出版社 : 文藝春秋
黒船が来航したその年。喜平次はわけあって素性を隠し、渡良瀬川のほとりで渡し船の船頭となっていた。村人たちに頼られる存在となりつつあった喜平次だが、一体彼の目的ー背負わされた宿命とは何なのか。時代の転換期、武士としての誇りを失いかけた男が、己の進むべき道を見極める姿を描く、傑作時代長篇。
震災発生の三日後、小説家のネムオはネット上で「それはなんでしょう」という言葉遊びを始めた。一部だけ明らかにされた質問文に、出題の全容がわからぬまま無理やり回答する遊びだ。設定した時刻になり出題者が問題の全文を明らかにしたとき、参加者は寄せられた「問いのない答え」をさかのぼり、解釈や鑑賞を書き連ねる。そして画面上には“にぎやかななにか”が立ち上がるーことばと不条理な現実の本質に迫る、静かな意欲作。それぞれの場所で同じ時間を過ごす切実な生を描いた、著者四年振りの長篇群像劇。
「二億円用意しろ。さもなくば大詰めで女優を殺す」一本の電話が、帝劇関係者に激震を起こす。満員の観客が見守る中、演劇界の至宝二人の老優たちが繰り広げる魂の舞台の行方は果たしてーバックステージで同時進行する緊迫の駆け引き、愛憎渦巻く人間ドラマ。有吉佐和子の天才が光る。傑作ミステリー長編。
平安時代に活躍した小野篁。現世と霊界とを自由に行き来したという彼の予言書には京都に災いが起こると記されていた。その予言書の持ち主が十津川を訪れ、忌まわしい来歴について語り調査を依頼すると、行方を絶った。京都で次々と起こる怪事件。予言書との関連は何か?悲劇をくい止めるべく、十津川は京都へ向かった!
若い武士の刺殺体が見つかった。滅多刺しだったことから、恨みによるもの、また女の仕業であることが疑われた。調べを進めると、武士は評判の悪い旗本の倅で、人形問屋の娘を弄び、身投げに追い込んでいたという。手下とともに真相を暴いた南町奉行所吟味方与力・秋山久蔵が、最後に見せた裁きとは?大好評シリーズ第19弾!
同情は美しい? それとも卑しい? 「許せないなら別れる」--恋人の隆大が、求職中の元彼女・アキヨを居候させると言い出した。百貨店勤めの樹理恵は、勤務中も隆大とアキヨとの関係に思いを巡らせ落ち着かない。悩んだ末に樹理恵がとった行動はーー。週刊誌連載時から話題を呼んだ表題作と、女子同士の複雑な友情を描く「亜美ちゃんは美人」の二篇を収録。第6回大江健三郎賞受賞作。(解説・東直子)
学校と音楽をモチーフに少年少女の揺れ動く心を瑞々しく描いたSchool and Musicシリーズ第二弾。物心つく前から教会のオルガンに触れていた18歳の一哉は、幼い自分を捨てた母への思いと父への反発から、屈折した日々を送っていた。難解なメシアンのオルガン曲と格闘しながら夏が過ぎ、そして聖夜ー
凶悪レイプ犯を取り逃がし、自らも深い傷を負った女刑事・一ノ木薫。警察を辞めて彼女がはじめた新しい仕事はー「交渉屋」。ハートウォーミング・ハードボイルドの傑作連作小説集。
イケメンさるどんに遊びれた純情かにどん(「さるとかに」)じじとばばが始めた新商売とは?(「花咲かじじい」)一寸法師が姫君を手に入れた計略(「一寸法師」)六人の地蔵と、六人の息子たち(「笠地蔵」)ほか、大人も子どもも楽しめる直木賞作家・乃南アサが贈る、ユニークな昔話集。
西行、平泉で藤原秀衡に邂逅す。内大臣頼長の密命を受け、遙か奥州平泉に向かった西行はかの地で若き藤原秀衡と出会う。末法の世に奇跡の王国を見た西行の胸に去来した想いとは。
人気ユーモア・ミステリー、待望の文庫化! 大学の怪事件に挑むヘタレ教員・クワコーと奇人ぞろいの文芸部員。教員の自虐と女子学生の暴言が衝突するとき謎は解かれる。全3編。
生まれなかった子が、新たな命を身ごもった母に語りかける。あたしは、海のそばの「くけど」にいるよー。日本の土俗的な物語に宿る残酷と悲しみが、現代に甦る。闇、前世、道理、因果。近づいてくる身の粟立つような恐怖と、包み込む慈愛の光。時空を超え女たちの命を描ききる傑作短編集。泉鏡花文学賞受賞。
人は己の血にどこまで縛られるのか?高名な日本画家の家系に生まれながら、ペットの肖像画家に身をやつす時島一雅は、かつてない犬種の開発中というブリーダーの男に出資を申し出る。血の呪縛に悩みながら、血の操作に手を貸す矛盾。純白の支配する邪悪な世界への憧憬。制御不能の感情が、一雅を窮地へと追い込んでゆく。