1990年1月発売
吉田松陰と高杉晋作。この2人の生涯をたどれば、明治維新の概略を知ることができる。アヘン戦争、ペリー来航、安政大獄、攘夷戦、長州征伐…極東に延びてきた世界史の触手や、顕現化した幕政矛盾と直接、間接に関わりながら、松陰と晋作の人生は展開されていった。安政4年秋、松陰と晋作の運命的な出会いから、歴史はかすかな屈折を始めた。松陰・晋作の生涯に維新史を重ねた力作長篇。
11月のある夜、〈私〉は殺人を目撃した。被害者が死の寸前に呟いたのは“奈落…”だった。この男、レナードの兄ケネスも、半年前に転落事故で死んでいる。が、レナードの恋人“トム”は、二人が同一犯人に殺されたと主張し、〈私〉に真相究明を依頼してきた。兄弟の周囲は怪しい人物ばかり。事件の鍵を握る男が見つかったとたん、罠にはまり〈私〉は半殺しの目にあった…。好調“名無しの探偵”シリーズ最新作。
ぼくは大学生で、両親と姉の四人家族。姉は会社勤めを辞め、何度か見合いをしたが、結婚までにはいたらない。その姉が驚くことにコンピューターで結婚相手を見つけてきたから大騒ぎ。一方、ぼくは恋人と特別な理由もないまま、喧嘩別れしてしまうが…。姉の結婚式の一日とぼくと彼女の関係を、瑞々しい感性とユーモア溢れる筆致で描写した書下し長編小説。
中世ヨーロッパを遍歴し、近代民衆文学を生み出した吟遊詩人たち。現代ヨーロッパでは消え去ったその伝統が、今なお息づくブラジル。小冊子リテラトゥーラ・デ・コルデルを通してブラジル民衆文化の深層にせまる。
見知らぬ男から完全犯罪殺人の方法を囁かれた坂田陽三。彼は酔った勢いで上司の藤田を殺したいと洩らす。その数日後、藤田が突然心臓麻痺で死亡し、陽三宛てに殺しの請求書が送られてきた。殺人の報酬に対し支払いを拒否する陽三だったが、恋人の殺害が警告され、その彼もまた…。窮地に追い込まれた陽三は、男の正体を探り、殺し屋組織の存在と驚くべき手口を掴むがー。奇抜なトリックを駆使した本格推理。
小松公太郎は、京の宿に泊まり、女将のみやびに会う。2人は前世から運命の糸で結ばれていたような錯覚を感じた。小松は作家で自分の作品が映画化されるため、その後も古都を訪ねるが、身も心もみやびに惹かれるばかり…(「恋人みやび」)。人間なら1度は体験したい、ふと巡り会い、燃え狂う愛の様相を全9編の視点から活写。
「戦とは策なり。戦わずして勝つ事なり」-愛する木曽義仲の身を守る女武者巴御前は、海内無双の勇者であるだけでなく、常に策を巡らすことをも心掛けた。これは天下第一の美女、波瀾の合戦記である。
戦火のアフガニスタン。白旗を掲げ、ヒンズークシの渓谷を登るソ連軍のジープ。車上には、寒村の教師として赴任している妻ポーラを迎えにきたヤクーシェフ大佐がいた。だが、母国と夫に不信の念を抱き、今は反政府ゲリラの首領ハーンに思いを寄せる彼女は同行を拒絶。警告を残し、大佐は去った…。-武装ヘリの機銃掃射、山々に谺する砲声。村は潰滅し、ソ連兵の凌辱を受ける女たちのなかにポーラがいた…。
“聖戦の時は満ちたり!敵を殱滅せよ!”地下抵抗組織〈百合〉を率いる謎の女。神託を下す彼女の身には、預言者マホメッドの子が宿っているという…。-ハーンを指導者とする反政府ゲリラの勇猛果敢な抵抗、思想教育に送り込まれたロシア人女性ポーラの数奇な運命、その夫ヤクーシェフ大佐の野望、紛争を取材するイギリス人カメラマンの心の葛藤…。ソ連軍侵攻直後のアフガニスタンを舞台に展開する感動のスペクタル巨編。
「この封筒を預かったんだけど…」講師斡旋会社の副社長サブリーナは、ほっとして男に手を差し出した。よかった!間違えた封筒を取り返せて。それにしても、何と魅力的な男だろう。引き込まれそうな瞳に、官能的な唇。そう、大物ビジネスコンサルタントで大ベストセラーを出した全米一有名な男、ドルー・ダールトンだ!呆然とするサブリーナをドルーは夕食に誘ったが…。
ロンドンからニューヨークに向かう船の中で、ジェイムズはシャンパンを片手にひとときの孤独を満喫していた。ふと気がつくと、確かに閉めてあった窓があいているではないか。かすかな足音が聞こえてくる。もしかしたら、乗船以来さわぎになっている宝石どろぼうかもしれない。恐怖に凍りついてしまった頭を持ち上げると、そこには、みごとな金髪の妖精が立っていた。
「おまえを第五代ゴールストン公爵に嫁がせる!」父の話はオレサにとって青天のへきれきだった。莫大な財産を相読するはずのアシャースト家のひとり娘だからといっても結婚する相手は自分で決めたい-。そこで、父の決めた相手がどんな男性か自分の目で確かめることにしたオレサは、図書室の目録作りを依頼された司書の娘になりすまして公爵の屋敷にのりこんだが…。
スイスの名門女学校に通うコーデリアは、卒業を目前にしたある日、学友たちと森へ出かけた。メイドから不思議な伝説を聞かされたからだ。「狩猟月のころ、“ピルチャーの峰”に行くと、未来の夫に逢える」という-。はたして、ひとりの青年があらわれた。この人が、わたしの夫となる人なのだろうか…。やがて卒業した彼女は、イギリスへ帰る船上で、再びその青年と出逢う。胸をときめかせるコーデリアに、エドワードと名乗り再会を約したにもかかわらず、かれは2度と彼女の前に姿をあらわすことはなかった。かれは、20年も前にすでに死んだ男だったのだ。