出版社 : 筑摩書房
花園の中の噴水のほとりで、たぐい稀な美貌の王妃と従う女たちは着物をぬぎすてた。そこに同じ数の男たちが挑みかかり、抱擁し交会し、いつ果てるともない淫欲に耽り始めた…妃の不倫に怒り苦しむシャーリヤル王は、夜ごと一人の処女と交わり、あくる朝に殺すようになる。大臣の聡明な娘シャーラザッドは、みずから王のもとに上り、世にも不思議な物語を夢のように紡ぎはじめてゆく。世界の奇書バートン版からの名訳に、古沢岩美の華麗な挿絵を付す。
元気はつらつとした知性をもつエリザベス・ベネットは、大地主で美男子で頭脳抜群のダーシーと知り合うが、その高慢な態度に反感を抱き、やがて美貌の将校ウィッカムに惹かれ、ダーシーへの中傷を信じてしまう。ところが…。ベネット夫人やコリンズ牧師など永遠の喜劇的人物も登場して読者を大いに笑わせ、スリリングな展開で深い感動をよぶ英国恋愛小説の名作。オースティン文学の魅力を満喫できる明快な新訳でおくる。
「世界一高慢でいやなやつ」と思われていたダーシーの、別人のような丁重な態度に驚き戸惑うエリザベス。一度プロポーズを断わった私に…。妹リディアの不始末、ダーシーの決然とした行動、キャサリン・ド・バーグ夫人の横車…。エスプリあふれる笑い、絶妙の展開、そして胸を打つ感動。万人に愛される英国恋愛小説の名作中の名作。オースティン文学の真髄を伝える清新な新訳でおくる。
デビュー作「息を止める男」、死体撮影にとり憑かれた男を描く「魔像」、轢殺に快感を覚える運転士の「鉄路」他、初期の犯罪小説から後期の科学小説を収録。激動の時代を走り抜けた天才蘭郁二郎の傑作集。
荒涼たるアメリカ西部。1860年代初期のテキサス、ニューメキシコ。アパッチの若き勇者ヴィネトゥと勇敢無比のドイツ青年技師シャッターハンドは、義兄弟の絆で結ばれる。次々と変名を使い、兇悪の限りをつくす白人ザンター。父と妹の死に、復讐を誓うヴィネトゥ。ザンターを追って大西部を疾駆する二人の行く手に待ち受けるものは…。
列車襲撃団との銃撃戦、宿敵カイオワ族との闘い。われらがシャッターハンドを襲う危機また危機の連続。そしてヴィネトゥの悲劇的な死…悪漢ザンターを追いつめ、物語はいよいよ金塊の山へ!ヘッセ、アインシュタイン、シュヴァイツァーも少年時代に血道を上げて読み耽った、ドイツ国民文学の最高傑作。
食堂は、十字路の角にぽつんとひとつ灯をともしていた。私がこの町に越してきてからずっとそのようにしてあり、今もそのようにしてある。十字路には、東西南北あちらこちらから風が吹きつのるので、いつでも、つむじ風がひとつ、くるりと廻っていた。くるりと廻って、都会の隅に吹きだまる砂粒を舞い上げ、そいつをまた、鋭くはじき返すようにして食堂の暖簾がはためいていた。暖簾に名はない。舞台は懐かしい町「月舟町」。クラフト・エヴィング商会の物語作家による書き下ろし小説。
昭和20年代の終わり、東京・国立。テレビでは力道山が活躍し、最初のゴジラ映画が封切られた頃、愛書少年青井祐太は、テレビより映画より、本に耽溺していた。嵐のような読書欲、ふくらむ妄想。そんな祐太の家に、父親の戦友、ジョンが異様ないでたちで訪ねてきたことから、事件が次々と起こる…登場する本、100冊以上、本邦初の冒険読書小説。
身の毛もよだつ怪奇譚や、実録風怪異現象をエキゾティシズムと猟奇趣味の混合した耽美的な文体で描いた、橘外男。特異な経歴をもち、様々な職に就きながら小説の筆を取った異色作家の、「聖コルソ島復讐奇譚」「怪人シプリアノ」など「実話」と銘打ったグロテスクな海外怪異譚と、「蒲団」「逗子物語」などの日本的怪談10篇を収録。
谷崎潤一郎とともに探偵小説のジャンルも開拓し、のちに文壇の重鎮的存在となった佐藤春夫の、幻想美溢れる作品世界。初期の代表作「西班牙犬の家」、探偵小説の先駆けとなり谷崎が絶賛した「指紋」、新しい方法意識で小説世界の幅を広げた未来都市小説「のんしゃらん記録」の他「女人焚死」「女誡扇奇譚」など、幻想・耽美的作品を収録。また評論として「探偵小説評論」「探偵小説と芸術味」も収録。
女性の目に入れられた義眼に異常な執着を示す男の物語「偽眼のマドンナ」。盗撮のレンズを通した女性に情欲を覚える男の姿を描いた「写真魔」。牧師を天職としながらも内奥に潜む悪を日記に綴る男の数奇な運命を描いた「聖悪魔」。自分を裏切った女と作品を酷評した批評家への復讐をたくらむ悪魔派探偵作家の仕掛けた罠を描いた「地獄横丁」などを収録。