1988年発売
〈ノックをすると、入れ、と言う声がした。鍵は開いていた。足を踏み入れたとたん、谷口は棒立ちになった。全裸のまま、二人は布団の上で絡み合っている。電気は点けっ放しだった〉この時、谷口の胸に殺意が芽生えた。遠く、佐渡に打ち寄せる潮騒が聞こえていた…(「哭き鬼太鼓」より)。佐渡、隠岐、南紀・大島など、伝説に彩られた島々を舞台に繰り広げられる男と女の愛憎。そして殺人。現地を取材して旅情豊かに描く傑作サスペンス推理!
札幌市郊外の大学で不幸な出来事が続発した。合格発表を見にきた受験生の長蛇の列に、大型トラックが突っ込み、多数の死傷者を出したり、大学院の学生が化学実験中に爆発事故を起こして死亡したり-。やがて“不幸な出来事”は、“おぞましい怪事件”に発展する。それは深夜、警備中のガードマンが巨大な黒犬獣に襲われ、下半身を食いちぎられるというものだ。-悪魔に魅せられた学園を救うべく、屈強な青年と、オカルト・ライターが事件の解明に乗り出すが。魔術に造詣の深い注目の新人が放つ、本格マジカルホラー小説の力作!
「運転をかわって、不倫できるところへ連れてって…」不倫願望の強い人妻の美雪にそう言われ、本田は運転をかわると、教習車を一番はじめに目についたラブホルテルにすべり込ませた。本田は女芯に舌を沈め、さらに三分の一ほど頭を視かせた芯芽のベールを剥くように舌で押しまわす。「ああ、気が狂いちゃっいそう」美雪は頭を掻きむしった。「ねえ、早く入ってきて。でないと、わたし、イッちゃう…」
敗戦直後の廃墟の東京で、獣になって身を売る若い女たちの集団。その中に突然現われた一人の男をめぐって起こるドラマを描いた表題作「肉体の門」。戦場の中国を舞台に、死と隣り合わせた欲望のひしめく中で、民族・思想・立場をこえた“人間”のつながりを求める男女の姿を描いた「肉体の悪魔」「春婦伝」「蝗」。さらに彼の主張を集約したエッセイを収め、田村文学のエッセンスを贈る。
旧約聖書創世紀にあるヨセフの物語は、イスラエルの族長ヤコブの第11子ヨセフが、父の過度の寵愛を兄たちにねたまれて奴隷としてエジプトに売りとばされた話である。このヨセフ物語をトーマス・マンが51歳から丸々16年かけて長大な小説にしたのが『ヨセフとその兄弟』4部作である。今世紀最大の夢のロマン、全巻完結。
アメリカからの電報を読んで、キャシーは愕然とした。ノエルが結婚!なんて馬鹿な。長年あなたを支えてきたのはこのわたしだというのに。一体どんな女と?溜息まじりで二人の到着を待つキャシー。だが彼女にはまだ知る由もなかった。その女バーバラが、重婚の罪を犯していようなどとは!フランス女流の第一人者が贈る、円熟のサスペンス。
中共軍の攻撃が噂される東シナ海のサンツ島には、数家族のイギリス人が住んでいた。彼らを保護救出するため、英国中国派遣艦隊司令官は、老朽砲鑑ワグテイル号と新任艦長ロルフ少佐にこの重要任務を委ねた。使命を帯びて海原をかき進むワグテイル号、その行く手に待ち受けているものは?海軍士官出身の著者が感動的に描き上げる海と男の物語。
わたしを合衆国大統領にしてくれーそれが、有能なメディア・コンサルタント、ブルームへの依頼の内容だった。報酬は100万ドル。不安を抱きながらも、ブルームは、CMを初めとする一大メディア戦略を開始したのだが。もと州知事とその宣伝参謀が比類なき正確さで描破した、仮想・合衆国大統領選挙戦の顛末。迫真のポリティカル・ノヴェル。
夜の京都祇園石段下に突如出現した獣人集団!彼らの阻いは何か?異空間Ψの絶対的支配者大魔王と超能力戦士のエンドレスファイター・淫虐戦記PART2!
芸能プロ社長が誘拐され、JR新宿駅4番ホームに到着した急行〈アルプス82号〉の網棚から、彼の生首入りバッグが発見された。同時に身代金1億円入りのバッグが、こつぜんと消えた。白日の下に曝されたバラバラ遺体。なぜ、こんなに残酷、非情な犯行が!?快心の書き下ろし長編ミステリー!
外資系商社社長の秘書を務める和美は、独身主義者と噂され、仕事の面でもやり手の副社長・奥村と熱い恋におちる。一方、長く深くつき合って来た浩一の存在もあった。そして、奥村と仕事の両面で、解決多難な出来事に遭遇する。その後、奥村は社長との争いのすえ、オーストラリアにとばされる。和美はその社長と副社長との確執の中身の真実を知った。そして、和美の愛にとって決定的な事実も。誤解と迷いの中から彼女は新しい人生へ。
美しき水の都マンチス。だが観光気分で来たわけじゃない。阻う獲物は俺の爺っちゃま、ルパン一世の恋の形見、ヴィーナス像だ。しかし、この彫刻、ただのお宝じゃあなかった。突然現われた小生意気な若僧に俺の計画はみーんな見抜かれていやがった。「ホームズ家の名誉にかけて、ヴィーナス像は渡さない!」なんと、そいつはかの名探偵、ホームズの孫だったんだ!畜生、作戦の立て直しだ。次元や五右衛門も探さなきゃなんねェ。さあ、名探偵対大泥棒の大勝負が始まるぜ!
20年にわたる暴力と謀略の世界に別れを告げ、FBIを辞めたピート・ケッターは静かな町カスケードへ帰ってきた。法律家として再出発し、平穏な生活を送ることを夢みて。だがー次々と女性が殺されるという事件に彼の夢は破られた。一見穏やかな故郷の荒廃に気づいたピートは、姿なき殺人者を追ううち、捨てたはずの「狩人」としての情熱の甦りを感じていくー。苦悩する男の変貌を息子との交情を通じて描く、新鋭ウイルツの人間ドラマ!
引退したギャングのボス、フランク・ディシリアが死んだ。未亡人カレンには、400万ドルとフロリダの豪邸が遺された。ただし、条件があった。フランクは、カレンが浮気しないよう遺産管理者に命じて、彼女に近づく男たちを脅迫するようにしたのだ。そこへ2人の男があらわれた。用心棒ローランドと流れ者のマグワイア。400万ドルとカレンの魅力に目がくらんだ男たちが火花を散らす、これこそまさしくレナードの真髄、人間味あふれる悪党たちの物語だ。
ヒューストンの広告会社ランガー・メディア社で映像技師がむごたらしい刺殺死体で発見された。技師は殺される数時間前に戦争カメラマンからあるビデオカセットを受け取ったがそれは現場から消えていた。戦争カメラマンは戦場の暴力シーンをビデオに収めるのが得意な男だった。長期休暇中のヘイドン刑事は同僚から現場復帰を誘われこの事件を担当。捜査を進めるヘイドン刑事の前に、暴力に憑かれた異様な男の姿が浮び上がった…。
著者ゴロソフケルは小説における父親殺しの犯人は誰かという推理小説風のテーマに絞りながら、それをイデーのレベルで問題にしていく。真犯人はイワンの二律背反的知性に潜む〈悪魔〉ではなかろうか?その推論のプロセスはスリルと謎解きに満ちている。著者は言う。ドストエフスキーは西欧批判哲学の理論的知性に宿命的な悲劇性とヴォードヴィル性をイワン=悪魔の形象において描き出し、カントに代表される西欧批判哲学と決闘を行なったのだ、と。ドストエフスキー研究に新鮮な一石を投ずる野心作である。