出版社 : 新潮社
警視庁刑事部長を務めるキャリア、伊丹俊太郎。彼が壁にぶつかったとき頼りにするのは、幼なじみで同期の竜崎伸也だ。原理原則を貫く男が愛想なく告げる一言が、いつも伊丹を救ってくれる。ある日、誤認逮捕が起きたという報に接した伊丹は、困難な状況を打開するため、大森署署長の竜崎に意見を求める(「冤罪」)。「隠蔽捜査」シリーズをさらに深く味わえる、スピン・オフ短篇集。
新作が書けぬ小説家・下村に届いた旧友春男の近況。長く疎遠だった春男は、三十を過ぎうつ病を発症したという。青春の華やぎを一切拒絶して引きこもる息子を案じ、両親の相談を受けた下村は、筆の進まぬ窮状を脱する好機と、ある不穏な「実験」を思いつくが…。潮風と砂が吹きつける海峡の町で、孤独且つ平和という泥濘であがく人々の精神の危機を冷徹にえぐる表題作ほか2篇。
上賀茂神社の禊ぎの川で発見された、素肌に絢爛豪華な振袖をまとい、二つに折れた破魔矢を持った若い女性の死体。さらに、下賀茂神社の糺の森や蚕ノ社の三柱鳥居の足元にも、素肌に振袖を着せられ、破魔矢を持たされた女性の遺体が…。京都文化大学民俗学部教授・竹之内春彦が、人神交婚伝説に仮託された猟奇的連続殺人の謎に挑む、民俗学ミステリー。
豊臣氏滅亡から十年。三代将軍家光と大御所秀忠の対立を背景に、天海、柳生宗矩、宮本武蔵、伊達政宗ら、欲に憑かれた者どもが死闘を繰り広げていた。彼らの狙いは、幕府転覆すら招く豊臣氏の遺宝“豊国神宝”。この醜い戦いのゆえに愛する人々を奪われたとき、若き剣客・木下右近もまた修羅の鬼となる決意をするー。豊国神宝とは何なのか?気鋭が描く大活劇。
ある外国語大学で流れた教授と女学生にまつわる黒い噂。乙女達が騒然とするなか、みか子はスピーチコンテストの課題『アンネの日記』のドイツ語のテキストの暗記に懸命になる。そこには、少女時代に読んだときは気づかなかったアンネの心の叫びが記されていた。やがて噂の真相も明らかとなり……。悲劇の少女アンネ・フランクと現代女性の奇跡の邂逅を描く、感動の芥川賞受賞作。
穏やかな引退生活を送る男のもとに、見知らぬ弁護士から手紙が届く。日記と500ポンドをあなたに遺した女性がいると。記憶をたどるうち、その人が学生時代の恋人ベロニカの母親だったことを思い出す。託されたのは、高校時代の親友でケンブリッジ在学中に自殺したエイドリアンの日記。別れたあとベロニカは、彼の恋人となっていた。だがなぜ、その日記が母親のところに?-ウィットあふれる優美な文章。衝撃的エンディング。記憶と時間をめぐるサスペンスフルな中篇小説。2011年度ブッカー賞受賞作。
キスをして抱きしめられて、初めて普通の状態になれたーあの頃。自分一人だけで、自分一人として、存在できるようになったー今。結婚と愛の変転をめぐる6つの物語。
1950年秋。サルデーニャ島から初めて本土に渡った祖母は、「石の痛み」にみちびかれて「帰還兵」と出会い、恋に落ちる。いっぽう、互いにベッドの反対側で決して触れずに眠りながらも、夫である祖父には売春宿のサービスを執り行う。狂気ともみまごう人生の奇異。孫娘に祖母が語った禁断の愛の物語。遺された手帖と一通の手紙が、語られなかった真実をあきらかにする。ストイックさとエロティックさが入り混じった不可解な愛のゆくえと、ひとにとっての「書く」という行為の気高さをゆったりとした語り口で描きだす奥行きの深い物語。
江戸を揺るがす盗賊集団「幻一味」。だが、一味の面々は、自分たちを仕込み、操る男が誰かを知らないー。怪僧、高野長英、シーボルト、謎の画、もうひとつの盗賊集団「鬼火」-。時代小説界の俊英が、研ぎ澄まされた文体で描き切った「悪党」どもの饗宴。
お江戸の町に朝顔の毒がばらまかれたー。怨霊によるバイオテロ勃発。無辜の民を守るため決戦に選ばれしは、美貌のマザコン剣士、その母親の生き霊、怨霊となった吉宗の亡母、隠密、それに、象!?誰もが誰かを守っている。命を賭けた壮絶なバトルが今、始まるー。第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。
『アポロンの島』が日本の文学界に衝撃を与えようとしていた前夜、煉獄のごとき逼塞感のさ中で推敲を重ねられた作品群には、未来の小川文学の全貌につながる世界のすべてが、ほとばしるように芽吹いていた。作家修錬時代の未発表作品集。
母と娘。二種類の女性。美しい家。暗闇の中で求めていた、無償の愛、温もり。ないけれどある、あるけれどない。私は母の分身なのだから。母の願いだったから。心を込めて。私は愛能う限り、娘を大切に育ててきましたー。そしてその日、起こったことー。
ワロージャは戦地へ赴き、恋人のサーシャは故郷に残る。手紙には、別離の悲しみ、初めて結ばれた夏の思い出、子供時代の記憶や家族のことが綴られる。だが、二人はそれぞれ別の時代を生きているのだ。サーシャは現代のモスクワに住み、ワロージャは1900年の中国でロシア兵として義和団事件の鎮圧に参加している。そして彼の戦死の知らせを受け取った後もなお、時代も場所も超えた二人の文通は続く。サーシャは失恋や結婚や流産、母の死など様々な困難を乗り越えて長い人生を歩み、ワロージャは戦場での苛酷な体験や少年の日の思い出やサーシャへの変わらぬ愛を綴る、二人が再び出会う日まで。
病弱な占い師のパパ、薬草茶作りの達人のママ、パパを愛するパパ2。三人の親の魂を受けつぐ片岡ノニは、石の力を引き出せる娘だった。ノニは光あふれるミコノス島で、運命の出会いをした。その相手は“猫の王国の女王様”と死に別れた哀しみの家来・キノだった…。ランサロテ、そして天草。海風吹く美しい島々を舞台に、生命の奇跡を謳うライフワーク長編『王国』、それからの物語。
戦後最年少でノーベル文学賞を受賞したカミュは1960年、突然の交通事故により46歳で世を去った。友人が運転していた車が引き起こした不可解な事故の現場には、愛用の革鞄が残されていた。中からは筆跡も生々しい大学ノートが。そこに記されていたのは、50年代半ばから構想され、ついに未完に終わった自伝的小説だったーー。綿密な原稿閲読によって甦った天才の遺作。補遺、注を付す。
大阪の旧家で今日も起こる幸せな奇跡。本だらけの祖父母の家には禁忌があった。書物の位置を決して変えてはいけない。ある蒸し暑い夜、九歳の少年がその掟を破ると書物と書物がばさばさと交わり、見たこともない本が現れた!本と本が結婚して、新しい本が生まれる!?血脈と蔵書と愛にあふれた世界的ご近所ファンタジー。