出版社 : 草思社
1961年10月17日、パリでは大規模なアルジェリア人デモが繰り広げられていた。高校教師のロジェ・ティロは、身重の妻が待つわが家まであと一歩のところで、デモに遭遇する。歩道にたたずみ、機動隊とデモ隊が烈しくぶつかりあう光景を茫然と見つめる彼の背後に一人の男が近づく。機動隊の制服を着たその男は、ロジェの頭を押え込むと、右のこめかみにブローニング自動拳銃の銃口をあて引き金を引いた。20年後、ロジェ・ティロの息子ベルナールが恋人とともにフランス西南部の町トゥールーズを訪れ、公文書館を出た直後、何者かに射殺される。父と子の不可解な死を結ぶ手がかりは何か。事件の捜査に着手した辣腕の刑事カダンは、フランス現代史の闇に葬られていたある驚くべき事実に直面する…。
リュシアンはいつも独りぼっちだった。あるとき同級生から「人殺しの子」と罵られた彼は、その夜、寄宿舎から姿を消し、付近の沈澱池に死体となって浮かんでいるところを発見された。池のほとりの地面にリュシアンはこう書き残していた。-僕の父は人殺しではない。第2次大戦中のレジスタンス運動について調べるマルクは、かつてのレジスタンスの英雄ジャン・リクアールのもとを訪れる。彼は、戦後、対独協力者を処刑したかどで殺人の罪に問われ、投獄された過去を持っていた。人に命じられるがままに活動の深みにはまってゆき、苛酷な運命にとらわれたジャン。マルクはその背後に隠されたある人物の驚くべき裏切りが、リュシアンの悲劇にまでつながっていたことを知る。
パリ効外の団地で、結婚式をあげたばかりの花嫁が射殺される。純白のウエディングトレスの胸を真っ赤に染めた花嫁が握りしめていたのは一枚の紙切れ。そこにはこう書かれてあった。「ネエちゃん、おまえの命はもらったぜ」。シャポー刑事はその下に記された署名を見て愕然とする。ビリー・ズ・キック。それは彼が娘のために作った「おはなし」の主人公ではないか。続けてまた一人、女性が殺される。そして死体のそばにはビリー・ズ・キックの文字が…。スーパー刑事を夢見るシャポー、売春をするその妻、覗き魔の少女、精神分裂病の元教師。息のつまるような団地生活を呪う住人たちは、動機なき連続殺人に興奮するが、やがて事件は驚くべき展開を見せはじめ、衝撃的な結末へ向かって突き進んでゆく。