出版社 : 草思社
「真の裏切り者」は誰だったのかーー。 本願寺はなぜ巨大な世俗権力との正面衝突に踏み切ったのか? 信長、秀吉、善住坊、そして光秀は何を望んでいたのか? 苛烈をきわめた宗教戦争の背後で交錯する異形の者たちの思惑と、 歴史に汚名を刻まれた智将の決断の裏に光をあてる傑作小説! 【本書より引用】 《「信長を殺めても解決にはならない」善住坊が静かな口調でいった。 「第二、第三の信長があらわれ、天下統一の前に立ちはだかる本願寺を攻めるだろう。そうさせないためには本願寺が決起し、織田氏を滅ぼすことで大名たちに力を見せつけておく必要がある」》 《信長が黙った。口元が怒りでわなないている。説得は無理か、と秀吉が観念しかけたときだった。「好きにせえ」吐き捨てると部屋からでていった。 秀吉は安堵する。自分が注進して光秀を蹴落としたーーそうみられるのは得策ではない。ふたりが重臣として覇を競っていることは周知のこと。失脚させるときは光秀を唾棄される存在に仕立てるのだ。ここはあわてず策を練るべしーーそれが秀吉の考えであった》 《明けて六月二日早暁ーー。 朝靄を切り裂くように鷺森本願寺の半鐘が乱打された。 「ご門主!」侍僧が顕如の居室に駆けこんで叫んだ。「織田軍の来襲でございます!」 顕如が布団を蹴ってとびおきた。雑賀鉄炮衆と激しい銃撃戦がはじまった。本願寺を明けわたしたではないか。なぜ信長が鷺森まで攻めてくるのだ。 本山が抹殺されるーー。ことの重大さにふるえながら、信長に信をおいた自分を呪った。 しばらくして銃声がやんだ。織田軍が引きあげていったという。》 第1章 遺文 第2章 宿願 第3章 岐路 第4章 標的 第5章 処断 第6章 犠牲 第7章 攻防 第8章 叛旗
痛烈!軽妙! 人生100年時代、次々現れる後期のハードル!! 遺産、介護、愛人、嫉妬、そして再婚ーー老いてなお「ドラマ」は止まらない。 シニカルでありながら心あたたまる、ユーモアに満ちた短編連作。 美衣子さんは危篤になった夫の告別式で行う喪主挨拶の下書きを始めた。 大学ノートに思うまま書いていたら、出るわ出るわ、夫への不満が大噴出! 長年待ち望んだ「1人暮らし」を前に、妻の本音はとどまるところを知らず……!? 表題作を含む「令和シニア」のあるある物語36編を収録。 人気の老齢超短編小説集『死んでしまえば最愛の人』の第二弾! <内容より> ▼「断崖ラブ」 町内のカラオケ大会で美声を披露していたイケおじとお付き合いを始めた珠美さんは、急に彼から深刻な話を持ちかけられ…!? ▼「夫婦じまい」 人間観察大好きの晴香さんは、公民館のストレッチ教室で知り合った男性から新しい夫婦の形態を聞かされてビックリ! ▼「昭和脳」 近頃、現金で支払いができずに困っているシニアたち。デジタル化もなんのその、「昭和脳」のまま今を生き抜く前向きな姿を描く。 ▼「最高の老後」 元理容師の保彦さんは1000円カットの店で「技術者募集」の張り紙を見て応募した。80歳の彼に店が下した決断は? 第1章 断崖ラブ 上半身は燃えておる 愛人力 おさげの頃 断崖ラブ きれいなおうち おいしい時間を食べていたい 第2章 夫婦百景 さよならマドンナ 回遊魚の妻 夫婦じまい 昭和さん きちょうメン 嫉妬に時効なし 灰になったら夫婦円満 愛のさんか 第3章 家族って一体? おためし おっぱいが終わらない 加齢お芝居 お父さんを残さないで 家族って一体? プリン、プリン 悪夢くらべ 思い出のアトシマツ お骨の話 第4章 令和お付き合い考 要らないよう 急いでないけど 貰い疲れ 優しい続きを 青い鳥になる 第5章 加齢バンザイ 昭和脳 じじざかり のほほん菌 恵みの雨 笑う義母 きれいは内緒で もっといい話を 最高の老後 あとがきにかえて
神秘主義、象徴主義の極北を、 論理と音韻が共振れする 日本語に移した圧倒的訳業! ロベルト・ムージル「愛の完成」「静かなヴェロニカの誘惑」 ムージル著作集版を底本とし、世界文学全集版「解説」、岩波文庫版「訳者からの言葉」を併録。 ライナー・マリア・リルケ「ドゥイノの悲歌」 『詩への小路』で試みられた散文訳「ドゥイノ・エレギー訳文」全十歌を収録。 解説=築地正明 読者にはたいそう難解な作品を提供したようにおそれられる。しばらく、読みすすんでいただきたい。初めの一節二節をこらえて吟味していただきたい。まもなく、これがこれなりに明解な文章であることに気づかれることだろう。しかも明解さをしだいに解体していく、そのような質の明解さである、と。あるいは明解さをいきなりその正反対へ転ずる、と。その背後にはきわめて厳密な知性がある。そして厳密の知性と超越の感情、きりつめた把握と果てしもない伸長という、独特な結びつきがこれらの作品の基調となっている。そのことを読者はやがて感じとられるだろう。 (ロベルト・ムージル「愛の完成」「静かなヴェロニカの誘惑」/循環の緊張ーー岩波文庫版「訳者からの言葉」より) 誰が、私が叫んだとしてもその声を、天使たちの諸天から聞くだろうか。かりに天使の一人が私をその胸にいきなり抱き取ったとしたら、私はその超えた存在の力を受けて息絶えることになるだろう。美しきものは恐ろしきものの発端にほかならず、ここまではまだわれわれにも堪えられる。われわれが美しきものを称讃するのは、美がわれわれを、滅ぼしもせずに打ち棄ててかえりみぬ、その限りのことなのだ。あらゆる天使は恐ろしい。 (「ドゥイノ・エレギー訳文」より) 【目次】 ロベルト・ムージル 愛の完成 静かなヴェロニカの誘惑 訳者解説 「かのように」の試みーー世界文学全集版「解説」 循環の緊張ーー岩波文庫版「訳者からの言葉」 ライナー・マリア・リルケ ドゥイノ・エレギー訳文ーー『詩への小路』 解説 言葉の音律に耳を澄ますーー翻訳と創作の関係について 築地正明 初出一覧 ロベルト・ムージル 愛の完成 静かなヴェロニカの誘惑 訳者解説 「かのように」の試みーー世界文学全集版「解説」 循環の緊張ーー岩波文庫版「訳者からの言葉」 ライナー・マリア・リルケ ドゥイノ・エレギー訳文ーー『詩への小路』 解説 言葉の音律に耳を澄ますーー翻訳と創作の関係について 築地正明 初出一覧
私は見つけた。 自分たちのしたいことをした女たちをーー。 四十代、独身、子なしの女性作家は、 十九・二十世紀の探検家やルネサンス期の画家ら、理想の女たちを追い求めて、 アフリカ、イタリア、日本を旅する。 『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』に続く長編紀行エッセイ。 カレン・ブリクセン、イザベラ・バード、 ネリー・ブライ、ラヴィニア・フォンターナ、 アルテミジア・ジェンティレスキ、草間彌生ーー。 賢明で勇敢、そして情熱溢れる女たちの生涯を辿りながら、 女性が生きることの本質に迫る。 「私はM。四十三歳。 夜に女たちを思って何年も経つ ーーセックスのこととはなんら関係はない。 人生が、恋愛が、置かれた状況がつまらなくて、 恐ろしい悪夢が永遠に終わらないように感じられると、 私は眠れずに夜に女たちを思ってきた。 そうした夜は、歴史上の女たちに 目に見えないボディーガードや守護聖人になってもらって、 私を前へ引っ張ってもらう。」(本文より) 【目次】 I 夜の女たち:告白 第一部 アフリカ II 白い霧、冬ーー夏 キリマンジャロ行きの飛行機に乗り、怖くなる カレン・ブリクセン III アフリカ、五月 カレンから勇気をもらうため、そしてサバンナへたどり着くため、アフリカへいく 第二部 探検家たち IV カッリオーーヴィヒティ、夏 ヴィヒティの屋根裏部屋で女性探検家たちを見つけて、世界をまわる イザベラ・バード イーダ・プファイファー メアリー・キングスリー V 京都、九月 鬱改善旅行で日本へいく(またも大荷物で) アレクサンドラ・ダヴィッド゠ネール ネリー・ブライ 荷造り下手な人top3 第三部 芸術家たち VI フィレンツェ、十一月 これといった理由もなくフィレンツェへいって、ウフィツィの女たちについて書くことになる ソフォニスバ・アングイッソラ ラヴィニア・フォンターナ アルテミジア・ジェンティレスキ VII カッリオーーマッツァーノ、冬ーー春 書く暇もないほど楽しいアーティスト・イン・レジデンスへいく VIII ローマーーボローニャーーフィレンツェ再訪 IX ノルマンディー、秋 大西洋岸で私の夜の女たちを思い、メリーゴーラウンドのキリンに乗る 草間彌生 X 魔の山 謝辞 訳者あとがき 参考文献
古希を過ぎても恋に萌える男女、犬も食わない(?)老年夫婦の秘密、 驚くべきイマドキ家族の実態、高齢者ならではの本音の友情物語、 いるいる&あるあるシニアの加齢な日常……。 身につまされる! いるんだ、こんな人! 読みだしたら止まらない、 あなたのまわりにもありそうな39の人間模様。 シニア向け老年エッセイで人気を博す著者、渾身の超短編小説集! <内容より> ▼「喫茶店のおしごと」 昭和の香りが残る喫茶店の71歳のママ、美穂子さん。二つ年下の男性客にデートに誘われ、下着を新調してみたのだが…。 ▼「孫に愛されちゃう法」 孫の愛されるには2通り。お金でくるむか、労力でくるむか。恵美さんはふと、ある労力作戦を思いつき、実行に移した。 ▼「介護脱毛」 嫁に「頭の毛よりシモの毛の心配をしたら」と言われてあわてた寿子さん。「介護脱毛」について情報集めをしてみると…。 ▼「同窓会ほらー」 75歳の中学の同窓会で、希代さんは昔、好意を持っていた浜野くんに話しかけた。しかし、どうにも話が嚙み合わず…!? 第1章 老い萌え 狙われる男 会話がお下手 ばば殺しトーク 老い萌え キャッツ愛 喫茶店のおしごと 第2章 夫婦の道すじ 待たれる男 かあさん、ごめんな 令和箱男 菜園ばなし 〈お昼〉というタタカイ 死んでしまえば最愛の人 第3章 家族哀歌(哀歌にルビ・エレジー) 愛しき娘よ孫よ 甘えん坊将軍 孫に愛されちゃう法 嫁天下 介護脱毛 嚙みつき亀子ちゃん 親孝行も金次第 御役御免 使い捨てばあちゃん 第4章 今日の友は明日の友? 真っ黒アドバイス ライン下り 犬の本心 新しいおともだち 10匹狼さようなら 選手交代 同窓会ほらー 第5章 ときは流れて たどり着かない帰れない こわいものなし もしかしたら、私…… 実家どうなる おれは、ばばドル 切れかけ絆 根くらべ 固く辞退します もの思う朝 今日も平穏無事 強引ぐ まいうえー
河内の民と土地と楠木一党の仲間たち、そして家族をこよなく愛した 戦さの天才・楠木正成が駆け抜けた熱き戦いの五年間。 イキのいい河内弁を駆使する人情味あふれる姿で描かれた歴史小説! 「いうとくけど、わしは損得で動かんのじゃ!」(薄笑いを浮かべる足利尊氏に向かって) 鎌倉幕府と戦い、後醍醐新政を支え、寝返った足利尊氏と闘い抜いて壮絶な最期をとげた楠木正成の、下赤坂城の戦いから千剣破(千早)城の戦い、湊川の戦いまでの五年間。弟・正季や恩地左近ら楠木一党とともに寡兵で大軍に立ち向かい、奇想天外な戦術で次々と勝利をおさめた無敵の戦術家。だが、ただ「忠臣」「軍神」としてではなく、郷土・河内の民と土地と楠木一党の仲間たち、そして家族をこよなく愛した男として、あふれんばかりの人情味に満ちた楠木正成の姿が生き生きと描かれる。熱き一冊! 装画:ヤマモトマサアキ 序 章 望楼の男 第一章 河内の土ン侍 第二章 笠置山 第三章 坂東武者 第四章 大塔宮 第五章 炎上 第六章 雌伏 第七章 瀧覚 第八章 築城 第九章 吉野山 第一〇章 蜂起 第一一章 四天王寺 第一二章 千剣破城緒戦 第一三章 千剣破城合戦 第一四章 喰えぬ男 第一五章 寝返り 第一六章 討幕 第一七章 宮仕え 第一八章 齟齬 第一九章 騒乱 第二〇章 都合戦 第二一章 足利敗走 第二二章 死命 終 章 郷夢
アウグスト賞受賞のスウェーデンの巨匠がおくる、北欧版『森の生活』。 リス、ミツバチ、キツネ、ワタリドリ、アナグマ… 詩人のコテージには、さまざまな動物たちとの出会いがあふれています。 著者はその出会いに触発され、その生き物たちの「言葉」を、 詩人の感性で受け取り、自然と生命への思索を広げてゆきます。 抒情豊かな文体で紡がれる、文学とサイエンスの新たな交差点。 「スウェーデン語で『アルファベット』を意味するbokstavは、 ブナ(bok)材に文字を刻んだことに由来する…… 書くことの目的は、未来へ向けて生命の本質を伝えることではないだろうか」(本文より)
山東京伝や恋川春町らで世を沸かせ、歌麿を磨きあげ写楽を産み落とした江戸随一の出版人・蔦屋重三郎(蔦重)。 出版者であり編集者であり流通業者であると同時に、流行を仕掛け情報を発信する辣腕メディアプロデューサーでもある。 そして何より、新しい才能を見出し育てあげて世に出し、江戸の日本の文化を変えた巨大な創造者でもあった。 時に為政者の弾圧にあいつつ「世をひっくり返す」作品を問いつづけた稀代の男の波乱の生涯を、江戸の粋と穿ちが息づく文体で描き切った渾身の時代小説! <主な登場人物> 蔦屋重三郎=蔦重(つたじゅう) 寛延三年~寛政九年(1750-1797) 江戸の名物本屋。話題作を連発する一方、才能発掘や価値創造にも卓越した冴えをみせた。 喜多川歌麿 宝暦三年~文化三年(1753-1806) 天才的浮世絵師。重三郎との出逢いで美人画に開眼、抜群の才を誇った。春画でも卓越。 山東京伝 宝暦十一年~文化十三年(1761-1816) 江戸を代表する戯作者。絵師として出発し流行作家となる。長きにわたり絶大な人気を得た。 恋川春町 延享元年~寛政元年(1744-1789) 黄表紙なる江戸文芸の新分野を拓く。文ばかりか絵も洒脱で滑稽味に溢れる多彩多芸の人。 朋誠堂喜三二 享保二十年~文化十年(1735-1813) 人気戯作者。黄表紙を中心に作品多数。表の顔は武士で、出羽国久保田藩の江戸留守居役。 北尾重政 元文四年~文政三年(1739-1820) 浮世絵師。親分肌で京伝や政美を育てただけでなく歌麿、鳥居清長にも強い影響を与えた。 大田南畝 寛延二年~文政六年(1749-1823) 狂歌壇の領袖。早熟の文人で天明期に圧倒的な存在感を示した。蜀山人、四方赤良は別名。 葛飾北斎=勝川春朗(かつかわ・しゅんろう)/北斎宗理(ほくさい・そうり) 宝暦十年~嘉永二年(1760-1849) 浮世絵師。駆け出し時代に蔦重の知遇を得る。後に偉才を存分に発揮、絵師として大成する。 曲亭馬琴=滝沢瑣吉(たきざわ・さきち) 明和四年~嘉永元年(1767-1848) 読本作家。京伝の紹介で蔦屋に寄宿。寛政期から著作に専念、読本で随一の物書きとなる。 十返舎一九=重田幾五郎(しげた・いくごろう) 明和二年~天保二年(1765-1831) 戯作者。瑣吉と入れ替わるようにして蔦屋へ。『東海道中膝栗毛』の大成功は享和期のこと。 東洲斎写楽 ?年~?年 あまりに衝撃的な大首絵で突如現れ、消えていった謎の浮世絵師。その正体は? 納得の結論が! 序章 画帖 第一章 吉原 第二章 細見 第三章 耕書堂 第四章 狂歌連 第五章 満帆 第六章 春町 第七章 歌麿 第八章 しやらくせえ 第九章 魔道 終章 蜉蝣
巨星・葛飾北斎を師と仰ぎ、千数百点もの美人画春画を 描きつづけた浮世絵師・英泉の波乱に満ちた生涯! 文化文政時代、千数百点にもおよぶ独特の妖艶な美人画・春画を残した浮世絵師・渓斎英泉。若くして葛飾北斎に私淑し、またその北斎に支えられつつ美人画・春画で一世を風靡、曲亭馬琴にも気に入られ『南総里見八犬伝』の挿絵を描く等の大成功にもかかわらず、絵筆を措いて女郎屋の主人に収まったりと波乱に富んだ人生を送っている。これまでは好色放蕩無頼の人物としてとらえられてきた英泉だが、本作では「絵」に賭ける果てなき渇望を持ち続けた真摯な人物としてまったく新しい英泉像が活き活きと描かれている。書き下ろし時代小説。 第一章 前夜 第二章 美人画 第三章 裏の絵師 第四章 世間 第五章 暗雲 第六章 災厄 第七章 青の時代 第八章 絵師の魂 終 章 富士越龍
「希望は生きるのを助けてくれます」(ゲーテ)×「朝の希望は、午後には埋葬されている」(カフカ) ーーどこまでも前向きなゲーテと、どこまでも後ろ向きなカフカの言葉を前にして、あなたの心に響くのはどちらでしょうか? 絶望から希望をつかもうとしている人、あるいは逆に、希望に満ちていたけど、少し疲れてしまった人のための「希望と絶望の『間の本』があってもいいのではないかと思いました。ゲーテが希望を語り、カフカが絶望を語り、読者の皆さんがそれぞれに心に響く言葉を見つけ出すことができる」(本文より)そんな一冊をお届けします。『希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話』を改題。
山東京伝や恋川春町らで世を沸かせ、歌麿を磨きあげ写楽を産み落とした江戸随一の出版人・蔦屋重三郎(蔦重)。 出版者であり編集者であり流通業者であると同時に、流行を仕掛け情報を発信する辣腕メディアプロデューサーでもある。 そして何より、新しい才能を見出し育てあげて世に出し、江戸の日本の文化を変えた巨大な創造者でもあった。 時に為政者の弾圧にあいつつ「世をひっくり返す」作品を問いつづけた稀代の男の波乱の生涯を、江戸の粋と穿ちが息づく文体で描き切った渾身の時代小説! <主な登場人物> 蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう)=蔦重(つたじゅう) 寛延三年〜寛政九年(1750-1797) 江戸の名物本屋。話題作を連発する一方、才能発掘や価値創造にも卓越した冴えをみせた。 喜多川歌麿(きたがわ・うたまろ/うたまる) 宝暦三年〜文化三年(1753-1806) 天才的浮世絵師。重三郎との出逢いで美人画に開眼、抜群の才を誇った。春画でも卓越。 山東京伝(さんとう・きょうでん) 宝暦十一年〜文化十三年(1761-1816) 江戸を代表する戯作者。絵師として出発し流行作家となる。長きにわたり絶大な人気を得た。 恋川春町(こいかわ・はるまち) 延享元年〜寛政元年(1744-1789) 黄表紙なる江戸文芸の新分野を拓く。文ばかりか絵も洒脱で滑稽味に溢れる多彩多芸の人。 朋誠堂喜三二(ほうせいどう・きさんじ) 享保二十年〜文化十年(1735-1813) 人気戯作者。黄表紙を中心に作品多数。表の顔は武士で、出羽国久保田藩の江戸留守居役。 北尾重政(きたお・しげまさ) 元文四年〜文政三年(1739-1820) 浮世絵師。親分肌で京伝や政美を育てただけでなく歌麿、鳥居清長にも強い影響を与えた。 大田南畝(おおた・なんぽ) 寛延二年〜文政六年(1749-1823) 狂歌壇の領袖。早熟の文人で天明期に圧倒的な存在感を示した。蜀山人、四方赤良は別名。 葛飾北斎(かつしか・ほくさい)=勝川春朗(かつかわ・しゅんろう)/北斎宗理(ほくさい・そうり) 宝暦十年〜嘉永二年(1760-1849) 浮世絵師。駆け出し時代に蔦重の知遇を得る。後に偉才を存分に発揮、絵師として大成する。 曲亭馬琴(きょくてい・ばきん)=滝沢瑣吉(たきざわ・さきち) 明和四年〜嘉永元年(1767-1848) 読本作家。京伝の紹介で蔦屋に寄宿。寛政期から著作に専念、読本で随一の物書きとなる。 十返舎一九(じっぺんしゃ・いっく)=重田幾五郎(しげた・いくごろう) 明和二年〜天保二年(1765-1831) 戯作者。瑣吉と入れ替わるようにして蔦屋へ。『東海道中膝栗毛』の大成功は享和期のこと。 東洲斎写楽(とうしゅうさい・しゃらく) ?年〜?年 あまりに衝撃的な大首絵で突如現れ、消えていった謎の浮世絵師。その正体は? 納得の結論が!
『マルタの鷹』『血の収穫』のダシール・ハメットはパルプマガジン「ブラックマスク」から登場し、ヘミングウェイやフィッツジェラルドと並ぶ二十世紀アメリカ文学の重要な小説家と見なされるまでになった。1961年に亡くなるまで書き続けられ、未完となっている中篇小説「チューリップ」を中心とし、初期の文芸作品風の短篇も収めた小説集。ハードボイルド小説の日本での紹介者・小鷹信光個人訳に、評論・解説を付す。 ハードボイルド精神とは何か? 遺作と編者特選短篇を集めた愛蔵版。 ●「チューリップ」( 未完の中篇、著者と思しき主人公の身辺雑記風小説、何も起こらないのにハードボイルド) ●「理髪店の主人とその妻」「帰路」「休日」「暗闇の黒帽子」「拳銃が怖い」「裏切りの迷路」「焦げた顔」「ならず者の妻」「闇にまぎれて」「アルバート・バスターの帰還」の10 篇( パルプマガジン 「ブラックマスク」などに掲載された1920 年代の犯罪小説やコンチネンタル・オプ物語など)
慶応元年、第二次長州征討のため大坂に進発した徳川十四代将軍家茂のお供を任じられた仲良し御家人四人組、弥次郎・喜多八・筒なし・関兵衛は、開戦の遅れをよいことに一年以上も大坂で美食、遊郭通い、観光と遊び呆ける始末(『在京在阪中日記』)。その後、長州、鳥羽伏見、上野、日光、会津、箱館へと続く維新の戦乱に厭々従軍させられ、死の恐怖に怯えつつも持ち前のノーテンキさで行軍してゆくー。幕府滅亡を象徴する“戦意なき”幕臣たちの生態を史料と想像力で復元した傑作幕末小説。単行本『幕末不戦派軍記』所収の五編と『幕末伝説』所収の鳥羽伏見編を合本した決定版。
クリスマスシーズン、メイシーズ百貨店の特設会場「サンタランド」でアルバイトしたデビッド。彼が見たのは、おかしくてアホっぽくてみっともなくて、でも切なくて少し哀しく愛おしい人間たちの素の姿ー。著書累計700万部以上のベストセラー作家のデビュー作である表題作をはじめ、クリスマス短編6篇をおさめた傑作集。
作家を志す孤独な青年が、断絶していた親の死、友人の死をへて、しだいに生きることの意味に目覚めてゆく。生きとし生けるものすべてを懐に抱く、作者タマーロの深いまなざしに満ちた自伝的長篇。
パリ郊外、低家賃団地が建ち並ぶ街サルセル。団地の人びとは誰もが鬱屈した思いを抱き、少しずつ常軌を逸していた。異常なまでに秩序にこだわる刑事シュナイダー、二重人格のその妻フランス、1日中、ラジオやテレビをつけっ放しにしている「ニュース狂い」の青年、九官鳥に人種差別的な言葉を教えこむ老人、巨大な双頭の鯉と格闘する下水道の掃除人、そして軍隊からごっそりと手榴弾を持ち出した志願兵のジャン・イヴ。パリの街に次々と手榴弾が炸烈する。事件を追うシャナイダー刑事の胸に抑えがたい暴力への衝動が突きあげる。そして妻のフランスの心の中では、別人格「娼婦のマギー」が死に、「ブラッディ・マリー」が現れる…。病めるフランスの現代社会を映し出した衝撃の作品。仏ミステリー批評家大賞受賞。
春も浅い「ミ=カレーム」の祭りの季節。北仏アズブルックに、かつての恋人の消息を尋ねて一人の男がやって来る。だが、二人の再会の場は痛ましい殺人現場と化した。放心し、恋人の死体に見入る男。かたわらには、カーニバルの巨人人形が撃ち抜かれた眼窩をさらして横たわっていた。男はカダン刑事に逮捕され、「精神錯乱」と診断を下される。1年後、男はジョン・レノンの『イマジン』のテープに吹き込んだ告白をカダン宛てに残して、精神病院で自殺した。はたしてその告白は、真実なのか妄想なのか。単身、再捜査に乗り出したカダン刑事の前に、やがて複雑にからまった事件の全貌が浮かぶ上がってくる。社会から転落し、犯罪に巻き込まれてゆく若者たちの姿を描き出した、哀感漂う作品。