1996年9月10日発売
芸妓村上八重と著者との三十年にも及ぶ恋愛を題材に小説家牧と芸者三重次とが互いの人生の浮き沈みを越えて真摯な心を通わせ合った長い歳月の愛を独得の語りくちで描いた戦後の代表作・読売文学賞受賞「思い川」、なじみの質屋の蔵の中で質種の着物の虫干しをしながら着物に纒わる女たちの思い出に耽る男の話・出世作「蔵の中」、他に「枯木のある風景」の三篇を収録。
重い血の記憶がよどむ南紀の風土のなかで原始的な本性に衝き動かされるままに荒々しい生をいとなむ男の姿を、緊迫感溢れる文体で描く短篇集。若い女との気ままで怠惰な生活をなじられ、衝動的に両親を殺すに到る表題作の他、「荒くれ」「水の家」「路地」「雲山」「荒神」の六篇を収録。
摩周島は八丈島から船で2時間あまり、伊豆諸島の絶海の孤島である。人口は243名、ゆえに島民はみな知り合いという、平和な土地だった。ゴールデンウイークを恋人・多貴の暮らすこの島で過ごすために敬史朗はやってきた。だが、彼の到着直後、人々から御神木と呼ばれる桜の古木が何者かによって傷つけられる事件が発生。そして、次々と残酷な事件が!島民の間に不穏な空気が広がる。その矛先はなぜか、鋭敏な感受性と複雑な出生の事情を持つ夕貴の姪・明日香に向けられていた。
ハイミスおばさんにせまられまくる優柔不断な青年、浮気な年下男を思い切れない三十女、キャリアウーマンがたまたま第一回目の見合い相手に出会うがまたもやケンカが始まり…。うまくいきそうでいかない、駄目に見えてそうでもない男女の仲を描いて冴えわたる、著者会心のナニワのラブ・ストーリー六篇。
意外なきっかけで知り合った男は画家だった。繊細な指、しゃれた服装、そして胃を病んでいる。丈夫で平凡なサラリーマンの夫とは何から何まで違っていた。魅力的な男の出現に揺れる微妙な女心を描いた表題作の他、温かくてちょっとホロ苦い向田ドラマの秀作「びっくり箱」「母上様・赤沢良雄」を収録。