出版社 : 筑摩書房
下巻は第3部「1918年」を収録。下巻に至って、多面的な構成、実験的性格が顕になる。1918年は、第1次大戦の終結の年。ドイツ帝国は崩壊へと一気に突き進んで行く。混乱し錯綜する時代像を、詩や戯曲、哲学的論考など、様々な文章形式を駆使し、従来の小説観を突き破る斬新な手法で活写。ヘッセやT・マンなど、文壇に衝撃を走らせた。舞台は、ドイツ西部戦線後方の地方都市。第1部や第2部の主人公など、過去の登場人物たちも時を隔てて登場。多彩な人物が織りなすドラマは、一大曼荼羅図。「夢遊」する人々に、果たして「覚醒」はあるのかー。附録に、ブロッホの文学観を知る一助として、講演「長編小説の世界像」を収録。
『家康はふしぎな人だ。…この人に果して父性愛があったかどうかということである』家康の密命を受け、豪快にして凶暴なその六男松平忠輝を倒すべく秘術を尽す伊賀のくの一とその房術指南役雪ノ外記の闘いを描く「倒の忍法帖」他、多彩な忍法万華鏡全七篇。
偉大な作家たちは、時代に深く沈潜、その時代の「精神」を捕捉し、作品に封じ込めようと格闘してきた。20世紀前半、その努力は頂点に達し、巨大な作品が群生、雄大な山脈となって現れたのだった。仏語圏のプルーストしかり、英語圏のジョイスしかり…。そして独語圏にも驚異的な膂力を持った作家が現れたー名はヘルマン・ブロッホ。ヒトラー登場へと続く時代の危機を、その淵源にまで遡り省察。本書は、その独創的な省察、「価値崩壊」論を背景に、時代風俗の中で“夢遊”する人々を活写する。雄大な構想、精緻な分析、斬新な描写手法は、圧倒的だ。読者は究極、「時代精神」の確かな彫像を見ることだろう。「全体小説」を唱えた巨匠の一大金字塔。
“宿命の男”アレックの手を逃れ、遠い酪農場に職を得て傷心を癒す美貌の娘テス。だが、そこで出会った牧師の息子エンジェルとの激しく一途な恋は、再びテスの運命を大きく狂わせて行く。結婚式の当夜、アレックとの過去を打ち明けられたエンジェルの蒼白な顔貌。ショックを受けたエンジェルは、単身ブラジルへと旅立つ。残されたテスの苦悩。そして、またもやアレックとの思いがけない出会い…世界は盲目的な運命によって支配され、個々の人間の幸不幸には全く無関心であるのかー不条理を鋭く見つめる20世紀文学の先駆作。
お頭・車善七の死に誰もが不審の念を抱くが、何の証拠もなければ誰が手を下したのかも判明しない。どうすればいいのか。助九郎は、善七の遺志を継ぐべく公事の継続を決心する。しかし、善七後継ぎの菊三郎に累を及ぼすわけには行かぬ。志を一にする六人の小屋頭たちがその責を負って起つのであったが…江戸のカラクリが透けてみえてくる。時代小説を読む醍醐味。
兄を頼って南仏からパリに上ったアリスティッド・サカールは、オスマン計画によるパリ大改造に乗じて不動産投機に着目、巨万の富を得ようと目論み激烈な戦いを開始する。修道院から出るまぎわに男と過ちを犯した美貌のルネを、サカールは金目当てで妻に迎えるが、やがてルネは先妻の子マクシムと官能的な不倫愛を深めてゆくのだった…。第二帝政期の華やかな建築・美術・風俗を背景にくり広げられる壮麗なドラマを、鮮烈に描き切ったゾラの傑作小説。
遠く緑の葉陰に教会の塔が見える。めざすロールベルクの村までは、あともう少しーだが、先ほどから急速に黒い雲が拡がり始め、今にも雷雨の来そうな空模様になった。旅の青年は、街道を離れ、雨宿りを求めて、丘の上の屋敷へ続く道を登り始める。青年の運命は、この時から、大きく変わって行くのも知らずに…。オーストリア・アルプス山麓に美しく建つ「薔薇の家」を舞台に、物語は、ゆっくりと、急ぐことなく、静かに進んで行く。やがて押し寄せてくる激しく深い感動…。トーマス・マンが「世界文学のなかでも最も奥深く、最も内密な大胆さを持ち、最も不思議な感動をあたえるー」と評した作家の最高傑作。
この世ならぬ美しさの王女の、体の中でいちばん秘密なところに隠されていた赤い宝石の謎とはー魔神のたわむれから、はるか遠く離れた国の王子と王女が宿命の恋におちて数奇な運命をたどる一大ロマン「カマル・アル・ザマンの物語」、妖艶な美女との官能的な恋も束の間、怪盗の手により苦境に陥った商人アラジンのスリル満点の話など、夢のような物語が華麗にくり広げられてゆく。
花園の中の噴水のほとりで、たぐい稀な美貌の王妃と従う女たちは着物をぬぎすてた。そこに同じ数の男たちが挑みかかり、抱擁し交会し、いつ果てるともない淫欲に耽り始めた…妃の不倫に怒り苦しむシャーリヤル王は、夜ごと一人の処女と交わり、あくる朝に殺すようになる。大臣の聡明な娘シャーラザッドは、みずから王のもとに上り、世にも不思議な物語を夢のように紡ぎはじめてゆく。世界の奇書バートン版からの名訳に、古沢岩美の華麗な挿絵を付す。
元気はつらつとした知性をもつエリザベス・ベネットは、大地主で美男子で頭脳抜群のダーシーと知り合うが、その高慢な態度に反感を抱き、やがて美貌の将校ウィッカムに惹かれ、ダーシーへの中傷を信じてしまう。ところが…。ベネット夫人やコリンズ牧師など永遠の喜劇的人物も登場して読者を大いに笑わせ、スリリングな展開で深い感動をよぶ英国恋愛小説の名作。オースティン文学の魅力を満喫できる明快な新訳でおくる。
「世界一高慢でいやなやつ」と思われていたダーシーの、別人のような丁重な態度に驚き戸惑うエリザベス。一度プロポーズを断わった私に…。妹リディアの不始末、ダーシーの決然とした行動、キャサリン・ド・バーグ夫人の横車…。エスプリあふれる笑い、絶妙の展開、そして胸を打つ感動。万人に愛される英国恋愛小説の名作中の名作。オースティン文学の真髄を伝える清新な新訳でおくる。
デビュー作「息を止める男」、死体撮影にとり憑かれた男を描く「魔像」、轢殺に快感を覚える運転士の「鉄路」他、初期の犯罪小説から後期の科学小説を収録。激動の時代を走り抜けた天才蘭郁二郎の傑作集。