1990年発売
四十年前に殺人を犯し、ネヴァダ砂漠に消えた祖父を捜してー私立探偵ロスの許を訪れた美しい娼婦の依頼は、雲を掴むような話だった。友人の老人からも乞われ、ロスは過去の事件を洗い直しはじめた。が、その直後に老人が何者かに殺され、娼婦も謎の失踪を!静寂と諦念が支配する砂漠の町を舞台に、現在と過去の殺人を結ぶ悲劇を描く正統派ハードボイルド。
1990年夏、シリア人パイロット、モハメド・アスリが偽造パスポートでニューヨークに潜入した。ある大きな陰謀に参加するためだった-アメリカ大統領に関わる、かつてない大胆不敵な陰謀に。1986年のアメリカのカダフィ襲撃に対する報復に何度か挫折したリビアは、ひそかにある計画を進めていた。ブッシュ大統領を誘拐して人質にとり、アメリカ側の非を世界の前に認めさせようというのだ。実行者に選ばれた男は、なんとアメリカ人だった。ジー・ハーディ-元海兵隊の凄腕パイロット、元傭兵、現在は麻薬密輸業者。『偉大なるギャッビー』にちなんで″ジー″とニックネームをつけられた魅力的なこの男は、自らのヴェトナム体験と息子の非劇的な死によって、アメリカ政府に深い憎しみを抱いていた。5千万ドルでブッシュ大統領誘拐を請負ったハーディは、周致な準備工作にかかった。
秋の議会選挙の大統領遊説に照準を絞ったハーディは、リビア側にも計画の詳細を知らせずに着々と準備を進めた。大統領専用機エアフォース・ワンが彼の狙いだった。いかにして空飛ぶホワイトハウスを襲うつもりなのか?ボーイング707を手に入れ、アスリに戦闘機訓練を課し、亡命キューバ人グループと接触し、サンフランシスコにマンションを借り-こういった下工作がどう結びつくのか?意表をつく鮮やかなプロット、スリリンぐな航空シーン、追う側と追われる側の男たちの不屈の闘志。すぐれたストーリーテリングと該博な知識を持つ作家と、元エアフォース・ワン機長の、みごとなパートナーシップが生んだ航空冒険巨篇。
ベルギーの古城で次々に起こる異様な惨劇には恐るべき秘密が隠されていた。戦慄の心理描写とプロット全体に潜む驚天動地のトリックとは…?鬼才が2人称で綴る書下し・殺人幻想詩篇。
隣室から夜ごと漏れ聞こえてくる女のあえぎ声…亀谷史崇は今夜も聞き入っていた。斎王谷澪子というのが、声の主の名前だった。しかも相手の男はいつも違っている。ある日、史崇は彼女がテレビ局のアナウンサーであることを、偶然にテレビの画面で発見していたのだった。今夜はとくに激しい男女の睦言がいつしか暴力的になり、奇妙な音が部屋を充しはじめた気配が伝わってきた。翌朝、史崇は、彼女が懸命に洗いものをする姿に出くわしたが…。忘れ去られた伝説が都会の一隅に甦る恐怖とサスペンスの書下し。
冬は閉ざされている立山-扇沢ルートが開通した日、登山姿の男女が室堂に降り立った。男は山村秋行、精神科医であり、女は患者の沢村淑美だった。未だ白銀の剣岳を目指す2人は、別山平で1泊、源治郎I峰下部岩壁でザイルを結び合った。まっ黒な岩壁が眼前に立ちはだかり、ハングと垂直の連続する壮絶な佗立は圧倒的である。数カ月前まで、淑美は夫殺しの容疑者だった。保険金目当ての殺人放火という嫌疑は精神鑑定の結果、過度の飲酒による病的酩酊とされ、無罪を勝ちえたのだが…真相はザイルに賭けられた。
20世紀初頭、帝政打倒を叫ぶ革名党の動きが激化するロシア。首都ペテルブルクに駐在する海軍少佐・広瀬武夫は、日露開戦に備え軍事情報の蒐集にあたっていた。しかし公式身分のため表立った行動がとれず、政府は配下に民間人の北沢を起用する。北沢は過去を隠す謎の人物だったが、諜報活動は着実に成果を上げた。ある日広瀬は北沢と共に一人の革命家を訪ねるが、思いがけない殺人が起きる。長篇ミステリー。
埃っぽくて薄暗い、カルカッタの大真珠ホテル。この最下級の木賃宿には、インドを陸路で渡る旅人が集まる。作家の加田、噂好きの小田黒教授、若冠二十歳の幸丸くん、肝炎に臥せるプロちゃん、傲岸不遜の狂犬病氏、精霊と話すエスメラルダ…。一握りの金持の裏側の貧困。不可触民がたむろし、様々な病のはびこる混沌の国に、日本とは異なる時の流れや活力を見出した人々の生き様を鮮やかに描く傑作長篇。
一刀流の達人番匠谷吉三郎、昔は千石取、天下直参の若殿だったが、今は浪人。大望を秘めて、巾着切だの、夜鷹宿のおやじだのを子分にして、江戸は本所ぐらし。悪事はしても非道はせず、弱い者には大の味方、悪党どもには、坊っちゃん吉三、お坊吉三、と恐れられた。その吉三郎を頼って来たのが、売り出し中の女役者小染、実は仇を討ちたいのだとの訴え、有無なく承知したのも理由があった。痛快時代長篇。
ソ連のリガからイギリスに運ばれるはずのプルトニウム239がコンテナごと盗まれた。兵器コングロマリット〈ストラトス〉の仕業だ。ヨーロッパの核兵器廃棄構想、すなわちゼロ・ゼロオプションの陰でアルバニアに核を売ろうとしているトラトス基地を破壊するため、英米ソの諜報員が決死の潜入を試みるー。不世出の冒険小説作家アリステア・マクリーン原案。陰謀と闘う男たちの姿をスリリングに描く傑作。
津軽の13歳は悲しいーうつりゆく東北の四季の中に、幼い生の苦しみをみずみずしく刻む名作「木橋」、横浜港での沖仲仕としての日々を回想した「土堤」、および「なぜか、アバシリ」を収録。作家・永山の誕生を告げる第1作品集。
流れる水、波立つ水、あるいは光り、たぎる水。さまざまな水の相を背景に、家族、男と女、また母と娘たちがたどる危うい生の実相を、迫真の筆致で刻みだした連作集。水がわたしに落ちてくる、早く眠らなければ…。
カクテルへのこだわりが殺人を招き、1杯のブランデーが秘密めいた物語を思い出させる。バーガンディやボルドーの豪華なワインの利き酒の裏で繰りひろげられる国際的陰謀に、5杯目のスコッチが明かす殺人のトリック…。エリン、コリア、ミルン、セイヤーズ、シスク、ブロックマン、ホールディングら13人の短篇の名手が描く、熟成した美酒をめぐる様々な犯罪の芳香。