1993年11月10日発売
セックスがらみの揉めごと解決屋・氷室凍馬のもとに、名門の誉れ高い薔薇百合女子学園理事長・新藤有美が訪ねてきた。その依頼とは、同校の生徒が麻薬欲しさにアルバイトで売春をしているという密告の真偽を確かめることであった。思念によって性感を刺激し、めくるめく快楽の波に乗せて人物を自在に操る淫導術。その奥義を極めている凍馬は、売春を名指しされた十六歳の美少女・松尾香苗を待ち伏せし、彼女の奔放なまでの欲望に超絶性技で応えてやる。だが、香苗は売春組織の実体を知らず、ある衝撃的事実のみを語った。
安政二年の秋、甲州身延山の盆割りのことから、津向の文吉と武井の安五郎との間に喧嘩が起ころうとしたとき、双方無事に丸く収めたのはいま売り出しの親分清水の次郎長であった。しかし、このために次郎長は凶状旅となり、大政・小政らの子分とも別れ、独り旅に発っていった。不運に見舞われた次郎長であった。兄弟分の見付の友蔵一家に草鞋をぬいだ次郎長は、そこで女房お蝶と子分の森の石松とに出会って驚いた。旅先で苦労する親分次郎長の苦境を救うべく、石松はかつて次郎長に恩を受けた保下田の久六を訪ねた。ところが、久六は次郎長召捕りに向かった。遠州森町生まれの片目の快男子森の石松の最期まで、ベテラン木屋進の筆で痛快な物語が展開する。
経済的に破産した高圧的な父親と、精神的に破綻した息子、失われた美しい母親。ローマからミラノへ向かう旅の中でたどられてゆくはかない思い出。その道中で、いまだに青春の残照から抜けきれずにいる三十歳の息子が、父親に対して試みる一世一代でささやかな復讐劇。
学校剣道に先行して道場剣道が主流をなした時代がかつてあった。東京・本郷にあった有信館は、神道無念流根岸信五郎の後継者となった中山博道がながく主宰した道場で、剣道・居合道・杖道、あわせて三道の範士だったかれの門下からは、明治(後期)・大正・昭和(前期)にわたって多くの俊秀が巣立ち、わが国の剣道界に一大剣脈を形成した。この有信館を舞台に、剣道に情熱をかけた有名無名の剣士たちの若き日のロマン。