出版社 : 河出書房新社
「近頃その付近で、不審者が目撃されているそうです。気を付けて」自宅と職場を往復するだけの無為な日々を過ごす彼は、ある日勤め先のデパートで、移動式小型カメラ“アイ”を手に入れる。人目につかず地面を自在に疾走するアイ。しかし、ある日アイはコントロールを失い、見知らぬ女性に捕獲されてしまう。翌日、なぜか自ら走行を始めたアイは、思いもよらない景色を映し出しー。機械の知覚で「人間」の檻からの脱走を試みる、果てなき冒険。第58回文藝賞受賞作。
ITコンサルタントの仕事をしながら、大好きな麻雀に日々打ち込む渚は、麻雀のプロテストを受ける決心をする。会社員とプロを両立するハードさも、手痛い失敗や挫折も糧にして、一歩ずつ自分だけの雀風を確立していく渚。ある日彼女のもとに、大規模なナショナルリーグ設立の噂が舞い込みー。初代Mリーガー、日本プロ麻雀連盟A1リーガーとして躍動し続ける著者が、麻雀をもっと好きになりたいすべての人へ贈る物語。
「私は嘘つきだ。そして人殺しだ。」ベストセラー作家・岩佐友が死去した。彼は生前、周囲に「すごい原稿がある」と漏らしていた。ほとんど業界づき合いをしなかった岩佐が、唯一交友を持っていた作家の古谷悠と担当編集者の仲本美知は、それを「未発表原稿」と推測し、原稿捜索に乗り出す。しかしその先に待ち構えていたものは、出版業界を揺るがしかねない「パンドラの箱」だった…。出版業界を舞台に、「創作者」最大の倫理を問う問題作。
注釈に次ぐ注釈が、物語を駆動するー。町にふらりと現れて、空き家に棲み着いた、歳を取らない女・サイトウ。彼女が山の中に建てた神社が祀るのは、6人の巨匠画家ー北斎、レンブラント、モネ、ダリ、ターナー、フリードリヒ。やがて町は、神様として現代に蘇った画家たちの描く絵画世界に染まっていくのだったが…。
この日から、私たちは二度とおまえの声を聞くことはできなくなった。軍隊にいて立ち会えなかった出産、家族で訪れた古都の思い出、苛烈な有名中学校受験、文化大革命の受難、許されない恋、脳の神経膠腫の発見…。難病で急逝した息子と父が初めて心を通わす「魂の対話」。やがて息子は天国で人生の真実を学んでいく。
「現実を転覆する」韓国SFのめくるめく想像力による新しい時代の、新しい未来。ヒト、機械、鯨、ドローン、虫、ウイルス…星々に生きるものたちの6つの物語。新鋭から巨匠まで、韓国SFの最前線。
アパートの扉にスプレーで記されていく“V”の字、悲しい記憶を洗い流すエステ、宇宙から派遣された謎のタコ型エイリアン、女子刑務所からの脱獄、遅れていく“時”の流れ、ロックダウン解除後の世界…。ベスト禍で紡がれた名作『デカメロン』にならい、ユニークな視点と着想で書き下ろされた個性的アンソロジー。さまざまな言語、人種、ジャンルからなる世界の作家が書き下ろした、コロナ禍のいまを生きるための物語。
「世界は崩潰するような気がします。それとも自ら滅さずにいられないのは自然のほうでしょうか」峡谷の山村を往診で経めぐる医者とそれに付き従う息子、ふたりが出会う患者たちはそれぞれが暗い混沌をかかえていたー。静謐な狂気が果てしなく渦巻く暗黒の巨匠ベルンハルトの長篇。
奇跡の未発表作品。死後十五年を経て発見された幻の遺作。人生の悲しさを優美に笑う、極上のサガネスク。風光明媚な土地に立つ悪趣味な大豪邸「ラ・クレソナード」では、冷めきった心の住人たちが虚飾の晩餐を囲んでいた。“禿鷹”と呼ばれる当主、病に臥す威圧的な後妻、遊び人で居候の義弟、若く冷酷な息子の妻、自動車事故で死の淵から生還し、「腑抜け」になった跡取り息子…そこに一人の女性が訪れ、愚かで美しい愛の波乱が幕を開ける。エレガンスの巨匠が遺した、永遠の輝きを放つ最後の長篇。
人生には、どんな嫌な出来事や思い出すらも、ひとつとして無駄なものはないー。『わたしが・棄てた・女』につながる秘められた貴重な中篇、初の単行本化!「本当の生き方」にせまる、感動のエンターテインメント。
1918年、アイルランド・ダブリン。スペイン風邪のパンデミックと世界大戦で疲弊しきったこの街の病院に設けられた“産科/発熱”病室には、スペイン風邪に罹患した妊婦が隔離されていた。孤軍奮闘する看護師のジュリア・パワーのもとへやってきたのは、秘密を抱えたボランティアのブライディ・スウィーニーと、テロリストと疑われる医師のキャスリーン・リン。死がすぐそばで手招きする、急ごしらえの小さな一室で、彼女たちは生命の尊厳を守るために闘いつづけたー名手エマ・ドナヒュー(『部屋』)が描ききった、パンデミック・ケアギバー小説の金字塔。