1990年4月発売
「すべての財産を美しい妻クリサに遺す」結婚式の興奮も醒めやらぬ間に急死した夫サイラスの遺言は、クリサにとって青天の霹靂だった。男爵の父の借金の肩がわりを条件に、アメリカの大富豪サイラスと結婚したクリサだったが、父も死んだいま、クリサにとって巨万の富は無用の長物だった。故郷に帰りたい-。すべてを捨て、傷心で、イギリスに向かう船トレーヌ号に乗りこんだクリサに、思いもかけない事件が待ち構えていた。
修道院学校に通う16歳の娘トリスタは、ものごころついたときから、実は義兄のフェルナンドにひかれていた。しかし、そんなトリスタの気持ちを見透かすように、多感な友人、マリー=クレアはかれと婚約してしまう。ふたりの挙式も間近になったある日のこと、伯母の家で、トリスタは突然フェルナンドに襲われる。トリスタの母に恋していたかれは、その恨みを義妹のトリスタではらそうというのだ。ウォントン-多情な女。母はそうだった。しかし、わたしは-激しい拒絶に、かれは引き下がるが、その様子を見つめるひとりの男がいた。
フランスで外科医となったトリスタは、カリフォルニアに向けて船上の人となった。それも女性客を嫌う船長の目をくらますために男装をして-。ある夜、男装をといて甲板に出たトリスタは、忘れられない人、ブレイズと再会する。思いを振り切るかのようにしたたかに酔い、自ら女性であることを明らかにしてしまったトリスタ。ブレイズはそんな彼女を責めながらも、トリスタは自分の妻だと船長に偽り、男装は浮気のあてつけだったとかばうのだった。その証しのために、ついにふたりは結婚式をする。それが悪夢の始まりだとも知らずに-。
故郷の土佐を出立して江戸は京橋桶町の北辰一刀流千葉貞吉道場へ入門した坂本竜馬は、いまだ19歳の夢多き青年であった。“魔羅”もでかけりゃ“夢魂”もでかい。野放図な竜馬のその人並みはずれた言動は、“ほら吹き竜馬”の異名のとおり、ことごとく道場仲間のど肝を抜く。だが、図らずも時代はこんな男の出現を必要としていた。相州捕賀の沖に異国の“黒船”がやって来たのだ!騒然たる風雲の中を、若き竜馬はゆくー。竜馬の青春を彩る女性は、千葉道場の美しい娘さな子、札差屋の女まさりお富士、そして郷里の幼なじみの妹の加尾、さらには新橋の美妓小蝶と多情多彩。-竜が天駆ける夢の中から生まれ出て、維新回天の原動力となる“天下の傑物”、でかい男の痛快青春物語。
ここはいずこの国であろうか、唐か天竺か。風吹き荒れる嵐の山頂に出現した白髪白髯の老仙人の手から、一振りの長剣が暗黒の空へと投げ上げられた。と、不思議なことに、その長剣は十振りの剣に分かれ、東西南北の各方面へと飛翔していったのであった。それぞれが持つ帯刀の中心に飛竜丸と銘の入った名刀の魔力に操られて運命の出会いを果たす戦国の若者たちー猿飛佐助・霧隠才蔵・由利鎌之助・穴山小助ら十人の武芸者たちがそろって信州上田城の知将真田幸村配下に集結してきた。これぞ魔剣飛竜丸の奇しき因縁によるものであった。-真田十勇士誕生を新解釈で描く会心作(「魔剣飛竜丸」)、黒田騒動を背景に、下級侍十郎太とその愛犬の運命は?(「いぬ侍」)他、全7編収録。
ピクウィック氏は波乱にみちた遍歴を終わり、今は落ちついた毎日である。体は少し弱っていたも精神は若々しく人々の敬意を集めている…。すべてのいざこざも収まり、おだやかな雰囲気のうちに、このイギリス文学を代表する小説は幕となる。
作中人物を殺さずにはいられない作家、一日おきにしかこの世に存在しない男、細君とその両親を射殺した夫、自分の銅像を見あげる不幸な発明家…など、マルタン君という名の多様なキャラクターが繰りひろげる九つの物語。空想と現実の間をさまよう、心優しい小市民の、哀しくもおかしい世界。
ジョン・ロークは生き別れになった妻子を探して、第3次世界大戦後の荒廃した世界を旅するうち、奇妙な町に行きついた。そこではまるで戦争などなかったかのように、平和そのものの暮らしが営まれていたのだ。店ではごく普通に商品が売られ、ガソリンスタンドではちゃんとタンクを満タンにしてくれる。しかし、どこかが、ほんの少しおかしかった。
ロー・スクール卒業後、わたしウィラはサンフランシスコにある左派の法律事務所に就職した。むろんまずは離婚訴訟に酔っ払い運転の弁護から。だが平凡な日々はすぐ終わりを告げた。眼前で事務所のボスを毒殺されたわたしは、過去に根をもつこの事件の解決へむけ悪戦苦闘することを余儀なくされたのだ。60年代への鎮魂歌を奏でる注目の第二弾。
強制移民たちが送り込まれた惑星ハーヴモーク。人々は4地球年も続く猛暑の夏を避け、季節ごと両極間を移動しながら生き続けてきた。だがこの年かつてない非常事態が発生する。地球人技師クロジックの指揮のもと、彼らは巨大地上車によるコンボイを組み、生存を賭けた惑星縦断の踏破行に出る。が、行く手を阻むのは苛酷な自然ばかりではなかった。