出版社 : 朝日新聞出版
ただ、寄り添っているだけで家族でいられたらー夫の不在、子どもたちだけとの日々が、次第に「私」を不安定にさせていく。主婦としての平穏な暮らしの中でふと抱く漠とした孤独。現代家族の危うさともろさを浮かび上がらせた、著者のデビュー作。他4篇を収録。
「僕たちは探険隊みたいだね。離婚ていう、日本ではまだ未知の領域を探険するために、それぞれの役をしているの」-離婚を契機に新しい家族像を模索し始めた夫、妻、小学生の2人の息子たち。そのさまを優しく、切なく綴った物語。他3篇を収録。
海の明治維新。徳川艦隊旗艦・開陽丸艦長の沢太郎左衛門は、盟友の榎本武揚らとともに、新政府軍に抗戦する奥羽列藩同盟救援のため、嵐を突いて北へと向かった!戊辰戦争を背景に徳川海軍の興亡をダイナミックな筆致で描く海洋歴史巨篇。
混乱する本陣の中で、馬上に突っ立ち、武田勢の突進を望見した家康は、敵味方のあまりの強さの違いに呆れかえった。「死ぬう」思わず家康は絶叫した。それを聞いた石川数正が、すぐさま訂正した。「死ねーっ。死ねや、死ねーぇ」本陣は阿鼻叫喚の中にあった。英雄遁走歴史が変わった!苛烈な逆境をいかに打破するか。頂門の一針、必読の書。
勝った。家康はじめ、生き残った東軍将士は誰しもそう思った。-戦は終った。戦勝に酔う家康は、この長かった一日を想った。長くて短い日。-天下を獲るか、獲られるか…。おれが獲った。家康は忘れていた。「一寸先は闇」。策をつくして迷いに迷う!千思万考天下を獲れ。勝利と敗北から何を覚ったか。史眼冴える歴史巨編。
連続通り魔事件の犯人は同級生だった。揺れる中学生活のなかで見つめる「大人」でもなく「特別」でもなく「フツー」な自分…。少年エイジをめぐる家族と友情と愛の物語。山本周五郎賞受賞『エイジ』の新聞連載版イラスト全部収録。
権謀術数の上に築かれた地中海世界。シーザー亡き後、ローマの総督となったアントニーは、クレオパトラと再会、たちまち恋に陥る。世界大国を夢み、東方遠征を企てる二人の運命は破滅へと加速していく…。華麗にして波瀾に富んだ女王の生涯が蘇る宮尾文学の粋。
21歳のイギリス商社員トマス・グラバーは、アヘンの蔓延する魔都・上海で密航中の岡藩の元武士山村大二郎と出会う。二人は西洋帆船で東シナ海を越え、開港まもない新天地・長崎のオランダ出島に降り立った。…薩摩藩の五代才助の信用を得たグラバーに、艦船取引の商談が舞い込む。
中国山西省の山村で、樹齢数千年の「神樹」が突然開花した。神樹がよみがえらせた親、子、兄弟や八路軍の亡霊たちは、過去を再現し、語りはじめる。抗日村長を斬り殺した日本軍、神樹に守られた八路軍、土地改革で虐殺された地主、国家規模の“大躍進”・製鉄運動のために餓死し、あるいは生き延びた村人、文革時に失脚した村の書記、宗教結社弾圧に巻き込まれ処刑される娘…、神樹は歴史のすべてを見てきたのだ。開花の奇蹟に御利益を求め人々が押し寄せたため、共産党政府は危機感を覚え、迷信を根絶すると称し、神樹伐採に中央から戦車の大部隊を出動させる。神樹を守るため、村人は亡霊の八路軍に加勢し、戦車隊に立ち向うが…。
両親から遠くはなれて、海辺の町に住んでみたいというおもいから、佐伯雄二は豊橋の近くにある大学へ進学。合格祝いにと父からカメラを贈られたのをきっかけに、雄二の生活は写真を中心に廻りはじめるー。中国歴史小説の旗手が爽やかに描く、青春時代の友情と恋の物語。
女学生のバイブル『花物語』から、晩年の『女人平家』まで。吉屋信子の半世紀をこえる小説世界に、明るい無常感がため息のように吹き渡る。そしてまた、女性への深い愛と、風趣に富む男性像…。「私は少女時代から吉屋さんの熱烈なファンであった」と告白する著者ならではの実感的な吉屋信子伝。
戦争で両親を亡くした男の魂が肉体を離れて海辺をさまよう。親代わりの女は、なんとか肉体に戻るよう懸命に魂に語りかけるが…。表題作「魂込め」ほか短篇六篇を収録。戦争と沖縄、新感覚で描く、記憶をめぐる物語。芥川賞受賞後、初の作品集。
鎌倉・稲村ガ崎に時間はながれる。クイちゃんと僕は今日も生きている。茶々丸といっしょに。猫と宇宙、便利屋の兄妹と自由律俳句のしあわせ。昔の写真をながめながら、うつらうつらと哲学する父子の語らいのなかで、ふと思うのだ。生は有限ではない、と。谷崎潤一郎賞受賞のロングセラー『季節の記憶』待望の姉妹篇。