1991年発売
また一人、奇妙な傷を負った死体が発見された。槍穂高連峰涸沢岳の岩稜ルート、通称「飛騨泣き」で、腹部に横一文字の切り傷を刻んだ転落死体が、4件続いた。どの死体にも傷口に生体反応がなく、明らかに死後のもので、傷の幅は約3ミリ。被害者らに繋がりはなく、長野県警豊科署の道原刑事は、怨恨による無差別殺人と断定したが…。長篇山岳サスペンス。
倉庫から焼跡から撲殺された男の焼死体が発見された。色めき立つ捜査陣。だが、残されていた手がかりは“寺村久作”という男の名前だけだった。男の身元は?戸籍すらない男“寺村”の影を求めて必死の捜査は続く。そこへ女の声で電話があった。身元不明の男が近所に住んでいた“寺山”ではないかというのだ。二人が同一人であるという可能性は高いのだが…(「死者の証明」)。他五篇。
大蔵省事務次官・冬村国治は、財政再建に不可欠として、大型間接税の導入に意欲を燃やし、大蔵の決意を示すため、次の事務次官に異例の人事を用意した。が、冬村の構想に、前首相の梅里が反対の意向を表明した。人事権は官僚の牙城であった。全局長の辞表を携えて直談判におよんだ冬村に、梅里は意外な条件を出してきた(「大蔵省次官室」)。第一線で苦闘する管理職達を描いた異色作品集。
人類が辿り着いた最後の街・世紀末都市。だがそこは文明の廃棄場だった。鳴りしきるサイレン、崩れた裏通りを彷徨う男達、殺し屋、刑事、バーテン、タクシー・ドライバー…。悪魔の薬P2で幻覚を起こした患者が、凶悪犯罪を重ねた。刑事達は街の闇を縫って、P2密売の大物らを追跡したが、目指す相手は次々に死体となって転がっていく。黒幕は?P2蔓延の狙いは?著者初の本格ハードボイルド。
幸せはただひとつ、例外を愛すること。月と木靴、天と地とのはざまで、その心はいくども引き裂かれた。しかし、彼女は生涯、並はずれたものへの夢を織りつづける旅人だった。ミュッセ、ショパンら多くの男たちとの奔放な愛、男装のフェミニスト、二月革命のミューズと、スキャンダラスな呼称に彩られたサンドが一生を通じて真に追い求めていたものは何だったのか、画期的視点から描く伝記ロマン。
イギリスの中産階級に生れ、オクスフォードを出た青年ニコラス・アーフェは、すでに人生にある種の虚しさを感じていた。ある女性とのエロティックな恋が終ったのをきっかけに、英語教師としてエーゲ海の孤島に渡る。そしてそこで不思議な老人コンヒスに出会う。次々と起きる、複雑怪奇な出来事…。サスペンスあふれる恋愛小説、冒険小説、そしてオカルティズム哲学の稀有な物語。
悟空の秀吉は、前田犬千代の猪八戒、河童忍びの沙悟浄、蜂蜘蛛党の小六と共に、松平竹千代(後の家康)に化けた七匹の豆狸妖怪を使い、今川の人質となる前に信長と密約を結ばせんと計る。めざすは天下布武の剣を揮っての似非仏殺、穢土破壊と希求浄土であった。曳馬城の希沙姫に憑いた猿掛神社の本尊キサル姫にぞっこん惚れられ悟空は再び五台山へ…。
“博多どんたく”の群衆の中と、翌日の上り特急「あさかぜ」の中で男が次々と刺殺された。「まつお」というダイイングメッセージから同じ車輌に乗っていた共通友人松尾浩史への容疑が深まっていった…。二つの刺殺事件の接点を求めて捜査は二転、三転し、やがて犯人を追いつめるが、捜査人の前に二重密室の完璧なトリックが重くのしかかってくる…。
上山公一郎の惨殺写真を見たとき、修羅場には馴れている女探偵・元織緋佐子でさえ、思わず目をそむけた。これが東大医学部名誉教授・文化勲章受章の威厳に満ちた老紳士なのか。-まるで仁王像のように目を見開き顔を血で赤黒く染めている。しかも千手観音像のように十数本の竹槍で突き刺されていた。さらに上山家では長男の公人も自殺、孫の高校生唯人には家出癖がある。呪われた一家には、どんな秘密が隠されているのか?周到なトリックと衝撃の大どんでん返し。未婚の母でキャリア・ウーマンの緋佐子が大活躍する、著者会心の書下ろし新・探偵小説登場。
天下に威名をはせた武将織田信長が、腹心明智光秀に焼き討ちにされた戦国時代最大の謀叛・本能寺の変-。しかし、炎の跡にその遺体はなかった。月刊誌「歴史日本」に執筆する高校教師・岩井康彦は、担当編集者の戸木田いずみに奇妙な謎を投げかけた。“信長は本能寺を脱け出て、ある場所に生きのびたのだ”山のスパイ・伊賀の忍者や伊集院の虚無僧の密命、海の逃避行ルート、鉄砲伝来の秘史、徳川家康と島津藩の不可解な関係-。散り散りの史実の断片を綴り合わせる二人の前に現われた、四百年前の意外な「真実」とは。“周知の事実”のほころびを見逃さぬ著者が、眼光鋭く歴史の裏の裏を焙り出した、長編歴史推理小説力筆。
詐欺商法でのし上がった悪徳会社「シルクハウス」の会長が殺された。捜査陣は対立していた専務・工藤をマーク、しかし、彼には鉄壁のアリバイがあった。工藤有罪を信じる刑事・沢月は、執念の捜査の末アリバイを崩し、工藤を逮捕。若き美人弁護士・槙村ゆり子は、工藤の無実を証明するため、法廷で検察側と真っ向から対立するが…。気鋭の新境地。本格推理秀作。