出版社 : 皓星社
日本と台湾の歴史を言語接触から読み解くアンソロジー 日本の製糖会社の進出により父を亡くし、貧しい家族を養うため台湾から日本へ渡って来た楊青年。しかし、やっとのことで見つけた新聞配達の仕事はあまりにも不当な条件だった。台湾での階級対立を、帝国日本と植民地台湾の権力勾配に重ねながら、労働者の連帯を描く「新聞配達夫」。内地人風の生活を夢見ながら、立身出世の勉強に励む陳有三は、台湾の役所に勤めている。内地人に対しては家畜のように卑屈な台湾人の上司、製糖会社勤務の友人、結納金と引き換えに売られていく想い人……。表題作「パパイヤのある街」ほか、日本統治期の台湾人作家による七篇の日本語文学作品を収録。 多層的な言語空間をもつ台湾で生まれた作家たちは日本の言語政策の変遷にいかに翻弄され、そのアイデンティティを形成し、自己表現へと辿り着いたのか。言語という枠組みからその過程に光を当てるアンソロジー。 自然にかえれ! 呉濁流 新聞配達夫 楊逵 夜明け前の恋物語 翁鬧 パパイヤのある街 龍瑛宗 牛車 呂赫若 志願兵 周金波 花咲く季節 楊千鶴 編者解説 山口守 台湾文学関係年表
知られざる日ロ民間交流の歴史 終戦直後、北方領土のとある島で、日本人とロシア人が「共生」していた一時期がありました。引揚げの日の朝、海で遭難したロシア人の子どもたちを救出するために、一人の日本人漁師が単身海へ出て重出に成功。その奇跡的な救出劇と、当時の日本人とロシア人の「共生」のあり方を描いたノンフィクション小説が、この表題作「舟」です。 これに加え、日ロ双方の元島民たちと、元島民子孫へのインタビューを収録しました。終戦後、シベリアなど北方からの引揚げは過酷なものでした。しかしその一方で、北方領土では日ロ双方の住民同士が、いがみあうことなく共同生活を送っていた事実もあるのです。 歴史の表舞台では描かれてこなかった、知られざる民間交流の実態が本書で明らかになります。 まえがき 舟 北方領土で起きた日本人とロシア人の物語〜 一九九二年 極東ロシア 志発島(歯舞群島)にて 一九四七年 北海道 根室、現代 元島民たちの記憶とその子孫の声 ガリーナ・ニキーチチナ・ラーピナさん(一九三八年生まれ)の体験 志発島 元島民の木村芳勝さん(一九三四年生まれ)の体験 曾祖母、祖父の島、「シボツトウ」と私の血を巡る旅 山田淳子 解説 樫本真奈美 北方四島関連年表 訳者あとがき
文学で読む、戦後女性の労働史 女中という仕事は、大正後期から昭和線前期にかけて最盛期をむかえ、1970年以降、高度経済成長期に姿をけした。 本書は、一般家庭に住み込みで働いていた「ねえや」、若い独身女性たちが登場する小説作品をあつめた、「女中文学」アンソロジーである。 小説に描かれた女中像に、戦後の女性の労働のあり方や、高度経済成長をささえた若い女性たちの姿を読むことができる。 由起しげ子「女中ッ子」 志賀直哉 「佐々木の場合 亡き夏目先生に捧ぐ」 太宰治「黄金風景」 李泰俊「ねえやさん」 大岡昇平「女中の子」 三島由紀夫「離宮の松」 林房雄「女中の青春」 深沢七郎「女中ボンジョン」 水上勉「ボコイの浜なす」 小島政二郎「焼鳥屋」 解説 阪本博志「小説に描かれた女中像を読み解く」