1989年7月発売
愛は水面の光のように刻々とその姿を変える。若い男と子連れの女、美しい男と醜い女-。アン・タイラー、ラッセル・バンクスなど、現代アメリカ作家が描く同時代の愛。
アメリカ東部の大都市フィラデルフィア近郊の、閑静な学園地区メイン・ラインの一角で女性の全裸死体が発見された。スーザン・ライナート、39歳、高校教師。一緒にいたはずの子供たちの姿は消えていた。捜査線上に浮かんできたのは、高い学歴のインテリばかりだった。ビル・ブラッドフィールドは、博識で、詩人の魂をもつといわれるカリスマ的な英語教師だったが、そのストイックな言葉と裏腹に、何人もの女性と結婚やら同棲をし、複数の恋人までいた。彼らの校長、ドクタ・スミスは変態性欲者で、また窈盗癖があった。この二人に疑惑の目は集中した。倫理なき社会病質者の犯罪を描き、そこにうごめく人間心理の不可思議に鋭く迫る、ウォンボー渾身のノンフィクション。
ブルボン王朝の支配する19世紀の南イタリア、シチリアとおぼしき王国にある孤島の牢獄。国王暗殺の陰謀に加担したため死刑を宣告された4人の男たちが、翌朝のギロチン刑を前に恐怖にふるえ、最後の夜をすごしている…。コッラード・インガフウ男爵-熟年。〈現人神〉をリーダーとする地下組織に入って以来、国に対する破壊活動の過激分子となる。サリンベーニ-40代、自称詩人。アジェラシオ-30歳、兵士。ナルチーゾ-年齢不詳、学生。当局は一味の影のリーダー〈現人神〉をつきとめようとするが、彼らはどんな拷問にも屈せず、嘘をつらぬき通している。そして処刑前夜、城塞刑務所の総督がやってきて、〈現人神〉の素姓を明かせば恩赦も認めようともちかけた。4人はこの取引を拒絶したものの、死を前にした動揺は激しく、残された5時間を有意義にすごすため、“デカメロン”のように各人が順を追ってそれぞれの人生を語りはじめた…。計算しつくされた物語はこび、みごとな文学空間…極限状況下の人間の真実と嘘を鋭く追求し、今世紀のイタリア文学を代表する作品とまで絶賛された傑作。ストレーガ賞受賞。
宇宙暦788年、21歳のヤン・ウェンリーは少佐に昇進した。惑星エル・ファシルから民間人300万人を救出指揮した、あの奇跡の生還を果たし、しばし休息の時を送っていた矢先き、統合作戦本部参事官アレックス・キャゼルヌ中佐から呼び出された。第二次ティアマト会戦において、銀河帝国軍を完ぷなきまでにたたきつぶした伝説の英雄ブルース・アッシュビー提督の戦死に、謀殺の疑いある-という投書が舞い込み、その真相を究明せよとというのだ。再びヤンの活躍がはじまる。読者熱望の“外伝”4、満を持して登場。
歴史に残る戦いだけが、闘いではない。第二次大戦末期、南の島で繰り広げられたこの無名の死闘もまた、栄光と悲惨を充分に伝えるものだといえよう-。彼らは、それぞれたった一人の生き残りだった。山村一等兵は38式狙撃銃。ブラウン二等兵はM-1C狙撃銃。武器といえば、他に手榴弾が数発。弾数に限りがあり、援軍も期待できない。密林の暑熱の中、彼らは、ただ生き残れることだけのために、互いの命を標的にした。風を読み、スコールを味方にし、陽光を利用する。持てる知識の全てが武器となる…。究極のサバイバル巨篇。
21世紀後半、世界は相変らず血と硝煙に満ちていた。キューバ、ニカラグアはレッド・アメリカと呼ばれていたが、怖るべき殺戳事件が起った。反政府ゲリラ、政府軍、米空挺部隊、米陸軍特殊部隊と敵味方の区別なく惨殺された死体の山には腕や脚は勿論、首のないものもあった…。イランの首都テヘランで、一匹狼の殺し屋シド・アキヤマに接触した男がいた。日本の内閣官房情報室の黒崎と名乗る男は、シド・アキヤマに四人のテロリストの殺害を依頼した。彼らは特別な肉体を獲得したサイボーグだという。闘いは始まった。
ダーク・グリーンの海をもつ惑星ヌーパスで300人乗り旅客ヘリが墜落した。3カ月でもう3つ目の大事故。いずれも確とした原因がつかめない。しかし、今回死んだ人間の中に、スーパス情報局本部、通称〈バグ〉の職員・ベクターがいた。ベクターは政治犯調査のスペシャリスト。同じ職場にいる恋人・リンメイは、人工的工作の可能性を執念で迫っていたが…。3つの事故は本当に偶発的なものなのか?ネコとノイズが調査にのりだした途端、リンメイが死んだ!一体この惑星では何が起こっているのか。恐怖と謎を秘めたヌーバスにネコとノイズが挑む-。
御岳で消息を絶った友人を捜しに、わたしは木曾谷にやってきた。その夜、知り合った中国娘美蘭に同行を迫られ、一緒に登山することになる。ところが先々で殺人が起こり…。下山登中、御岳教の老行者が、神託として「あなたのさがしものは、つれの娘が知っている」と告げる。だが美蘭は姿を消した。美蘭の行方を追ううちに、御岳に隠された忌しい過去が明らかになる。綿密な取材で描く長篇推理。
天保八年(1837)浦賀沖に出現したモリソン号に続き、英仏蘭露の異国船がしきりに日本沿岸に出没するなか、嘉永六年(1853)突如浦賀に入航したアメリカ艦隊の威力は、幕府を震撼させた。折から、長州の桂小五郎、高杉晋作、薩摩の西郷吉之助、土佐の坂本龍馬ら憂国の至情に燃える若者たちは、新しい時代に向けての行動を準備しつつあった…。壮大なスケールで幕末の群像を描いた大河ロマン。
CM業界を舞台に自動車メーカーの宣伝室長と広告代理店の担当者、TV関係者と女性達をめぐる二件の殺人事件。現場はマンションの一室とエレベーター。しかも狭い箱のエレベーターの中で凶器として発見されたのは長い槍だった(第一話「殺人もあるでよ」)。ふだん、何気なく使用している空間ー別荘、書斎、寝室、トイレ、モーテル、廃屋ーを使い、巧みなトリックを駆使した推理短篇集。
政財界に人脈を持ち、回教徒の永遠四姉妹を妻にする経済研究所経営者・奈方巌雄は、訪れた網走で、うら若い未亡人・平丘文子と吹雪の夜を供にした。彼女の夫で大学講師をしていた秀雄は三年前、旅先のトルファン交河故城の断崖から転落したという。文子は寝物語に、“シルクロードの秘宝”にまつわる不思議な歌謡を口ずさみ、夫の死に不審があると打ち明けた…。長篇冒険伝奇SF好評シリーズ。
三鈴化学営業部の遠藤大介は、海外出張を命じられ、アマゾンの奥地イグアラに赴いた。ところが、入国した途端、反政府ゲリラに拉致される。身代金は八百万ドルやがて日本政府との交渉は成立するが、ゲリラは遠藤に銃口を向けた!その時、日本女性が率いるインディオの一団が救出に現れる。緑色に妖しく光る目を持つ彼らは一体何者なのか?そして隠された陰謀とは?南米の秘境を舞台に展開する長篇冒険SF。
英雄ツァラに〈絵を描く術〉を与えられた誇り高き黒鹿部族のトマだが、洞窟の底深く足を踏み入れてはならぬというツァラの掟に背き、“永遠の闇の洞”を越えた。気候の変化による獲物の激減と、妖術師ダク・ツムの出現で、狩猟によって生きる彼の部族が餓死か、南に移住して農耕するか二者択一の危機に瀕しているのだ。だが、掟を破って洞窟に入ったトマを、闇の底で何かが待ち受けていた。長篇神話SF。
春に子熊は母を失くした。巨大な雄熊はひとり大地と闘っていた。ふたつの生命が固い友情で結ばれた夏のある日、ロッキーに狩りの足音が響き始めたー。「薔薇の名前」の巨匠ジャック・アノーが、グリズリー同士の壮絶な死闘、猟師たちとの息づまる戦いなど野生動物の懸命に生きる姿を通して“生きるとは何か”を問いかけた大作。動物小説の大家カーウッドの名作が、壮大かつ美しい映像とともに現代によみがえる。
世紀末ウィーンの華、グスタフ・マーラーの妻アルマ。「絶対的ニンフ」と言われた彼女は、音楽・文学・建築・美術とあらゆる分野の芸術家たちを魅惑し、彼らの創造力を刺激しつづけた。天才音楽家マーラー、バウハウスの創設者グロピウス、劇作家・詩人のヴェルフェル、画聖クリムト、そして表現主義を代表する画家ココシュカ-彼らはアルマが存在したゆえに、その才能をみごとに開花させる。だが多くの芸術家の愛をほしいままにした彼女が、本当に求めていたものは、何か?フランスの元文化大臣、著名な女性ジャーリストのジルーが鮮烈に描く、美神アルマの苦悩と実像。
日本が生んだ伝説の麻薬といわれる“甲竜”が世界各地に出回り始めた。各国機関から連絡を受けた内閣調査室は一人の若手係官に特命を下す。中毒者が巷にあふれ情報提供者が次々と殺されるなか、彼は怪しげな宗教団体を隠れ蓑に地盤を広げる巨大麻薬組織へと潜入し、命を賭して組織の中枢に迫りその巨悪を砕こうとする。だが、内調本部にいた裏切り者によって彼の母親が拉致された。若き天才捜査官の打つ手は…?-長篇痛快ロマン。
水と火のごとく相反する性格を持ちながら、固い友情に結ばれた大久保と西郷。倒幕運動を推進し、維新の大業を成すが、「征韓論」をめぐって激しく対立。歴史を大きく動かした大久保利通の足跡を描く長編傑作。