出版社 : 河出書房新社
現実と夢の間をさ迷う、純白のウェディング・ドレスの少女メラニー。血染めのドレスに暗示される、両親の突然の死。メラニーは、奇怪な玩具店の経営者、繰り人形に異常な執着を示す叔父フィリップの欲望に巻きこまれていく…。性の目覚めとそれに伴う様々な喪失。少女の成長の痛みを鮮烈に捉えた、いまイギリスで最も注目を集めているアンジェラ・カーターの意欲作。
本書は、徳富蘆花「不如帰」泉鏡花の「婦系図」夏目漱石の「坊ちゃん」森鴎外の「雁」尾崎紅葉「金色夜叉」菊池寛「父帰る」樋口一葉の「たけくらべ」谷崎潤一郎の「痴人の愛」などの明治大正の名作と呼ばれている近代古典の代表的な作品を八つ選び、それをパロディにして推理小説化したものである。
ミラノ君主である甥のジャン・ガレアッツォより君主の座を乗っ取り、権謀術数と比類なき闘争心で陰謀渦巻くルネサンス政界を生き抜いた男、ルドヴィコ・イル・モーロ。彼こそは、傭兵隊長と君主の理想的な要素“勇気”と“好運”をかねそなえた偉大なマキャベリストであった。一方で背徳的な悪の顔をもちながら、他方で芸術と学問を愛した複雑で魅力あふれるこの男こそ、ルネサンスの光と闇を如実に体現した最もルネサンス的な君主であった。本書は、従来紹介されることの少なかったこの人物の波乱にみちた生涯を物語る。
悪しき文明の苦界に背を向けて、比叡山中に一家を挙げ移り住んだ中年の売れない作家・苦楽利氏が目指す、自然回復生活の前途は?本物の卵を求め養鶏に手を出し、にわか百姓となって土地を耕し、ドブロクを密造し…失敗の連続にも、いささかも懲りぬ苦楽利氏を悩ます家族の反乱!洛北の景観を背景に、現代のドン・キホーテの切ない冒険を描く、芥川賞作家の心温まる初の諷刺ユーモア快作。
陽光のふり注ぐ、波おだやかな瀬戸内海。海の交通の道として、古代から賑わった山陽・四国の港町、大小の無数の島々、そして九州をのぞむ関門海峡…。煌めく明るい風土と、歴史の裏に流れる奥深い民俗・伝承を背景に、赤江瀑・西村望・寺内大吉・小松左京・横溝正史・佃実夫・連城三紀彦が繰りひろげる謎とき行脚。人生の明暗を映す、罪と罰の万華鏡ー。魅力のミステリー紀行シリーズ第19弾!
リンゴの白い花がほころぶ北国の遅い春。ねぶた祭りと共に過ぎ去る短い夏と一面紅葉の秋。そして雪に覆われた長い冬。鮮烈な四季の移ろいを背景に、十和田湖、恐山、竜飛崎など胸せまる北のさい果ての絶景に木霊しあう、住民と旅人たちの哀愁の犯罪交響曲。-海渡英祐・斎動栄・夏堀正元・草野唯雄・楠田匡介・赤石宏・高木彬光らが奏でるミステリー北帰行。魅力のミステリー紀行シリーズ第17弾!
ピアニスト、リロイ・ジョーンズ。彼の指には才能がある。私はそれを知っていたし、それがこわかったのだ。2年前に捨てたあの男、私の奴隷であった男のために今、愛と快楽の奴隷になろうとするルイ子。リロイの奏でるジャズ・ミュージックにのせて描く、愛と復讐の物語。
ー優しさに込められた惨酷、惨酷に秘められた哀しみー少女から女へと華麗な変身をとげる美しくも多感な蝶たちの青春。好奇心ではなく欲望を、少年ではなく男を愛することで、美しい女友達の枷から逃れようとする心の道筋を、詩的緊張を込めた文体で描く。第96回芥川賞候補作。
恋する女のために南米で働いた。その金はすべてロンドンの女の口座に振り込んだ。3年。結婚しようと帰って来た霧の都に、女はいなかった。金も消えていた。裏切られた恋。酔いつぶれてテムズ川岸に寝ていたマシューの前に、不思議な女が現われた。これは夢かー。次々に襲ってくる危機の連続と悪党の数々。やがては名作『死にゆく者への祈り』を生むヒギンズの大都会陰謀サスペンス。
何だか訳の分からない変な話、ただただ笑ってしまう可笑しな話、現実には有り得ない面妖な話、魂も凍る恐ろしい話。人生、時代、社会など、さまざまの意味づけで覆われてきた。“正統文学史”からはみ出した不思議傑作16篇を集成。
身も心も美徳に捧げ、美徳のために生きようとしたがために、悲惨な出来事に次次と遭遇し、不幸な結末をむかえる美少女ジュスティーヌ。悪徳に生きた姉ジュリエットの物語と対をなすこのジュスティーヌの物語には、三つの異本が存在するが、本書はその最後の稿にあたり、決定版ともいえるものである。より客観的な手法で、人間の根源的残酷さを描き尽し、思想の深まりを示すサド後期の傑作。