年の物語。そして現代。海辺の町で、同じ記憶を持ったふたりは出会った。麒麟と犬彦の、仲間を捜す最後の旅がはじまる…。切なく、狂おしく、そして泣きたいほど優しい青春小説。
神田の呉服屋が襲われた。五百両のほかに、反物がごっそり持ち去られ、手代の姿が消えたのだ。奉公人を仲間に引き入れるという盗みの手口から、岡っ引きの銀次らは上州党と目星をつけるが、三年前に江戸から行方を晦ましたままだった…。
四谷署刑事課勤務時代に誤認逮捕の責めを負わされてからというもの、勝手気ままに生きることを決意した土門岳人警部補が、いまだに警視庁捜査四課の暴力団係刑事を務められるのは、有資格者の醜聞や不正の証拠を握っているからだ。むろん、闇社会の猛者たちも、ヤリたい放題の土門に対しては、「触らぬ神に祟りなし」と、見て見ぬフリを決め込んでいる。その“狂犬”に、美人フリー・ジャーナリストの久世沙里奈から電話があった。聞けば、同棲している銅版画家の轟麻衣が三日前から行方不明という。どうやら、いま沙里奈が取材中のインターネット犯罪集団“報復屋”が絡んでいるらしい-。
ビッグオー、ショウタイム!記憶喪失の街・パラダイムシティで起きる連続殺人とアンドロイド失踪事件。それは、シティを襲う大いなる災厄の予兆だった!?シティ随一の交渉人ロジャー・スミスと彼が駆る巨大ロボットビッグオーは、シティを救うことができるのか?ロボットアニメの雄、サンライズが生み出したビッグオー、小説世界でもアァァークション。
指を差して強く念じれば、その対象を殺すことができる-路子は、そんな不思議な能力を持っていた。二十歳の誕生日目前、胸に秘めた「決意」を実行に移さんとする彼女は、急病に倒れた瀕死の母親を見て、やり場のない怒りを抱くこととなる。「この女を殺すのは私。病気で死ぬなんて、絶対に許さない…」看病に没頭する日々が始まった。真摯な医師鷺森、難病の少女彩乃らとの交流は、愛情薄い両親への復讐心に凝り固まった路子の心を解すことができるのか…?生とは?死とは?親子の絆とは?日本SF新人賞受賞作家が描く、感涙のドラマ。書下し。
海岸線を襲う、見えざる電離性放射線、その名も「デヴィルレイズ」。列島をぐるりと取り囲んだ謎の海面物質「悪環」が放散するウィルスによって、日本は壊滅的な打撃を被った。食料不足、エネルギー枯渇、円の大暴落、自殺者の増加、果てには国家非常事態宣言。実質的な「鎖国」状態に陥ったこの日本で、天間ルナ、有働仁ら“孤児”たちは如何に戦い、如何に生き抜いていくのか!?破滅後の世界を描く圧倒的な筆力と、魅力的な登場人物達の存在感。選考委員長・筒井康隆氏をして、「作品が孕んでいる熱気はただごとではない」と言わしめた、第4回日本SF新人賞受賞作、堂々刊行。
19歳の姫子が恋した美しい青年・翼。翼を追うアーバン・リサーチの探偵・佐竹。翼の痕跡に、連続猟奇殺人事件が絡む。耳が削がれた死体は、何を語るのか?姫子を守ろうとするアーバン・リサーチの面々。翼の心の闇に踏み込む姫子…。
待っていた。足の震えを寒さのせいにしながら。小霏を殴った袁力という上海マフィアのマンションの前。拳銃は、懐に入っている。小霏は恵と名乗った。雑居ビルの中のクラブ“魔都”。他の女は日本語が下手だった。給料日の夜、小霏は上海の近くの自分の村の話をした。問われて、おれのろくでもない家族や、生い立ちの話をしていた。本名の小霏で呼んでよいといわれた。金。続かなかった。客と店から出てきた小霏を尾けた。金を払わず逃げた客と間違えられ殴られた。小霏も。恐怖。狂犬のような袁力。殺してやる。
「近藤、こいつをおれだと思って持っていってくれ」そう言って、真鍋はスイス製の高価なクロノメーターを突き出した。「おれの代わりにこいつを出撃させてやってくれ。おれたちは一蓮托生だ」九七式艦上攻撃機の乗員である一等飛行兵の近藤(操縦員)、鈴原(電信員)、真鍋(偵察員)の三人は、海軍鹿児島基地での猛訓練を経て、いままさに実戦に臨もうとしていた。出撃命令の下らなかった真鍋を残し、近藤らはオワフ島の北方二百三十海里の海上でハワイ空襲部隊の旗艦・空母『赤城』から飛び立つべく、自機に搭乗した-。昭和十六年十二月八日。若き飛行兵たちを通して真珠湾攻撃のすべてを描く、鳴海章渾身の書下し長篇大作。
ト・ツ・レ“突撃隊形制レ”…。土手っ腹だ、土手っ腹をねらえ!照星、照門が重なり敵艦・ウエストバージニアの中央-ちょうど煙突と煙突の間にぴたりとのった。「射っ」八百三十キロの魚雷を投下した九七式艦上攻撃機は、近藤の意志とはかかわりなく、ふわりと浮かびあがった。「魚雷は?」「走ってます!」鈴原は白い航跡を曳きながら敵艦に向かって真っ直ぐ走る魚雷の姿を捉えた。「右舷甲板に対空砲。鈴原、撃て!」九七艦攻の旋回機銃とウエストバージニアの対空機関砲が真っ向からむきあった。鼻先を薄緑色の曳光弾が唸りをあげる。衝撃波が顔を打つ。鈴原はのけぞり、そのまま側壁にたたきつけられた-。迫真、長く短い真珠湾攻撃の一日。