出版社 : 新潮社
世界の崩壊を信じる貿易会社のエリート社員杉本清一郎、私立大学の拳闘の選手深井峻吉、天分ゆたかな童貞の日本画家山形夏雄、美貌の無名俳優舟木収。彼らは美の追究者なるが故にそれぞれにストイシズムを自らに課し、他人の干渉を許さない。-名門の資産家の令嬢である鏡子の家に集まって来る四人の青年たちが描く生の軌跡を、朝鮮戦争後の頽廃した時代相の中に浮き彫りにする。
遊牧民の一部族の首長の子として生れた鉄木真(テムジン)=成吉思汗(チンギスカン)は、他民族と激しい闘争をくり返しながら、やがて全蒙古を統一し、ヨーロッパにまで及ぶ遠征を企てる。六十五歳で没するまで、ひたすら敵を求め、侵略と掠奪を続けた彼のあくなき征服欲はどこから来るのか?-アジアの生んだ一代の英雄が史上空前の大帝国を築き上げるまでの波瀾に満ちた生涯を描く雄編。
雪と氷に閉ざされた北海の洞窟の中で、生死の境に追いつめられた人間同士が相食むにいたる惨劇を通して、極限状況における人間心理を真正面から直視した問題作『ひかりごけ』。仏門に生れ、人間でありながら人間以外の何ものかとして生きることを余儀なくされた若き僧侶の苦悩を描いて、武田文学の原点をうかがわせる『異形の者』。ほかに『海肌の匂い』『流人島にて』を収録する。
直木賞受賞の表題作は、株主総会の席上やその裏面で、命がけで暗躍する、財界の影武者ともいえる総会屋の老ボスを描く評判作。ほかに交通事故の時だけタクシー会社の重役の身代りで見舞いや弔問にゆく五十男の悲しみを描いた『事故専務』をはじめ、資本主義社会のからくり、陰謀などを、入念な考証に基づき、迫力あるスピード感と構成力で描く本格的な社会小説7編を収める。
建築家水原のそれぞれ母の違う三人の娘、自殺した母の悲劇と戦争に恋人を奪われた心の傷みのために次々と年下の美少年を愛する姉百子、京都の芸者の子である妹若子、全く性格の違う姉や妹をはらはらと見守る優しい麻子。大徳寺、都踊、四条から桂離宮ー雅やかな京風俗を背景に、琵琶の湖面に浮かんだ虹のはかなさ美しさにも似た三姉妹の愛と生命の哀しみを詩情豊かに描く名作。
北海道の霧の街に生いたち、ロマンにあこがれる兵藤怜子は、知り合った中年建築家桂木の落着きと、かすかな陰影に好奇心を抱く。美貌の桂木夫人と未知の青年との密会を、偶然目撃した彼女は、急速に夫妻の心の深みにふみこんでゆく。阿寒の温泉で二夜を過し、出張した彼を追って札幌に会いにゆく怜子、そして悲劇的な破局ー若さのもつ脆さ、奔放さ、残酷さを見事に描いた傑作。
日本美術史に燦然と輝く芸術家十人が、血の通った人間として甦るー。新進気鋭の快慶の評判に心乱される運慶。命を懸けて、秀吉と対峙する千利休。将軍義教に憎まれ、虐げられる世阿弥。将軍家、公卿、富商の間を巧みに渡り歩く光悦。栄華を極めながらも、滲み出る不安、嫉妬、苛立ち、そして虚しさー美を追い求める者たちが煩悩に囚われる禍々しい姿を描く、異色の歴史短編小説十編。