著者 : 角田光代
1967年生まれの飛馬が育った時代は、みんなノストラダムスの大予言を信じてUFOを待ち、コックリさんに夢中になった昭和のオカルトブーム真っ最中だった。戦後すぐ生まれの不三子は文化的な生活を知らずに育ち、マクロビオティックの食事で子育てをしたのに、娘や息子とうまくいっていない。高度経済成長期の日本に育ち、昭和平成を生きたふたりがコロナ禍の子ども食堂で出会った時、そこに生まれたものは何だったのかー。予測不能な世界を生きる私たちに切実な問いを投げかける角田光代の新たな代表作!
今、だれもがスタートを待っている。周囲の人々が“意義ある仕事”に邁進する中、心に深傷を負い、無気力な中年になったみのり。実家に届く不審な手紙、不登校になった甥の手で祖父の過去がひもとかれるとき、みのりの心は、予想外の道へと走りはじめるー。
イラストレーター井出ちづる。夫は若い女と浮気をしている。嫉妬はまるで感じないがそんな自分に戸惑っている。早くに結婚して母となった岡野麻友美。自分ができなかったことを幼い娘に託し、人生を生き直そうとする。帰国子女で独身の草部伊都子。著名翻訳家の母のように非凡に生きたいと必死になるが、何ひとつうまくいかない。三人は女子高時代に少女バンドを組んでメジャーデビューをした。人生のピークは十代だったと懐かしむ。三十代となったこれからの人生に、あれ以上興奮することはあるのだろうか…。『対岸の彼女』直木賞受賞時に書かれた、女たちの物語。14年間埋もれていた傑作が、今、私たちの魂を揺さぶる。著者5年ぶりの長編小説。
妻に離婚を切り出され取り乱す夫と、その心に甦る幼い日の記憶(「月が笑う」)。人気料理研究家になったかつての親友・春花が、訪れた火災現場跡で主婦の紀美子にした意外な頼みごと(「平凡」)。飼い猫探しに親身に付き添うおばさんが、庭子に語った息子とおにぎりの話(「どこかべつのところで」)。人生のわかれ道をゆき過ぎてなお、選ばなかった「もし」に心揺れる人々を見つめる六つの物語。
全世界で聴かれているNHK WORLD-JAPANのラジオ番組で、17の言語に翻訳して朗読された作品のなかから、人気作家8名の短編を収録。儿帳面な上司の原点に触れた瞬間。独り暮らしする娘に母親が贈ったもの。夫を亡くした妻が綴る日記…。異国の人々が耳を傾けたショートストーリーの名品、オリジナル文庫アンソロジー。
運命の相手と知り、自分の分身のように感じる相手と結ばれたり、結ばれない運命だったり。悲しい恋やコミカルな恋、ロマンティックな恋など「運命」に翻弄される人間の、さまざまな姿を味わえる。男女がかくも違い、だから惹かれあうのだ、ということがよくわかる物語の数々。村上春樹、角田光代、山白朝子、中島京子、池上永一、唯川恵という恋愛小説の名手たちによる傑作短編集。あなたにも「運命の赤い糸」が見えていますか?
佐野洋子の絵本『100万回生きたねこ』は、一九七七年に発売されて以来、今なお多くの人に読まれ続けている大ロングセラー。本書は、江國香織、谷川俊太郎をはじめとする十三人の作家や挿絵画家が、佐野洋子とこの絵本に敬意を込めて書き上げた短篇集。愛と死、生きることについて深く考えさせられる。
刑事裁判の補充裁判員になった里沙子は、子供を殺した母親をめぐる証言にふれるうち、彼女の境遇に自らを重ねていくのだったー。社会を震撼させた乳幼児の虐待死事件と“家族”であることの光と闇に迫る、感情移入度100パーセントの心理サスペンス。
小説とはいったいなんなのか。書くという行為にはいかなる意味があるのか。作家たちのあくなき挑戦はやまない。二十一世紀を迎えた『群像』は、読者と常にともにあり、表現の多様さと読みの可能性を追求しつづける。現代日本文学の到達点を示す十八篇。
いじめ、うわさ、夏休みのお泊まり旅行…お決まりの日常から逃れるために、少女たちが試みた、ささやかな反乱。生きることになれていない、小学生から高校生までの主人公たちの、不器用なまでの切実さを描く、直木賞作家の傑作青春小説集。「学校ごっこ」「夏の出口」など四篇を収録。
朝鮮特需に国内が沸く日々、坂井左織は矢島風美子に出会った。陰湿ないじめに苦しむ自分を、疎開先で守ってくれたと話す彼女を、しかし左織はまるで思い出せない。その後、左織は大学教師の春日温彦に嫁ぐが、あとを追うように、風美子は温彦の弟潤司と結婚し、人気料理研究家として、一躍高度成長期の寵児となっていく…。平凡を望んだある主婦の半生に、壮大な戦後日本を映す感動の長篇。「本の雑誌」2014年第1位。
「男と張り合おうとするな」醜女と呼ばれながら、物書きを志した祖母の言葉の意味は何だったのだろう。心に芽生えた書きたいという衝動を和歌が追い始めたとき、仙太郎の妻になり夫を支える穏やかな未来図は、いびつに形を変えた。母の呪詛、恋人の抑圧、仕事の壁。それでも切実に求めているのだ、大切な何かを。全てに抗いもがきながら、自分の道へ踏み出してゆく、新しい私の物語。
文芸編集者として忙しい日々を過ごす那波田空也は、あるきっかけで再びボクシングとの距離を縮める。初めての恋人・つた絵の存在、ジムに通う小学生ノンちゃんの抱える闇、トレーナー有田が振りまく無意識の悪意、脅威の新人選手・岸本修斗。リングという圧倒的空間に熱狂と感動を描ききる!傑作長編小説。
刑事裁判の補充裁判員になった里沙子は、子どもを殺した母親をめぐる証言にふれるうち、いつしか彼女の境遇にみずからを重ねていくのだったー。社会を震撼させた乳幼児の虐待死事件と“家族”であることの心と闇に迫る心理サスペンス。
留守番電話のテープに聞き入る三人の男「声の巣」。決められた役割を忠実に演じる私たち「学校ごっこ」。女の姿をした蛇が私の部屋に住みついて「蛇を踏む」(芥川賞)。家族の頚木から解き放たれたはずなのに「家族シネマ」(芥川賞)。あのとき彼はなぜ人を拝んだのか?「不軽」。足先から滴る水と寝室に現れる兵隊たち「水滴」(芥川賞)。静かに老いゆく妻、友と見た景色「椿堂」。僕が深夜の公園で遭遇した、ある出来事「無情の世界」。現代文学四〇年の試みを眺望するシリーズ第五巻。
作家志望の「ぼく」が味わう苛烈な恋、そして「時」の不思議。マルセル・プルースト『失われた時を求めて』は、原著で全七巻、翻訳では原稿用紙にして一万枚まど、文庫本にして十冊以上になる。本書は、小説家とフランス文学者の手によって、有名なエピソードや場面はあたう限り残しつつ、プルーストのエッセンスと雰囲気を損なわずに、否、むしろ濃厚にくっきりと香り立つようにした約一千枚の縮約版である。