出版社 : 日本経済新聞出版社
藤原為時の娘・小姫(後の紫式部)は漢籍に親しむ文学少女。幼い頃から彼女が書く物語は評判をとっていた。時の政変により父が失脚、一家の幸せは長く続かなかったが、その後も小姫は物語を書き続け、やがて主の藤原道長から物語の女房となり藤式部と名乗るよう命じられる。「そなたの物語には宮中での役目がある」。道長の長女で入内した中宮彰子に仕え、「源氏の物語」を書き継いでいくのだが…。第11回日経小説大賞受賞作。
建築設計事務所で構造設計に勤しむ田口郁人は、生まれ故郷の名古屋支社から西新宿の本社に異動を命じられて仕事漬けの日々。ある日、陶芸作品が現代アートとして海外で高く評価されている兄が上京し、五輪を控えた街並みを見て「日本はまだ普請中」とからかう。郁人は兄に振り回されるばかりだが、やがて…。登場人物のスリリングな会話が読む者の胸にグサグサ刺さる、まったく新しいお仕事小説!第11回日経小説大賞受賞作。
開国から四年、幕府は外国局を新設したが、高まる攘夷熱と老獪な欧米列強の開港圧力というかつてない内憂外患を前に、国を開く交渉では幕閣の腰が定まらない。切れ者が登庸された外国奉行も持てる力を発揮できず、薩長の不穏な動きにも翻弄されて…勝海舟、水野忠徳、岩瀬忠震、小栗忠順から、渋沢栄一まで異能の幕臣そろい踏み。お城に上がるや、前例のないお役目に東奔西走する田辺太一の成長を通して、日本の外交の曙を躍動感あふれる文章で、爽やかに描ききった傑作長編!
福岡のフリーペーパーの女性編集長のもとに、広告主の男から一通の手紙が届く。百人一首をあしらった切手には、旅先で一夜をともにした男女の恋の歌が綴られていた。時が経ち、男は仮想通貨の取引所を起ち上げ、女が社長を引き受けていた。順調に拡大していた事業が危険な方向に流されていくにつれ、二人が抱える同郷ゆえの秘密と、消せぬ過去も露わになっていく。第10回日経小説大賞受賞。
雨の降る夜は、何かが起きる、なぜ女は、突然の凶行に走ったか。唐初期、武将の家に生まれた武照(則天武后)は、幼い頃より美しさと賢さが際立つ娘だった。のちに後宮へ入り、皇帝・李世民(太宗)の寵愛を受けるものの、ある理由から遠ざけられるようになる。そして、凡庸極まる皇子、李治(のちの高宗)に接近する武照だったが、その心底には…。中国史上唯一の女帝、その波乱に満ちた生涯を描く歴史大作。
帝位簒奪のためならば、血を分けた者も容赦なく消すー。李治(高宗)が帝位にあっても、唐の政治的実権は皇后・武照(則天武后)が掌握していた。彼女に邪魔者の烙印を押されれば、肉親、忠臣であっても容赦なく消されていく。李治の死後、あらゆる策を謀り、遂に皇帝となった武照は、残虐な暴力支配を強める一方で、情欲に溺れ…。稀代の悪女を描いた書き下ろし歴史大作、いよいよクライマックスへ。
大手医薬品メーカー九代目、久坂隆之は53歳。副会長という役職と途方もない額の資産を与えられた素性正しい大金持ちで、シンガポールと東京を行き来し、偏愛する古今東西の書物を愛でるように女と情事を重ねる。スタンフォード留学中に知り合った友人、田口靖彦は老舗製糖会社の三男。子会社社長という飼い殺しの身が、急逝した妻の莫大な遺産により一変。家の軛から自由になるために、女からの愛を求め、京都で運命の出逢いを果たす。時代の波に流されず、優雅で退嬰的な人生をたゆたう男たちが辿り着いたのはー。
「二階崩れの変」から6年。弘治2年(1556年)、九州・豊後(現在の大分県)の戦国大名、大友氏が再び分裂の危機に。当主・大友義鎮(後の宗麟)が政より美と女を重んじたため、一部の重臣たちが内政をほしいままにし、家中の不満は暴発寸前。外敵に目を凝らす武将たちも、やがて熾烈なお家騒動に巻き込まれていく。戦は止められぬ。戦は勝たねばならぬ。乱世を生きる男たちが下した究極の決断とは。
天文19年(1550年)、九州・豊後(現在の大分県)の戦国大名、大友氏に出来した政変「二階崩れの変」。時の当主・大友義鑑が愛妾の子への世継ぎのため、21歳の長子・義鎮(後の大友宗麟)を廃嫡せんとし、家臣たちが義鑑派と義鎮派に分裂、熾烈なお家騒動へと発展した。謀略、裏切り…揺れる家中での勢力争いに明け暮れる家臣たちの中で、義鑑の腹心にして義鎮の義兄でもある吉弘鑑理は一途に大友家への「義」を貫き、その弟の鑑広は数奇な運命で出逢った姫への「愛」を貫くー乱世に生きる男たちが命を賭して守り抜いたものとは。九州・豊後の戦国大名家に出来したお家騒動、重臣一家を通して骨太に描いた本格歴史小説。第9回日経小説大賞受賞。
1966年ひのえうまの同じ日に生まれた留津とルツ。「いつかは通る道」を見失った世代の女性たちのゆくてには無数の岐路があり、選択がなされる。選ぶ。判断する。突き進む。後悔する。また選ぶ。進学、就職、仕事か結婚か、子供を生むか…そのとき、選んだ道のすぐそばを歩いているのは、誰なのか。少女から50歳を迎えるまでの恋愛と結婚が、ふたりの人生にもたらしたものとは、はたしてー日経新聞夕刊連載、待望の単行本化。
御一新とともに、寺や城は壊され、仏像や書画骨董が海外に流出していく。「日本が生き残る道は西洋の物真似しかない」と多くの人は信じているが、文明開化の時勢に流されて、日本の美と技をうち捨ててはおけぬ。自分一人でもミュージアムを創る。留学中に観た大英博物館のようなー旧物破壊・廃仏毀釈の嵐に抗い、新政府内の政争に巻き込まれながらも、粘り強く夢を実現させた官僚、町田久成。明治150年を前に贈る、日本文化の維新の物語。日経小説大賞受賞第一作。
都電が走る、この下町には、白い野良犬の“妖精”がいる。口が悪くて、おせっかい。そんな人たちが暮らす町に、ちょっぴり不思議で、ささやかな奇跡が起きる時…ここも東京。1970&80年代の思い出とともに、あなたも追憶の彼方へー