出版社 : 新潮社
日露戦争のさなか、欧州にあって背後から帝政ロシアを崩壊させるべく暗躍した日本人がいた。陸軍大佐明石元二郎は、フィンランドの独立を夢見る革命家コンニ・シリアクスと共に策動してロシア革命の火付け役となった。諜報活動に於いて常に後れをとってきた日本では希有の、大物スパイの実像に迫る。歴史を動かした男たちが、全欧州を舞台に繰り広げるスリルに満ちた情報工作記。
英国情報機関内にどうやら「もぐら=二重スパイ」がいるらしい。情報工作本部長サミュエル・ベルは、自らの部下の内偵という屈辱的作業を強いられ、組織内での孤独感を深めてゆく。窮余の一策としてベルは部下の信頼度を試す「秘密指令」を作成。指令の遂行過程に組み込んだ巧妙なプログラムは、見事スパイを突き止めたかに思えたが…。連作短編に挑んだフリーマントルの異色作。
失明によって鋭敏になった独特の聴覚を頼りに、誘拐された姪を救出した元音響技師ハーレック。事件から一年が経ち、平穏な生活を取戻しつつあった彼の元に、衝撃的なニュースが入った。服役中の誘拐犯スタークが脱獄したのだ。復讐に燃える男は殺人機械と化して、刻一刻と迫ってくる。悲劇は再び繰り返されるのか。斬新なアイディアで好評を博した『音の手がかり』の続編。
シェイクスピアが、原始人が、ローマ兵士が。天国も地獄も定員過剰になり、死人がおれたちの世界にあふれてきた。いま、やつらに実体はないが、そのうちに…。天地開闢以来の死人という死人が戻ってくる恐怖を描くマキャモンの「幽霊世界」。他にキャンベル、グラント等17人の精鋭が悪夢の世界を描きだすモダンホラー・アンソロジー。
悠久の大地にも時は刻まれ、人は彼岸へと旅立つ-。その自然の営みが故意に断たれた跡に、人々に残していく傷みを掬い、北京・杭州・西安・吐魯蕃と旅した地での人・遺跡に、廃墟と化した故郷広島を思う。西に向う一筋の道、東に辿った文化。一木一草春秋に、生と死の重さを見つめる。積年の思いを結実させた記念碑的作品。連作長編小説。
このままでは日本に未来はない。オレは救世主アルマジロ王を何としても探し出すー流れ弾に当たって死んだ親友はそう書き残した。何処へ行ってもよそ者でしかなく、砂漠のような都市を永遠にさまようみなし子=堕天使たち。そんな彼らの孤独を癒し、守ってくれる幻の救済者アルマジロ王を追い求めて、ぼくは世界の果てまで巡礼の旅に出た…。愛と性と思想と放浪の物語7篇収録。
横断歩道に落ちていたミョウガ、消えたカミソリの刃、失われた指先、かんぬきを掛ける男。何でもない日常の事物にふと目をとめると、そこから世界は変容し始める。そんな違和感を描いた表題作「あるべき場所」。友人がタイから持ち帰ったいわくつきのナイフ。それを手にした者は誰を殺すのか。人間の心理に潜む恐怖をえぐる「飢えたナイフ」など、奇妙な味わいの5編を収めた短編集。
臆病な娼婦ベラ。可憐な女ベラ。男たちに蔑まれ、弄ばれ、怯えながら生きてきたベラ。ある朝を境にベラは生まれ変わった。華麗で、セクシーで、凶暴な女にー。女性の部屋を終日覗き、性的ないやがらせの電話を掛けつづける男、マゾヒスティックな性行為を強要する多汗症の太った大学教師、女性患者の体をつけ狙う高慢な歯科医師…。ベラは彼らに評決を下す。まったく無表情に。
弱冠22歳でグランド・ナショナルを制し、美しい婚約者にも恵まれたジョージ・ブレイン。それはまさに人生の絶頂だった。14年後、彼は酒と女と八百長に溺れ、当時の面影はすっかり失われていた。そんなブレインの前に忽然と現れた駿馬ヴァンテージ。騎手の本能が騒ぎ、再び誇りと自信、勝利への執念がよみがえってくるのを感じた時…。英国競馬界を描くシリーズ第一作。
聖ジョン大聖堂で育てられていた幼いメシアが悪魔に誘拐された。悪魔を倒すことができるのは、聖なる音楽と聖なる剣のみだという。そこで時空の彼方から二人の男がニューヨークに呼び寄せられる。現代楽器を手にしたベートーヴェンと流星刀をもつ土方歳三、そしてメシアの母親ジュネ。風変わりな三人組が悪魔と戦う痛快無比の冒険譚。
私が幼い頃、母(輝子)はなぜか家を出ていた。強烈な個性を発散する父(斎藤茂吉)との生活のなかで、母と過ごした海辺の夏は黄金の刻だった。やがて、戦争、疎開、戦後の混乱と茂吉の死…。生涯、自分流の生き方を貫き、後年は世界を飛び歩いて“痛快ばあちゃま”と呼ばれた母と家族を、回想と追憶のなかに抒情的かつユーモラスに描く自伝的小説。
国際企業「浅田電気」で生じた「日本式経営」の軋み。それは、将来を嘱望される二人の管理職の相次ぐ変死が発端だった。急遽、筆頭専務に抜擢された吉本は、二人の死に会社上層部の異変を感じるが、今度は副社長の橋爪が…。会社の危機に直面し、「人事の神様」の異名をとる創業社長浅田が、断腸の思いで決断した「最終人事」とは?企業中枢部に働く人事の力学を通してカイシャを問う。
ドラッグが蔓延し犯罪が横行するマンハッタンのロワー・イーストサイド。警官を含む6人を射殺したのはほんの数グラムのドラッグのためにも平気で人を殺す男リーヴァンダー・グリーンウッドだった。七分署の古株ムードロー刑事は新米のジム・ティリーを相棒に犯人を追う。狂気の殺人鬼にあくまで人間的なムードローは対抗できるのか?爛熟した都市を舞台に描く迫力のサスペンス。
明治29年、帝都。人魂売りやら首遣いだの魑魅魍魎が跋扈し、さらには闇御前、火炎廃人と呼ばれる人殺しが徘徊するもうひとつの街・東京。夜闇に繰り広げられる企みには、鷹司公爵家の次期当主を巡るお家駆動の影も見え隠れして…。人の心に巣くう闇を怪しく艶しく描く、大型女流による伝奇推理小説。