出版社 : 河出書房新社
学生時代に一人の女を愛した男たち、世界に対峙する魔法を願う少女、シュレミールを自称するインド通のユダヤ人、撮影カメラの前で真実を見出す俳優たち…。映画に着想を得つつ描かれためくるめく物語。名手タブッキ『インド夜想曲』につづく11の短篇集。
二〇二二年仏大統領選。極右・国民戦線マリーヌ・ル・ペンと、穏健イスラーム政党党首が決選に挑む。しかし各地の投票所でテロが発生。国全体に報道管制が敷かれ、パリ第三大学教員のぼくは、若く美しい恋人と別れてパリを後にする。テロと移民にあえぐ国家を舞台に個人と自由の果てを描き、世界の激動を予言する傑作長篇。
緑地の平屋に住む姉妹・貴子と澄子が奏でるあまりにも純粋な愛憎(「風」)、ともに大手肌着メーカーに就職した十五年来の友人・実加と未紀が育んだ友情の果て(「二人の場合」)、身体の声に忠実に決して踊らない優子(「ダンス」)、そして旅行を終えて帰ってくると、わたしの家は消えていた…(「予感」)-疾走する「生」が紡ぎ出す、とてもとても特別な「関係」の物語。
「坊っちゃん」、幕末に現る!庄内藩で霞流忍術を修行中の松吉は、尊王攘夷思想にかぶれたお調子者の悪友・寅太郎に巻き込まれ、風雲急を告げる幕末の京への旅に。坂本龍馬や新撰組ら志士たちと出会い、いつのまにか倒幕の争いに巻き込まれ…!?奥泉流夏目漱石『坊っちゃん』トリビュート小説にして、歴史ファンタジーの傑作。
遺産相続で金持ちになった青年が、自分につれない女の愛を勝ちとるために企てた策とは…ボッティチェルリの名画でも有名なナスタージョ・デリ・オネスティの物語をはじめ、不幸な事件を経てめでたく終わる男女の話、機転で危機を回避した話など四十話を収める、全訳『デカメロン』第二弾。無類の面白さを誇る珠玉の物語集。
ぼくと神永、三上、長田はいつも一緒だ。ぼくがまさしにどつかれて左目を腫らしたと知ると、神永たちは仕返しにゲーセンに向かい、教師や先輩からの理不尽には暴力で反抗する毎日。ある晩、酔った親父の乱暴にカッとなった神永は、台所に二本あった包丁を握る。「お前にやられるなら本望や」そう言い放つ親父を、神永は刺すのだが…。痛みと苦味のなかで輝く少年たちの群像。
「砂漠へ行きたいと考えたのはテレビで砂漠の様子を見たからだ」-北国に住むわたしが飛行機に乗って到着した街は、アメリカの古くからのカジノの街。レンタカーを借りて向かった砂漠で、わたしは、子どもの頃のわたしに、既に死んだはずの父と母に、そして、砂漠行きを誘えずにいた地元のバーで働く女に出会う…。小説の自由を解き放つ表題作に、単行本未収録を含む短篇三作を併録。
あなたを絶対手に入れる、どんなことをしてもー。許婚を待たなくてはならない女、恋人に過去を知られたくない女、小島と男を奪い合う女、愛人と夫との間で揺れ動く女、若くてきれいな男しか愛せない女…。略奪愛をテーマに、燃え上がりはじける愛のひと時を、5人の女性作家たちが紡いだ、におい立つようなめくるめく恋愛譚。
震災の被災者支援チャリティーのためにアダルト・ヴィデオの制作を企画した男たちのひどすぎる奮闘記。言葉を失う現実を前に、言葉を発する意味とはーカワカミヒロミ、ミヤザキハヤオ、イシムレミチコらを論じた「震災文学論」を挿入。東日本大震災及び福島第一原発事故直後に発表され、大きな議論を巻き起した問題作。
文化文政時代。ただひたすらに「己だけの女」を求めて、美人画に枕絵に絵筆をふるう浮世絵師・渓斎英泉。お津賀、おたま、おりよ、三人の妹の「生」をも搦めとった果てに見出したのはー。爛熟の江戸を舞台に、絵師の凄まじいまでの業と妹たちの情念が濃艶に花開く。
貧しいアプレ大学生桐原進は、友人の古川昌人と起業を計画するが、資金難から古川の持ちかけた宝石強盗に、正統性を見出し行動に移す。だがそこに思いもよらぬ殺人事件が…。伝説の雑誌『新青年』でデビューし、“変格の鬼才”の勇名を轟かせた大下の、倒叙モノの最高傑作の初文庫化。人情派弁護士探偵・俵岩男奮闘!
ペストが猖獗を極めた十四世紀フィレンツェ。恐怖が蔓延する市中から郊外に逃れた若い男女十人が、面白おかしい話で迫りくる死の影を追い払おうと、十日のあいだ代わるがわる語りあう百の物語。人生の諸相、男女の悲喜劇をあざやかに描いた物語文学の最高傑作が、典雅かつ軽やかな名訳で躍動する。不滅の大古典、全訳決定版。
一九三三年、私は「天皇」と同じ日に生まれたー東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのために上野駅に降り立った。そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国を。高度経済成長期の中、その象徴ともいえる「上野」を舞台に、福島県相馬郡(現・南相馬市)出身の一人の男の生涯を通じて描かれる死者への祈り、そして日本の光と闇…。「帰る場所を失くしてしまったすべての人たち」へ柳美里が贈る傑作小説。
外様として徳川家康に仕えた井伊直政は、“赤備え”の精鋭部隊を組織しつつ、知謀と胆略を発揮、頭格を現わし、徳川きっての策謀家・参謀として家臣の筆頭格を占め、彦根藩主、大老職を務め、幕末まで徳川家、幕府に貢献した。その豪雄と悲愴、維新後の苦難までを描く、名門井伊家の本質と実態を描く傑作七篇。
菊山尚泰は一九二四年、朝鮮の貧しい農家に生まれ、一八歳の時に「夢の国」を目指し日本に出稼ぎに来た。鉱山で働くうちにその腕力だけで頂点に立ち、どんな荒くれ男たちからも恐れられる存在になった。終戦後、菊山は夜の街の用心棒、債権回収業から金貸しになり巨額の富を得て成金に…。一九五九年、菊山に待望の息子、翔太が誕生し幸せな日々を過ごしていたが、妻が突然出奔すると菊山の人生が激変した。
不倫相手との子どもをひとりで産むと決意し、古ぼけた海辺のラブホテル「コート・ダジュール」に住み込みで働くことになった光海。オーナーの老婆・頼子さんは上品で優しいが、ある日、ホテルの一室で行っているという怪しげなミサに光海を誘う。子どもの父親の家庭をぶち壊したと告白した光海だが、いっぽう頼子さんも過去に大きな「罪」を犯していた…。女であることの生々しい痛みと、連綿と続く命の連鎖を直視する問題作。