出版社 : 日本経済新聞出版社
あなたは使い捨てられてはなりませぬ。私のようにーー 栄華をきわめつつある主の藤原道長から、物語の女房を命じられ、華麗な「源氏物語」を書き継いできたが……宮中に渦巻く陰謀に、物語が切り結ぶとき。 第11回日経小説大賞受賞!(選考委員:辻原登・高樹のぶ子・伊集院静) 『源氏物語』を書いた紫式部の一代記。「紫式部日記」が実在の作品であるだけに、あえて「新」とタイトルにつけフィクションを紡ぎ上げたところに、作者の周到な企みがうかがえる。 本作には最新の源氏物語研究の成果が活かされている。紫式部の生涯や、『源氏物語』誕生秘話を描いた著作は、専門家によるとそれほど珍しくはない。しかし、本作は、平安時代においては、物語を書く行為そのものが政治性をおびていたことを明らかにするところが新しい。 「日記文学の傑作、しかも『源氏物語』の作者の日記に新たな日記を捏ち上げ、ぶつけるという、これほどの大胆不敵はない。パロディならともかく、真正面からオーソドックスに、とはハードルが高過ぎる。しかし、作者は鮮やかにそのハードルを跳び越え、極上の宮廷物語を物した。『源氏』を構成の中心に据え、それを下支えする本物の「紫式部日記」、それに被せるように架空の「日記」、そしてもう一つの物語『伊勢物語』を、有機的に、歯車のように嚙み合わせ、重層的な展開が可能になった。『源氏物語』そのものが、一層の輝きを放って読者に迫って来るという功徳も齎された」(辻原登氏選評より)
「一気に街が更新されるチャンスなんて、そうそうないんだよ」 建築に携わるぼくを焚きつける芸術家の兄。五輪を間近に控えた首都のざわめきの中で、ぼくは自分の仕事に対する確信を持った。 第11回日経小説大賞受賞!(選考委員:辻原登・高樹のぶ子・伊集院静) TOKYO2020、と書かれたまっしろな紙を目にして、かあっと頭に血がのぼった人と、そうでない人がいる。ぼくはともかく、業界的にぼくの勤めている会社は圧倒的に前者でできている。関東大震災からほぼ100年、表皮の入れ替わり続ける街でぼくは何をすべきなのかーー 第11回日経小説大賞を受賞した本作は、五輪を目前に控えて新たな施設の建設・再開発ラッシュに湧く東京で、地道に建築設計に携わる若者が、陶芸作品が現代アートとして海外で高く評価されている破天荒な芸術家の兄に振り回されながら、自身のアイデンティティを見いだしていくタイムリーなお仕事小説。 「日本はまだ普請中」。兄の創作活動に欠かせないパートナーの女性との奇妙な関係もあいまって、登場人物のスリリングな会話が読む者の胸にグサグサ刺さってきます。テンポ良く、しかしどこに転がっていくのかわからない会話の端々には、現在の東京、日本へのかわいたまなざしが、最新トレンドと現代風俗を絶妙にからませながら顔をのぞかせます。五輪を目前にした今こそ読んで欲しい、知的エンターテイメント小説です。
この国の岐路を、異国にゆだねてはならぬ 開国から4年、攘夷の嵐が吹き荒れるなか、幕府に外交を司る新たな部局が設けられた。実力本位で任ぜられた奉行は破格の穎才ぞろい。そこに、鼻っ柱の強い江戸っ子の若者が出仕した。 先が見えねぇものほど、面白ぇことはねぇのだーー 安政5年(1858年)幕府は外国局を新設した。しかし、朝廷が反対する日米修好通商条約を勅許を待たず締結したため、おさまりを知らぬ攘夷熱と老獪な欧米列強の開港圧力という、かつてない内憂外患を前に、国を開く交渉では幕閣の腰が定まらない。切れ者が登庸された外国奉行も持てる力を発揮できず、薩長の不穏な動きにも翻弄されて…… お城に上がるや、前例のないお役目に東奔西走する田辺太一の成長を通して、日本の外交の曙を躍動感あふれる文章で、爽やかに描ききった傑作長編! 維新前夜、近代外交の礎を築いた幕臣たちの物語。勝海舟、水野忠徳、岩瀬忠震、小栗忠順から、渋沢栄一まで異能の幕臣たちが、海の向こうと対峙する。 2017年~18年の日経夕刊連載が、遂に単行本化! 第一章 勇往邁進 第二章 疾風勁草 第三章 射石飲羽 第四章 震天動地 第五章 改過自新
福岡のフリーペーパーの女性編集長のもとに、広告主の男から一通の手紙が届く。百人一首をあしらった切手には、旅先で一夜をともにした男女の恋の歌が綴られていた。時が経ち、男は仮想通貨の取引所を起ち上げ、女が社長を引き受けていた。順調に拡大していた事業が危険な方向に流されていくにつれ、二人が抱える同郷ゆえの秘密と、消せぬ過去も露わになっていく。第10回日経小説大賞受賞。
雨の降る夜は、何かが起きる、なぜ女は、突然の凶行に走ったか。唐初期、武将の家に生まれた武照(則天武后)は、幼い頃より美しさと賢さが際立つ娘だった。のちに後宮へ入り、皇帝・李世民(太宗)の寵愛を受けるものの、ある理由から遠ざけられるようになる。そして、凡庸極まる皇子、李治(のちの高宗)に接近する武照だったが、その心底には…。中国史上唯一の女帝、その波乱に満ちた生涯を描く歴史大作。
帝位簒奪のためならば、血を分けた者も容赦なく消すー。李治(高宗)が帝位にあっても、唐の政治的実権は皇后・武照(則天武后)が掌握していた。彼女に邪魔者の烙印を押されれば、肉親、忠臣であっても容赦なく消されていく。李治の死後、あらゆる策を謀り、遂に皇帝となった武照は、残虐な暴力支配を強める一方で、情欲に溺れ…。稀代の悪女を描いた書き下ろし歴史大作、いよいよクライマックスへ。
大手医薬品メーカー九代目、久坂隆之は53歳。副会長という役職と途方もない額の資産を与えられた素性正しい大金持ちで、シンガポールと東京を行き来し、偏愛する古今東西の書物を愛でるように女と情事を重ねる。スタンフォード留学中に知り合った友人、田口靖彦は老舗製糖会社の三男。子会社社長という飼い殺しの身が、急逝した妻の莫大な遺産により一変。家の軛から自由になるために、女からの愛を求め、京都で運命の出逢いを果たす。時代の波に流されず、優雅で退嬰的な人生をたゆたう男たちが辿り着いたのはー。
「新人離れしたデビュー作」と各紙誌が絶賛した『大友二階崩れ』のその後を描いた新作が早くも登場。「泣く英雄」を描いた前作に対し、「武に生きる」男たちがやはり「義」をめぐり繰り広げる熱き物語。大友義鎮(のちの大友宗麟)が当主となった「二階崩れの変」の6年後、強大化した大友家に再び熾烈なお家騒動が出来。通称「小原鑑元の乱」を重臣たちを通して描く。 物語を引っ張るのは『大友二階崩れ』の主人公の長男。当主・義鎮が「政」より美と女を重んじた結果、「二階崩れの変」を平定した重臣たちと当主との間に権力の二重構造ができあがり、政変が勃発する。 前作で描かれたのは「義と愛」だったが、今作はもうひとまわりスケールが大きく、一寸先は闇の乱世における「義と利」「情と理」のせめぎあいがダイナミックに描かれる。一貫して流れているのは戦国の世とは言え、誰も戦を望んでいないこと。やむなく戦に臨まねばならなくなった時、どこで人としての筋を通さねばならないか、を各人各様に考え抜いている姿が描かれ、現代にも通じる普遍的なテーマが隠されている。 第一章 峠道 第二章 武人の約束 第三章 文官たちの戦 第四章 静かな雨 第五章 欠け月 第六章 肥後の王 第七章 月、堕つるとも
2017年12月、第9回日経小説大賞(選考委員:辻原登、高樹のぶ子、伊集院静)を高い評価で受賞した小説「義と愛と」を改題、作品の舞台となった戦国時代の史実をタイトルにして世に問う本格歴史小説。 本作は戦国時代の有名な武将の戦や権謀術数を巡る物語でもなければ、下克上の物語でもない。主家に仕える重臣たちの内面を通して熾烈な勢力争いを繰り広げる戦国大名家の”生身の人間ドラマ”をあますところなく描ききった点で新しい。大型新人のデビュー作である。 物語は、天文19年(1550年)、九州・豊後(現在の大分県)の戦国大名、大友氏に起こった政変「二階崩れの変」を、時の当主・大友義鑑の腹心、吉弘兄弟を通して描く。 大友家20代当主・義鑑が愛妾の子への世継ぎのため、21歳の長子・義鎮(後にキリシタン大名として名をはせた大友宗麟)を廃嫡せんとし、重臣たちが義鑑派と義鎮派に分裂、熾烈なお家騒動へと発展する。家中での勢力争いに明け暮れる重臣の中で、一途に大友家への「義」を貫いた吉弘鑑理と、その弟で、数奇な運命で出会った姫への「愛」に生きた鑑広を主人公に、激しく移りゆく戦国の世の武将たちの生き様を迫力ある筆致で活写していく。派閥争い、裏切り、暗黙の盟約、論功行賞、誰に仕えるか……それらを「義」と「愛」を貫き、筋を通した兄弟を通して描くことで、現代の組織と人間との関係にも通じる普遍的なドラマに仕上がっている。良質なエンターテイメント作品だが、組織人が読めばビジネス小説の側面も併せ持っているだろう。 第一章 大友二階崩れ 一、大友館 二、主命 三、貴船城 四、戸次川 五、先生の遺臣 六、二人の軍師 第二章 天まで届く倖せ 七、星野谷 八、天念寺 第三章 一本道 九、比翼の鳥 十、義と愛と 第四章 反転 十一、初めての嘘 十二、誰がために 第五章 鑑連の手土産 十三、秋百舌鳥 十四、義は何処にありや
川上弘美さんの最新刊は、長らく待ち望まれていた恋愛と結婚を描いた長編小説。500ページ超えも一気読み必至の傑作です。 主人公は1966年ひのえうまの同じ日に生まれた留津とルツ。このパラレルワールドに生きるふたりの女性は、いたかもしれないもうひとりの「自分」。それは読者のあなたのもうひとりの「自分」かもしれませんし、留津とルツの恋人や夫も読者のあなたのもうひとりの「自分」かもしれません。 主人公の2人のように「いつかは通る道」を見失った世代の女性たちのゆくてには無数の岐路があり、選択がなされます。選ぶ。判断する。突き進む。後悔する。また選ぶ。進学、就職、仕事か結婚か、子供を生むか……そのとき、選んだ道のすぐそばを歩いているのは、誰なのか。少女から50歳を迎えるまでの恋愛と結婚が、留津とルツの人生にもたらしたものとは、はたしてーー 道は何本にも分かれて、つながっていて、いつの間にか迷って、帰れなくなって……だからこそ「人生という森は深く、愉悦に満ちている」。 装画と挿画はファッションブランド「ミナ ペルホネン」の皆川明さんが手がけています。 たくらみに満ちた造本にもご注目ください。 一九六六年 〜 二〇二七年
御一新とともに、寺や城は壊され、仏像や書画骨董が海外に流出していく。「日本が生き残る道は西洋の物真似しかない」と多くの人は信じているが、文明開化の時勢に流されて、日本の美と技をうち捨ててはおけぬ。自分一人でもミュージアムを創る。留学中に観た大英博物館のようなー旧物破壊・廃仏毀釈の嵐に抗い、新政府内の政争に巻き込まれながらも、粘り強く夢を実現させた官僚、町田久成。明治150年を前に贈る、日本文化の維新の物語。日経小説大賞受賞第一作。
待望の最新作は冬に贈る怪談語り、変わり百物語。 鬼は人から真実を引き出す。人は罪を犯すものだから。不思議な話に心がふるえ、身が浄められる。 江戸の洒落者たちに人気の袋物屋、神田の三島屋は“お嬢さん"のおちかが一度に一人の語り手を招き入れての変わり百物語も評判だ。訪れる客は、村でただ一人お化けを見たという百姓の娘に、夏場はそっくり休業する絶品の弁当屋、山陰の小藩の元江戸家老、心の時を十四歳で止めた老婆。亡者、憑き神、家の守り神、とあの世やあやかしの者を通して、せつない話、こわい話、悲しい話を語りだす。 「もう、胸を塞ぐものはない」それぞれの客の身の処し方に感じ入る、聞き手のおちかの身にもやがて心ゆれる出来事が…… 第一話 迷いの旅籠 第二話 食客ひだる神 第三話 三鬼 第四話 おくらさま
都電が走る、この下町には、白い野良犬の“妖精”がいる。口が悪くて、おせっかい。そんな人たちが暮らす町に、ちょっぴり不思議で、ささやかな奇跡が起きる時…ここも東京。1970&80年代の思い出とともに、あなたも追憶の彼方へー