出版社 : 新潮社
女の誘いは決して断らないモテモテのテレビ記者、パトリック・ウォーリングフォード。インドでサーカスの取材中、ライオンに左手を食われてしまう。5年後、手の提供者が現れ、移植のチャンスに舞い上がるパトリック。だが、手の元持ち主の妻ドリスが「手の面会権」を主張し、会いに来てー。希代の色男と一世一代の決意を秘めた女の運命的な恋を描く、ロマンティック・コメディ。
ドリスはオットー・ジュニアを無事出産する。これまで出会ったどの女性よりもドリスを愛し始めたパトリック。だが、彼女の愛情は、死んだ夫のものであった彼の左手だけに捧げられているようだ。そんななか、移植された左手は、暗緑色に変色してしまう。パトリックの恋の行方やいかにー。シニカルなストーリーを通し、本当の愛とは何かをユーモラスに問い掛ける、恋愛小説の傑作。
その地に着いた時から、地獄が始まったー。1961年、日本政府の募集でブラジルに渡った衛藤。だが入植地は密林で、移民らは病で次々と命を落とした。絶望と貧困の長い放浪生活の末、身を立てた衛藤はかつての入植地に戻る。そこには仲間の幼い息子、ケイが一人残されていた。そして現代の東京。ケイと仲間たちは政府の裏切りへの復讐計画を実行に移す!歴史の闇を暴く傑作小説。
俺たちの呪われた運命に、ケリをつけてやるー。日本政府に対するケイたちの痛快な復讐劇が始まった!外務省襲撃を目撃した記者、貴子は、報道者としてのモラルと、彼らの計画への共感との板ばさみに苦悩。一方ケイと松尾は、移民政策の当時の責任者を人質にし、政府にある要求をつきつける。痛恨の歴史を、スピード感と熱気溢れる極上のドラマに昇華させた、史上初三冠受賞の名作。
夫の顔を見分けぬ施設の老妻を哀れみ、年少の小説家がかけた自作への賛辞に驚く。切実な老いに日を過ごす90歳の「私」に、「抱擁家族」「菅野満子の手紙」など、かつて問題作と呼ばれた旧作自著を繙く機会が訪れる。ただ、約束の作品を書きあげ、「今を乗り切る」ために…。小説と、自らの家族の半生を巡り、自在に展開する文学者の強靭な思考を鮮やかに結晶化した遺作/最高傑作。
戦国前夜の奥三河。瞬く間に西三河を支配した松平清康の驍名を聞いた町田城城主・菅沼新八郎定則は、帰属していた今川家を離れる決心をする。清康が卓越した戦術と情義の心で勢力を広げる中、新八郎は戦での働きが認められはじめる。一方、綾という女との出会いから、川原で拾った童子・四郎の出自とその周囲の陰謀が明らかになっていく。知られざる英傑たちの活躍を描く歴史巨編。
脂まじりの雨が降る街を、巨大でいびつな銀色の月が照らしだす。銀天公社の作業員が、この人工の月を浮かべるために、月に添って動くゴンドラで働いている。そこは知り玉が常に監視し、古式怪獣滑騙が咆哮する世界だ。過去なのか、未来なのか、それとも違う宇宙なのか?あなたかもしれない誰かの日常を、妖しい言葉で語る不思議な7編。シーナ的言語炸裂の朧夜脂雨的戦闘世界。
本当に客を掴んでいるのは誰かー。暁星運輸の広域営業部課長・横沢哲夫は、草創期から応援してきたネット通販の「蚤の市」に、裏切りとも言える取引条件の変更を求められていた。急速に業績を伸ばし、テレビ局買収にまで乗り出す新興企業が相手では、要求は呑むしかないのか。だが、横沢たちは新しい通販のビジネスモデルを苦心して考案。これを武器に蚤の市と闘うことを決意する。
神山佐平は、やむなき事情から家中の者を斬り、無断で江戸へ帰ってきた。わずか二年前に仕官したばかりだった。主君の死に始まる山代家の騒動はいまだ治まる気配を見せない。殿の愛妾となった幼なじみ、行方をくらました元藩士、朋輩の美しき妹、忍び寄る影。佐平は、己の進むべき道を見つけることができるのか。若々しい熱気と円熟した情感をたたえた、志水辰夫の新たなる代表作。
日曜夕月のハチ公前、夜の円山町、昼下がりの公園通り。この街の喧騒の中、神様は別人の顔をしてやってくる。出会い系サイトで知り合ったサラリーマンと中学生、デートをすっぽかされた女子高生とスカウトマン、年下の彼と破局寸前のバツイチOL。彼らの人生がふと“つながる”瞬間とはー見えない何かを信じたくなる、心温まる群像小説。
孫娘のけい子ちゃんに買ったゆかたが大きくて着られない。妻が寸法を直すことになったものの、お祭りは今日の夕方。さて、間に合うだろうか?…孫の成長を喜び、庭に来る鳥たちに語りかけ、隣人との交歓を慈しむ穏やかな日々。夜になると夫はハーモニカで童謡を吹き、妻はそれに和してうたう。子供たちが独立し、山の上のわが家に残された夫婦の豊かな晩年を描くシリーズ第十作。
小学五年生の夏休みは、秘密の夏だった。あの日、ぼくは母さんの書斎で(彼女は遺伝子研究者だ)、「死んだ」父親に関する重大なデータを発見した。彼は身長173cm、推定体重65kg、脳容量は約1400cc。そして何より、約1万年前の第四氷河期の過酷な時代を生き抜いていたーじゃあ、なぜぼくが今生きているのかって?これは、その謎が解けるまでの、17年と11ヶ月の、ぼくの物語だ。
優しい夫と息子と団地で暮らす何不自由ない生活を捨て、ある日、女は長崎へと旅立った。かつて六〇〇〇度の雲で覆われ、原爆という哀しい記憶の刻まれた街で、女はロシア人の血を引く美しい青年と出会う。アルコール依存の末に自殺した兄への思慕を紛らわすかのように、女は青年との情交に身を任せるがー。生と死の狭間で揺れる女を描き、現代人の孤独に迫った三島賞受賞作。
配りきれないチラシが層をなす部屋で、自分だけのメルヘンを完成させようとする「わたし」。つけ始めた日記にわずか四日間の現実さえ充分に再現できていないと気付いたので…。新潮新人賞選考委員に「ピンチョンが現れた!」と言わしめた若き異才による、読むほどに豊穣な意味を産みだす驚きの物語。綿密な考証と上質なユーモアで描く人類創世譚「クレーターのほとりで」併録。
いまはひとりゴミ屋敷に暮らし、周囲の住人たちの非難の目にさらされる老いた男。戦時下に少年時代をすごし、敗戦後、豊かさに向けてひた走る日本を、ただ生真面目に生きてきた男は、いつ、なぜ、家族も道も、失ったのかー。その孤独な魂を鎮魂の光のなかに描きだす圧倒的長篇。
日露戦争前夜、一人暮らしの女医の診察室に夜ごと忍ぶ流れ者の男。いけないことと分かっていても、年下の男との甘美な情事に溺れてしまう女ー。美しく、そしてわがままに育った老舗呉服屋の養女は、やがて若い歌舞伎役者に惚れ込んで、ふしだらな逢瀬を重ねてゆく。その奔放な火遊びの結末は…。世情と男に翻弄される女心を、しっとりと艶やかな筆致で描いた時代小説の傑作。
「老い」のために、少しずつ崩れ始めた肉体に戸惑う青年と、南国のリゾート地を突然襲った悲劇との交錯。-日常性の中に潜む死の気配から、今を生きる実感を探り出そうとする11の短篇集。小説家は、なぜ登場人物の「死」を描くのかという謎を、ノルマンディ地方の美しい風景の中で静かに辿る「『フェカンにて』」。経済のグローバル化のただ中で、途方に暮れる一夫婦を描く「慈善」など。
飛鳥は二十三歳で突然自らの命を絶った。そして三年後の命日の前日、彼女はかすかな気配となって現れる。死をいまなお受け入れることのできない母親、弟、離婚して家を出た父親、男友だち、ストーカーだった男、弟の恋人…関わりのあった六人ひとりひとりが物語る飛鳥との過去とそれぞれの心の闇。自殺の真相は何だったのか?逝った者と残された者の魂の救済を描く長編小説。