2002年5月31日発売
「おれを殺したりはしないよな?」「だめか?」「やめてくれ。永久にムショ暮らしだぞ!」「おれはまだそれほど歳じゃない。何年か無駄にしたっていいさ」殺人罪で11年の刑務所暮らしを終えた元私立探偵のクルツは、すぐにファリーノ・ファミリーのドンの邸宅を訪れる。高齢のドンが負傷して以来、弱体化してしまったファミリーのトラブルを解決してやろうというのだ。1カ月前、ファミリーの内情を熟知している会計士が失踪した。時を同じくして、ファミリーの生命線である密輸事業に妨害が頻発する。荷物を運ぶトラックが次々とハイジャックされるのだ。対立組織の差し金か、FBIの介入か、あるいはファミリー内部の裏切りか。背に腹はかえられないのか、ドンはクルツのオファーを受け入れる。だが、調査に着手したクルツの背後に、早くも殺し屋の影が…。正義か?悪か?鋼鉄のハートと腕っぷしで街の暗部を叩き切る、非情の男ジョー・クルツ。SF&ホラーの鬼才が挑む、ハード・アクションの会心作。
ボストンの情報提供会社で出世街道を歩んでいた40歳のビル・チャーマーズは、ある夏の朝、通勤途中の地下鉄で、突然下車すべき駅名も自分の会社名も、自分の名前すら分からなくなる記憶喪失に襲われる。覚えているのは「最小の時間で最大の情報を」という会社のモットーだけだった。深夜、浮浪者のように町をさまよったあげくビルは記憶を取り戻し、インターネットのチャットで“大学教授”と不倫する妻といつもEメールで語りかけてくる14歳の息子の待つわが家へ帰り着く。が、ビルの悪夢は始まったばかりだった。この日をさかいに、ビルの両手の感覚がなくなりはじめ、原因不明の麻痺はさらに足から全身へと進行していった。病院はビルに無数の検査を施し、つぎつぎと新しい医者を紹介するものの、決して診断を下そうとしない。そしてついにビルは会社をクビになる。サラリーマンを襲った悪夢と悲劇をカフカ的世界を通して描いた全米図書賞候補作。
「あの年の夏祭りの夜、浜から来た少年カムロミと恋に落ちたわたしは、1年後の再会という儚い約束を交わしました。なぜなら浜の1年は、こちらの100年にあたるのですから」-場所によって時間の進行が異なる世界での哀しくも奇妙な恋を描いた表題作、円筒形世界における少年の成長物語「時計の中のレンズ」など、冷徹な論理と奔放な想像力が生みだす驚愕の異世界七景。日本ホラー小説大賞受賞作家による初のSF短篇集。