出版社 : 東方書店
19世紀後半の台湾を舞台に、原住民族と外部勢力(主に清軍)との衝突を描く歴史小説「花シリーズ三部作」の最終第三作。「奇密花 奇密社の故事」「大庄阿桃 大庄村の阿桃の物語」の短編2篇と「戯曲 苦楝花(Bangas) 苦楝の花」を収録。 「奇密花」:花蓮県南部の瑞穂を訪れた小君はアミ族の村・奇密社の虐殺現場にタイムスリップする。 「戯曲 苦楝花(Bangas)」:サキザヤ族の大部落、タクブワン部落の頭目・Pazikとその妻・カナサウの受難を戯曲形式で描く。 「大庄阿桃」:台東市に駐屯する清軍への包囲攻撃(大庄事件)に参加した夫を亡くしたタイボアン族・阿桃の物語。 原題『苦楝花』(INK、2019年)。「花シリーズ三部作」第一作『フォルモサに咲く花』(原題『傀儡花』)、第二作『フォルモサの涙』(原題『獅頭花』)。 著者のことば サキザヤ族の物語は実際には昨年のうちに書き上げていた。しかし、自分で納得できないと感じた。なぜならサキザヤ族の故事は本来とても悲壮であり神聖なものなのでそこに手を加えることができないからだ。手を加えるべきではないと思うものの、そのままでは小説として成立しづらい。そこで私は身の程をわきまえず、シェークスピアばりの劇本形式に書き換えるという、新たな手法への挑戦を試みた(「戯曲 苦楝花」)。「大港口事件」「大庄事件」はそれぞれ「奇密花」「大庄阿桃」として短編小説の形式で描いた。私は司馬遼太郎の歴史短編小説『幕末』と藤沢周平の『隠し剣孤影抄』『たそがれ清兵衛』に感服しており、これらは私が作家としての殻を破るために「西施の顰に倣う」つもりで挑んだ作品である。(「後記」より) 本書を読むために 奇密花 奇密社の故事 戯曲 苦楝花(Bangas) 苦楝の花 大庄阿桃 大庄村の阿桃の物語 後記 訳者あとがき
今日のわれわれは中国の幻想奇譚をフィクションとして読みがちである。だが、それらはもともと“事実の記録”として書かれ、伝統中国に生きた読者たちもそれを“事実の記録”として読んだ。唐代の知識人は“楽園”にどんな理想を込めたのか。“陰間”からいっとき戻った妻の語りから見える結婚とはいかなるものか。狐や物の怪にできなくなったことからは武人の出世と文人の不遇が透けて見える。神秘や怪異を語っているようで、じつは当時の社会や風俗を記した実録なのである。当時の視点で“唐代伝奇”を読むとなにが見えてくるのか。中国の幻想奇譚をより深く楽しむための読み方指南。
1874年、日本軍が台湾に出兵した(牡丹社事件)。清朝政府は台湾防衛のため軍隊を派遣するが、彼らは日本軍ではなく、原住民と闘うことになったーー。「開山撫番」政策下で起こった最初の原住民と漢族の戦争「獅頭社戦役」を描く歴史小説。原題『獅頭花』(INK、2017年)。本書は『フォルモサに咲く花』(原題『傀儡花』)に続く「開山撫番」三部作(あるいは「花シリーズ三部作」)の第二部にあたる。 本書のテーマのひとつは、牡丹社事件による清朝政府の危機感から生まれた「開山撫番」に誘発されたこの最初の原漢(原住民と漢民族)戦争、獅頭社戦役が、近代台湾の歴史を大きく変えたことを描く点にあり、本書によってはじめて取り上げられた。その意義は極めて大きく、こうしてはじまった「開山撫番(剿番)」は、その後清末から、さらに日清戦争後新しく統治者となった日本の「理蕃政策」に引き継がれていったのである。(「【解説】沈葆テイの「開山撫番」と最初の原漢戦争ー獅頭社戦役ー」より) 日本の読者の皆さまへ、『フォルモサの涙 獅頭社戦役』作者のことばー「開山撫番」から「和解共生」へー 本書を読むために 楔子 第一部 日本軍 刀を牡丹に揮い、風港を望む 第二部 大亀文 世と争いなく、かえって擾に見(まみ)える 第三部 清国兵 雄師〔精兵〕、海を渡り、倭軍を拒む 第四部 莿桐脚 争議の是非、総じて評し難し 第五部 沈幼青〔沈葆テイ〕 開山撫番、変音を惜しむ 第六部 王玉山〔王開俊〕 民を護るといえど、かえって仁を傷(やぶ)る 第七部 アラパイ 英雄、姫と別れ、内文を護る 第八部 上瑯嶠 原漢、今日仇恩〔恩讐〕泯(つ)きる 第九部 獅頭花 三千里の外で、かえって君に逢う 第十部 胡鉄花 涙を鳳山の昭忠祠にそそぐ 注 附録 淮軍と大亀文からの呼びかけと探究ーー私が『獅頭花』を書いた心の歴程 神霊任務の一 「鳳山武洛塘山淮軍昭忠祠」の探訪と再現 神霊任務の二 枋寮「白軍営」のほかにも淮軍の墓地がある? 「台湾の淮軍」の歴史と遺跡を尋ねて 台湾淮軍史(一八七四ー一八七五) 【解説】 沈葆テイの「開山撫番」と最初の原漢戦争ー獅頭社戦役ー(下村作次郎)
17世紀、オランダ統治下の台湾。ハンブルク牧師が原住民族シラヤの集落に家族を連れて赴任した。娘のマリアは父が建てた学校の仕事を手伝いながら、年の近いウーマと友情を育むが、やがて大陸出身の漢人やオランダ東インド会社幹部などとの交流を重ねるなかで、政策のひずみが年々増しつつあることを知る。その頃台湾海峡の対岸では、清軍との戦いで劣勢を強いられている鄭成功が、台湾に活路を見出そうとしていた。 オランダ人から漢民族へと為政者が変わる激動の時代を、オランダ人マリア、原住民族シラヤの女性ウーマ、鄭成功麾下の漢人・陳澤という三者の視点から描き出す歴史小説。「あとがき」では鄭成功の死因について、医師の視点から興味深い考察がなされている。 序 日本の読者へ 凡例/登場人物紹介 第一部 一六四六年 生 第二部 一六四九〜五一年 望 第三部 一六五二年 絆 第四部 一六五三年〜五五年 疫 第五部 一六五六年〜六〇年 祈 第六部 一六六一年 交戦 第七部 一六六一年 包囲 第八部 一六六一年 決別 第九部 一六六二年 運命 注 エピローグ あとがきーー私はなぜ『フォルモサに吹く風』を書いたかおよび医師の視点から論じる鄭成功の精神分析と死因について 訳者解説(大洞敦史)
1867年、台湾南端の沖合でアメリカ船ローバー号が座礁し、上陸した船長以下13名が原住民族によって殺害された。本書はこの「ローバー号事件」の顚末を、台湾原住民族「生番」、アメリカ人やイギリス人などの「異人」、清朝の役人、中国からの移民である「福佬人」「客家」、福佬人と原住民族の混血「土生仔」など、さまざまな視点から、また、移民の歴史、台湾の風土なども盛り込みつつ描いたものである。 序 日本の読者に 本書を読むために 第一部 縁起 第二部 ローバー号 第三部 統領埔 第四部 チュラソ 第五部 瑯嶠 第六部 鳳山旧城 第七部 出兵 第八部 傀儡山 第九部 観音亭 第十部 エピローグ 注 [付録] 楔子 後記一 私はなぜ『傀儡花』を書いたか 後記二 小説・史実と考証 訳者あとがきーー解説にかえて(下村作次郎)
従来、中国文学史において「近代(モダン)」の起点は魯迅を代表とする、伝統批判と文学革命を旗印に西洋写実主義を旨とした「五四」新文学に置かれてきた。一方、清末小説(本書では19世紀半ばから1911年までの世紀末文学を指す)は、創作だけでも七千種以上が出版されながらも、梁啓超らの提唱した「新小説」を除いて文学史においてはほとんど顧みられることのない、「排除/抑圧」されたジャンルであった。本書ではこの時期の小説を、西洋との出会いのなかで伝統/モダニティが互いに拮抗し、複雑かつ豊かな「多層性のモダニティ」を見せた特異なジャンルとして評価する。具体的には、花柳小説、俠義公案小説(武侠・裁判もの)、暴露小説(社会風刺もの)、科学幻想小説(サイエンス・ファンタジー)および二〇世紀末の中国語小説を再読し、バフチン、フーコー、ギアーツらの諸理論を用いてその「抑圧されたモダニティ」を論じることで、中国のポストモダニティについて再考を行うものである。著者は現代文学理論を用いながら独自の視点で中国語圏文学を読み解く、今日を代表する研究者の一人であり、その代表作という意味でも本書は重要な著作であると言える。また、上述のように清末小説についての研究は国内外でも少なく、本書は日本においてほとんど専著のない分野の研究書であるため、中国文学研究または東アジアのモダニズム研究の分野において必読書であると思われる。 日本語版序 (王徳威) 凡例 序 第一章 抑圧されたモダニティ 一、啓蒙と頽廃 二、革命と内に向かう発展 三、合理性と情感の過剰 四、ミメーシスとミミクリ 第二章 悪を誨えるーー花柳小説 一、仮装された異性愛/同性愛 二、愛と欲の氾濫 三、欲望の都市 四、妓女から救国のヒロインへ 第三章 空虚な正義ーー俠義公案小説 一、『水滸伝』を書き直す 二、空虚な正義 三、女俠の服従 四、罪、それとも罰? 第四章 卑屈なカーニヴァルーーグロテスクな暴露小説 一、亡霊の価値論 二、荒唐無稽なる世界 三、モダニティの市場 四、中国版グロテスク・リアリズム 第五章 混乱した地平線ーーサイエンス・ファンタジー 一、奔雷車、参仙、乾元鏡 二、補天 三、大気圏内/外の冒険 四、バック・トゥー・ザ・フューチャー 第六章 回帰ーー同時代の中国小説および清末の先例 一、新花柳小説 二、窮地のヒロイズム 三、「大嘘つき」たちのパレード 四、『新中国未来記』はどこに? 訳者解説 一、清末小説ーー中国モダニティの起点 二、「抑圧」と「継承」の中国文学史 三、本書の訳語および著者との調整などについて 参考文献 索引(人名・人物索引、書名・篇名索引、事項索引)
物語としての『三国志演義』は、いかに作られたのか。正史『三国志』に基づいた史実と、フィクションを交えた叙述のスタイルを分析する。さらに唐代以前から明清代にいたる『演義』の成立事情、謎につつまれた作者羅貫中の人物像、関羽・劉備・張飛ら登場人物のキャラクターの変遷など、奥深い作品世界を案内する。後半では、『演義』の研究にも大きな影響を与えた民間伝承『花関索伝』、明清代の書坊による出版戦争、『演義』に反映された正統論や五行思想など、物語の背後にある文化や世界観も描き出す。本「増補版」では、初版から十七年を経た研究の進展を随所に反映させるとともに、日本と韓国における『演義』受容の様相を第九章として新たに加えた。