1990年1月発売
短篇小説の名手として名高いロアルド・ダールがもつさまざまな魅力。切れ味鋭く、鮮やかで、洒落たオチ。発想の奇抜さ、面白さ。“残酷で、皮肉で、薄らつめたく、透明で、シニカルな”大人の想像の世界を、子供にも充分理解できるような平明なことばづかいで語る、ストーリー・テリングの妙。そしてダール特有の“毒”の味。本書はそんなダールの魅力を堪能できる、素敵な新作9篇を収録したファン待望の傑作短篇集。
切なく響くフイドルの音色。スチールギターがむせび泣く。カントリーの聖地ナッシュビルの日本人私立探偵は走る。見果てぬ夢とこわれた心のかけらを集め、物語が始まる。長篇ハード・ボイルド。
ホーン岬。南米大陸最南端に位置し、岬を流れるドレーク海峡は、パナマ運河開設まで航海者達の命を累々と呑み込み、魔の海域と怖れられていた。大前信一郎をスキッパーとするアンズ号は、厳寒期、クルーザーでホーン越えに挑む。大前を兄と慕う山野井凛は、この航海を我がことのように見守っていた。しかし連絡が途絶えた後、凛のもとに届いたのはアンズ号遭難の報であった。絶望に打ち拉しがれる凛。しかも事故には不可解な点が幾つかあった。大前のフィアンセ・啓子の熱い勧めに、凛はホーン越え挑戦の決意を固める。
強烈な衝撃がバーダイン号を襲った。悪魔のウインクって奴だ。ネコとノイズは、そいつのバケの皮を剥ぐためにここ死の海域へやってきたのだ。パネラ、テオ、ドーゴンボー、ミネルヴァ4つの恒星に囲まれた死の海域は、別名魔の四面体とも呼ばれ、この70年間に150件の遭難をひきおこし多くの人命をのみこむ魔界と化していた。事故の際には、青い人型の光が目撃されるという。それは宇宙空間をさ迷う幽霊なのか?自滅の恐れと戦いながらもミニ・スーパーノヴァの使用を決めた二人。成算はあるのか?ネコとノイズ、殺戮のファイル一挙公開。
佐古田組の佐古田史朗は弟分の島孝一を連れて、東京から雪の札幌へ乗り込んだ。ゴルフ場で急死した会社社長がメンバーズロッカーに隠しておいて税金のがれのための二重帳簿が盗まれ、遺族から捜索を依頼されたのだ。犯人と目される仙頭昭のマンションを突き止め侵入するが、彼は何者かに殺害され、目的のものは持ち去られていた。誰かが上前をはねたのだ。冬の札幌で繰り広げられる哀切な長篇ハードボイルド。
赤新聞の記者として恐喝まがいの仕事で金をかせいでいた武田進は、一転してデトロイト3大自動車メーカーの一つ、クリンガー社の秘密工作員になった。しかし武田は、東和自動車工業に対する卑劣な乗っ取り計画に耐えきれず、全てを暴露し、告発すべく反旗を翻した。だが、その結果は愛する妻の鮎子と一人娘の鱒子の惨殺だったのだ!!怒りと憎悪に燃えた武田はたったひとりで米国資本とCIAに戦いを挑む。長編ハード・ヴァイオレンス。
吉田松陰と高杉晋作。この2人の生涯をたどれば、明治維新の概略を知ることができる。アヘン戦争、ペリー来航、安政大獄、攘夷戦、長州征伐…極東に延びてきた世界史の触手や、顕現化した幕政矛盾と直接、間接に関わりながら、松陰と晋作の人生は展開されていった。安政4年秋、松陰と晋作の運命的な出会いから、歴史はかすかな屈折を始めた。松陰・晋作の生涯に維新史を重ねた力作長篇。
11月のある夜、〈私〉は殺人を目撃した。被害者が死の寸前に呟いたのは“奈落…”だった。この男、レナードの兄ケネスも、半年前に転落事故で死んでいる。が、レナードの恋人“トム”は、二人が同一犯人に殺されたと主張し、〈私〉に真相究明を依頼してきた。兄弟の周囲は怪しい人物ばかり。事件の鍵を握る男が見つかったとたん、罠にはまり〈私〉は半殺しの目にあった…。好調“名無しの探偵”シリーズ最新作。
ぼくは大学生で、両親と姉の四人家族。姉は会社勤めを辞め、何度か見合いをしたが、結婚までにはいたらない。その姉が驚くことにコンピューターで結婚相手を見つけてきたから大騒ぎ。一方、ぼくは恋人と特別な理由もないまま、喧嘩別れしてしまうが…。姉の結婚式の一日とぼくと彼女の関係を、瑞々しい感性とユーモア溢れる筆致で描写した書下し長編小説。
中世ヨーロッパを遍歴し、近代民衆文学を生み出した吟遊詩人たち。現代ヨーロッパでは消え去ったその伝統が、今なお息づくブラジル。小冊子リテラトゥーラ・デ・コルデルを通してブラジル民衆文化の深層にせまる。
見知らぬ男から完全犯罪殺人の方法を囁かれた坂田陽三。彼は酔った勢いで上司の藤田を殺したいと洩らす。その数日後、藤田が突然心臓麻痺で死亡し、陽三宛てに殺しの請求書が送られてきた。殺人の報酬に対し支払いを拒否する陽三だったが、恋人の殺害が警告され、その彼もまた…。窮地に追い込まれた陽三は、男の正体を探り、殺し屋組織の存在と驚くべき手口を掴むがー。奇抜なトリックを駆使した本格推理。
小松公太郎は、京の宿に泊まり、女将のみやびに会う。2人は前世から運命の糸で結ばれていたような錯覚を感じた。小松は作家で自分の作品が映画化されるため、その後も古都を訪ねるが、身も心もみやびに惹かれるばかり…(「恋人みやび」)。人間なら1度は体験したい、ふと巡り会い、燃え狂う愛の様相を全9編の視点から活写。
「戦とは策なり。戦わずして勝つ事なり」-愛する木曽義仲の身を守る女武者巴御前は、海内無双の勇者であるだけでなく、常に策を巡らすことをも心掛けた。これは天下第一の美女、波瀾の合戦記である。
戦火のアフガニスタン。白旗を掲げ、ヒンズークシの渓谷を登るソ連軍のジープ。車上には、寒村の教師として赴任している妻ポーラを迎えにきたヤクーシェフ大佐がいた。だが、母国と夫に不信の念を抱き、今は反政府ゲリラの首領ハーンに思いを寄せる彼女は同行を拒絶。警告を残し、大佐は去った…。-武装ヘリの機銃掃射、山々に谺する砲声。村は潰滅し、ソ連兵の凌辱を受ける女たちのなかにポーラがいた…。
“聖戦の時は満ちたり!敵を殱滅せよ!”地下抵抗組織〈百合〉を率いる謎の女。神託を下す彼女の身には、預言者マホメッドの子が宿っているという…。-ハーンを指導者とする反政府ゲリラの勇猛果敢な抵抗、思想教育に送り込まれたロシア人女性ポーラの数奇な運命、その夫ヤクーシェフ大佐の野望、紛争を取材するイギリス人カメラマンの心の葛藤…。ソ連軍侵攻直後のアフガニスタンを舞台に展開する感動のスペクタル巨編。