1990年発売
堅固な絆と規律によって統率され、膨張をつづける新選組。尊王攘夷を唱える浪士を斬り、脱盟する同志に制裁を加えることで隊の存在を示威していた。だが急速に勢力を拡大し、薩摩藩と連合を組んだ長州藩は、近藤勇や土方歳三の思惑を無視するかのように不穏な動きを見せる。時代が大政奉還へと動き出すなか、かたくなな姿勢を貫き通す新選組は勤王の波に圧されながらも、鳥羽伏見の戦場へと駆り立てられていくー。
八木沢順(13歳)が父・道雄と二人だけの生活をはじめたのは、ウォーター・フロントとして注目を集める隅田川と荒川にはさまれた土地だった。道雄は警視庁捜査一課の刑事。そのころ町内では、“ある家でひと殺しがあった”という噂で持ち切りだった。はたして、荒川でバラバラ死体の一部が発見され…。さわやかな筆致で抉る現代社会の奇怪な深淵、サスペンスと、ほのぼのとした情感とを見事に融合させた新感覚の本格推理秀作。『魔術はささやく』で日本推理サスペンス大賞を受賞した新鋭が、満を持して書き下ろした受賞第一作。
1年前の冬、「マリア様はいつ帰るのか」という言葉を残して自殺した兄・公一の死に疑問を抱く女子大生ナオコは、新友のマコトと兄の死んだ信州白馬のペンション『まざあ・ぐうす』を訪ねた。マザー・グースの唄に秘められた謎。ペンションに隠された過去とは?暗号と密室トリックの謎に挑む、気鋭の本格推理力作。
首のない男と女が激しくからみ合ったり、マンションのエレベーターが化けものだったり、死んだはずの女につきまとわれたり…。また見知らぬ婦人から預かった、奇妙な人形がまきおこす、多感な少年が体験した異常な世界。いずれも夢が幻か、はたまた妄想の産物か。凝った趣向と絶妙な話術で、あなたを虜にする恐怖小説集。
特殊部隊・砦洋介二佐の弟平介が、シンガポール出張中に銃撃され重傷を負った。平介は最先端技術セラミックスの研究者だが、対共産圏輸出統制(ココム)違反の疑いをかけられているらしい。砦は仇討ちと真相究明のため現地へ飛んだ。-軍事目的に転用できるハイテクをめぐる、壮絶なスパイ戦!砦はその渦中で闘った。
戸根市にはびこる二つの暴力団・北浦組と大門組は、ことごとにいがみ合い、まさに一触即発。そんな時、北浦組の組長が何者かに殺害された。果たして殺害現場で電話をかけたのは犯人か?(表題作)奇術師としても高名な著者ならではのトリックを各作品にちりばめ、あなたに挑戦する“犯人捜し”。推理ファン必読の珠玉の短編集。
父にまさる大器として家臣の信望厚く、江北の地に毅然と立つ長政は、天下人を目ざす織田信長の妹・お市を娶り、同盟を果たすが…。亮政ー久政ー長政と三代つづいた浅井家の興亡を描いた長編歴史傑作小説。
小さな蜘蛛の咬み合いが、多くの人々を狂わせる(「蜘蛛の夢」)、釣った魚の腹から出た封筒の女文字が、男女変死の謎にからむ(「有喜世新聞の話」)-今なお古くならない綺堂作品には、貴重な風俗資料が一杯。(十二編)
一葉の白黒写真。4人の若者はベトナムの戦場で生死を共にする親友同士。それから20年…。ベトナムのタイ侵攻阻止の命を受けて現地に潜入したCIA工作員パーカーがバンコクで失踪した。旧友の後任として〈ドラゴンファイヤー作戦〉を完遂すべく思い出の地に戻ったソーヤー。タイ、黄金の三角地帯、そしてカンボジア…麻薬と裏切りと殺戮の地で、ソーヤーは何を見たか。-ダンテの『神曲〈地獄編〉』を彷彿させるバイオレンス・アクション。
明治の末、貧困にあえぐ四国の寒村で、若者たちは、一撹千金の夢を賭けて、アメリカ密航を企てる。アメリカでは1年で日本の10年分を稼げるという噂を頼りにして…。10人の男女は、四国を出帆する。まるで海に放たれた凧のように、不安いっぱいの前途である…。奇想天外の冒険ロマン。
長女由加の高校進学をめぐって、この物語は始まる。由加は、ある国立大学の付属中学三年であるが、成績が思わしくなく、付属高校へは進めない。父親は、この国立大学の助教授。昔ながらの教育の理念を追う信念の人である。長女の成績に悩む妻に、ある情報がはいる-。必死の想いで夫に頼むが…。長女は成績のダウンで自暴自棄。追いつめられた妻は、長女の学校の教師と…。やがて夫はいままでの家族への認識が問違っていたことを思い知らされるのである。受験期の娘をもつ家庭の崩れゆく生活を描く。
ケイティーは目の前の新聞にため息をついた。ケイティーの離婚1周年記念パーティ。友だちからのプレゼントは新聞に「恋人募集」の広告を出すことだった。そんなことをしたって無駄よ。だって、私の気持ちはもう決まっているのだから。ロス・チャンドラー。ケイティーのボス。たくましい体にシトラスの香りが麗しい。しかし二度と結婚しないと宣言した男。ロスは、この広告を見たらどう思うだろう。その時、オフィスのドアが開き、ロスが入ってきた。
吹雪のメソー谷。雪で動けなくなってしまったエミリーは車中で途方に暮れていた。「おい、大丈夫か?」男の声にエミリーはほっとした。だがその声には聞き覚えがある。カル・マクドナルド。わたしが19の時に思いをつのらせた男。しかし、その恋は苦い思い出となってしまった。エメラルドグリーンの瞳は、以前にも増して輝いていたが-。
「すべての財産を美しい妻クリサに遺す」結婚式の興奮も醒めやらぬ間に急死した夫サイラスの遺言は、クリサにとって青天の霹靂だった。男爵の父の借金の肩がわりを条件に、アメリカの大富豪サイラスと結婚したクリサだったが、父も死んだいま、クリサにとって巨万の富は無用の長物だった。故郷に帰りたい-。すべてを捨て、傷心で、イギリスに向かう船トレーヌ号に乗りこんだクリサに、思いもかけない事件が待ち構えていた。
修道院学校に通う16歳の娘トリスタは、ものごころついたときから、実は義兄のフェルナンドにひかれていた。しかし、そんなトリスタの気持ちを見透かすように、多感な友人、マリー=クレアはかれと婚約してしまう。ふたりの挙式も間近になったある日のこと、伯母の家で、トリスタは突然フェルナンドに襲われる。トリスタの母に恋していたかれは、その恨みを義妹のトリスタではらそうというのだ。ウォントン-多情な女。母はそうだった。しかし、わたしは-激しい拒絶に、かれは引き下がるが、その様子を見つめるひとりの男がいた。
フランスで外科医となったトリスタは、カリフォルニアに向けて船上の人となった。それも女性客を嫌う船長の目をくらますために男装をして-。ある夜、男装をといて甲板に出たトリスタは、忘れられない人、ブレイズと再会する。思いを振り切るかのようにしたたかに酔い、自ら女性であることを明らかにしてしまったトリスタ。ブレイズはそんな彼女を責めながらも、トリスタは自分の妻だと船長に偽り、男装は浮気のあてつけだったとかばうのだった。その証しのために、ついにふたりは結婚式をする。それが悪夢の始まりだとも知らずに-。