1989年7月1日発売
ただひとつ、ずっとわかっていることは、この恋が淋しさに支えられているということだけだ。この光るように孤独な闇の中に2人でひっそりいることの、じんとしびれるような心地から立ち上がれずにいるのだ(「白河夜船」)。あの時、夜はうんと光っていた。永遠のように長く思えた。いつもいたずらな感じに目を光らせていた兄の向こうには、何か、はるかな景色が見えた(「夜と夜の旅人」)。また朝になってゼロになるまで、無限に映るこの夜景のにじむ感じがこんなにも美しいのを楽しんでいることができるなら、人の胸に必ずあるどうしようもない心のこりはその色どりにすぎなくても、全然構わない気がした(「ある体験」)。
外国で殺した男の形見として持ち帰った1本の手に復讐される話(「手」)、雪深い山小屋に一冬閉じこめられ、遂に発狂してしまう男(「山の宿」)、眠っている間に無意識のうちにテーブルの上の水を飲んだりする一種の「人格遊離〈ドッペルゲンガー〉」をテーマにした「オルラ」など、11篇の怪奇短篇を厳選して新訳。
地球の温暖化によって気候が大きく変動し、世界の農業生産に大きな影響が生じる。これを重く見た米ソは火山を人工的に噴火させて気温の低下を図る。しかし、海底地震が誘発して南極大陸の巨大な氷棚が崩壊。世界の各地を襲う大波は、次々といくつもの国々を呑みこんでゆく。作者が地球滅亡への悲劇を、鋭く描く巨大フィクション長編大作。
資材課長の岡本努は、宮本と名乗る青年の訪問をうけた。「どうしても会ってほしい男がいる」というのだ。つれだって出かけたスナックで待っていたのは、自分とそっくりの男であった。しかも同姓同名、聞けば出身地も生年月日も、そして親の名前まで同じである。一卵双生児か、だが、秘密を知っているらしい宮本青年の口から意外な話が…。この「思いがけない出会い」をはじめ、「夜風の記憶」「血ィ、お呉れ」「乾いた旅」など、眉村SFの秀作6篇を収録。
愛する夫に肉体のすみずみまでを開発された緋奈子は、夫の単身赴任の報に愕然とする。それも海外に2年間…。熟れきった身体に噴きあがる欲望を満たす術もなく、人妻は男を求めてさすらう。たくましい男に貫かれる期待を胸に、真新しい下着をしとどに濡らして、不倫妻は歓喜に悶え狂っていく-。